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結 新しい日々がはじまる
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「今日からお世話になります、マリアです!」
挨拶をするとぱちぱち、と拍手が飛んだ。
「施療院の仕事の話は姉から聞いていましたが、実際の経験は無いので、よろしくお願いします!」
またぱちぱちと。
治療士の一人である姉、シリアと、その夫である元子爵ファゴット氏が、事務方の主として見守ってくれる。
あの火事から三ヶ月経っていた。
*
火事の後、エリアお姉様が侯爵家の代表として、司法省にお父様のしてきたことを告げた。
お母様の手紙には、お父様のしてきたことに関する資料を隠してある場所が書いてあったのだ。
「あえて私の方の棟に隠しておいた辺りがあの方は知恵が回っていたのね」
エリアお姉様はそう言った。
「貴女の側の棟は、場合によっては焼け落ちてしまう可能性が大きかったし、まさか立場的に敵対…… とまでは言わずとも、決して仲が良かった訳ではない私の近くに置いておくとは侯爵も思わなかったのでしょうね」
それがシリアお姉様の処刑予定の前日だった。
シリアお姉様はそのまま、皇女殿下のはからいにより、例の薬屋の空き部屋の方に移された。
その時にはフレスティーナ様のはからいで私も付き添った。
一週間とは言え、監禁されていたことで出た疲れをそこで癒やし、次に移動したのは、施療院の方だった。
「シリア様!」
メルダが既にそこの制服を着て待ち受けていた。
「ああ…… ご無事で何よりです」
「色々心配かけた様ね」
「心配は致しました。本当に、正直あの火事が無かったらと思うと……」
そう。
火事というのは大きかった。
そしてまた、毒を扱うではなく、利用する真犯人であったお父様が消え、証拠は提出されたということ。
シリアお姉様はあくまでお父様の道具に過ぎなかったということ。
加えて最後に、皇女殿下の一声があった。
「そもそもシリアは私の施療院にとって欠かせない人材。私に危害を加える理由が無い!」
侯爵が生きていた時点ではそうは言い切れない事情があったらしいが、私にはその辺りはよく判らない。
ともかくシリアお姉様はそれで助かり、これを機に家の方は完全に離れることとなった。
そしてまた、ファゴット子爵が、子爵位を弟君に譲り渡し施療院の仕事についた。
「また何故そんなことを」
そう問いかけるお姉様に、ファゴット氏は一言。
「貴女ときちんと結婚したいから」
そう答えた。
お姉様は黙ってその手を取り、短期間のうちに、法的な手続き、二人の新居、そしてエリアお姉様からの祝いの支度金が贈られる、ということが立て続きにあった。
「シリアお姉様はエリアお姉様のことをどう思っていたの?」
私は訊ねた。
「良い方だと思っているわ。施療院への寄付もなさって下さったし」
それだけではない。離れの使用人の中で、旅芸人の生活より定住が気に入った者に対し、領地での生活を斡旋もしていた。
実に手回しの良い方だ。
そして私は、と言えば。
「貴女は侯爵家に居ても良かったはずだけど」
シリアお姉様はそう言った。
私は手を振り。
「私は昔からお姉様と一緒に花壇や薬草園や畑を見るのが好きだったのよ。もっと昔は森で薪だって取ってきてたわ」
「そうだな」
と、イルドも尤もだ、とばかりにうなづく。
彼は施療院の御者となっている。急病人が出た時に、患者を運んでくる馬車を専門で扱う者だ。
メルダは無論施療士の一人だ。
*
そして私はその見習いとして、この日皆に挨拶した。
ここからは侯爵家の名は無い、ただのマリアとして、新しい日が始まる。
挨拶をするとぱちぱち、と拍手が飛んだ。
「施療院の仕事の話は姉から聞いていましたが、実際の経験は無いので、よろしくお願いします!」
またぱちぱちと。
治療士の一人である姉、シリアと、その夫である元子爵ファゴット氏が、事務方の主として見守ってくれる。
あの火事から三ヶ月経っていた。
*
火事の後、エリアお姉様が侯爵家の代表として、司法省にお父様のしてきたことを告げた。
お母様の手紙には、お父様のしてきたことに関する資料を隠してある場所が書いてあったのだ。
「あえて私の方の棟に隠しておいた辺りがあの方は知恵が回っていたのね」
エリアお姉様はそう言った。
「貴女の側の棟は、場合によっては焼け落ちてしまう可能性が大きかったし、まさか立場的に敵対…… とまでは言わずとも、決して仲が良かった訳ではない私の近くに置いておくとは侯爵も思わなかったのでしょうね」
それがシリアお姉様の処刑予定の前日だった。
シリアお姉様はそのまま、皇女殿下のはからいにより、例の薬屋の空き部屋の方に移された。
その時にはフレスティーナ様のはからいで私も付き添った。
一週間とは言え、監禁されていたことで出た疲れをそこで癒やし、次に移動したのは、施療院の方だった。
「シリア様!」
メルダが既にそこの制服を着て待ち受けていた。
「ああ…… ご無事で何よりです」
「色々心配かけた様ね」
「心配は致しました。本当に、正直あの火事が無かったらと思うと……」
そう。
火事というのは大きかった。
そしてまた、毒を扱うではなく、利用する真犯人であったお父様が消え、証拠は提出されたということ。
シリアお姉様はあくまでお父様の道具に過ぎなかったということ。
加えて最後に、皇女殿下の一声があった。
「そもそもシリアは私の施療院にとって欠かせない人材。私に危害を加える理由が無い!」
侯爵が生きていた時点ではそうは言い切れない事情があったらしいが、私にはその辺りはよく判らない。
ともかくシリアお姉様はそれで助かり、これを機に家の方は完全に離れることとなった。
そしてまた、ファゴット子爵が、子爵位を弟君に譲り渡し施療院の仕事についた。
「また何故そんなことを」
そう問いかけるお姉様に、ファゴット氏は一言。
「貴女ときちんと結婚したいから」
そう答えた。
お姉様は黙ってその手を取り、短期間のうちに、法的な手続き、二人の新居、そしてエリアお姉様からの祝いの支度金が贈られる、ということが立て続きにあった。
「シリアお姉様はエリアお姉様のことをどう思っていたの?」
私は訊ねた。
「良い方だと思っているわ。施療院への寄付もなさって下さったし」
それだけではない。離れの使用人の中で、旅芸人の生活より定住が気に入った者に対し、領地での生活を斡旋もしていた。
実に手回しの良い方だ。
そして私は、と言えば。
「貴女は侯爵家に居ても良かったはずだけど」
シリアお姉様はそう言った。
私は手を振り。
「私は昔からお姉様と一緒に花壇や薬草園や畑を見るのが好きだったのよ。もっと昔は森で薪だって取ってきてたわ」
「そうだな」
と、イルドも尤もだ、とばかりにうなづく。
彼は施療院の御者となっている。急病人が出た時に、患者を運んでくる馬車を専門で扱う者だ。
メルダは無論施療士の一人だ。
*
そして私はその見習いとして、この日皆に挨拶した。
ここからは侯爵家の名は無い、ただのマリアとして、新しい日が始まる。
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