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第56話 母夫人の手紙(8)
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これはまずい、と私は背筋が凍る思いでした。
侯爵はあの頃の私に近い貴女を――
それは駄目です。
どうしても駄目です。
だったらどうすればいいのか。
そこで、私は昔覚えてしまったことを生かすことにしました。
侯爵を殺して自分も死のう、と。
この手紙を読んでいるということは、私の計画は成功したということです。
そんな計画、というかもしれません。
ですが、マリア、貴女を――しようとすること自体、どうしても許せません。
それなりの時間、過ごした相手でも、いえ、それだからこそ、絶対に許せません。
そしてまた、シリアに対しての借りをこれで返せると思いました。
マンダリンは私の点けた火のせいで死んでしまった。
シリアは母親を亡くし、保護者を無くし、そして辛い役目を背負わされた。
マリアにも悲しい思いをさせてしまった。
この家はエリア様が継げばいい。
あの方は侯爵が目をくれなくなってしまった領地をきちんと管理しています。
あちらの公爵家の方と共通の知人から、その辺りを耳にし、エリア様自身とも話してみました。
あの方も父親を憎んでいるとのこと。
そうです。
あの方の母君が殺されたのは、私を侯爵夫人として入れようとしたという部分もあったのですから。
だから私は、私含めてあの男をこの世から消すことにしました。
そしてできるだけこの家自体には被害が及ばない様に。
お話がある、と呼び出しておきました。
暖炉には、既にキョウチクトウの薪と生木が入っています。
部屋の扉と窓の鍵は、倉庫で見つけた樹脂で止める準備ができています。
イレーナに伝えておきました。
何かあったら、ともかく使用人全てを連れ、向こうの棟の方々も一緒に離れへ避難してくれ、と。
そして、マリアのことを頼むと。
ばあやは私の死に悲しむでしょう。
あのひとは私の母も同じなのですから。
ですから私が何故この様なことをしたのか、告げないで下さい。
けどそれは、そもそも娘に頼むことではないですね。ごめんなさい。
そんな辺りが、私の未熟なところなのでしょう。
ですからマリア。
この様な自分勝手で馬鹿な母親のことは忘れて、自分に合った人生を送って下さい。
貴女にはそれができます。
*
母の手紙を読み終わった私は、悲しいやら悔しいやらで顔全体が涙でぐちょぐちょになった。
確かにお母様は美しいひとだ。
だけど、歳のことを考えたことが――まるでなかった。
そんな若かったのか、と。
そしてまた、私に対してもそんな視線があったとは。
「……お母様」
私は手紙をぎゅっと握りしめてうめく様につぶやいた。
侯爵はあの頃の私に近い貴女を――
それは駄目です。
どうしても駄目です。
だったらどうすればいいのか。
そこで、私は昔覚えてしまったことを生かすことにしました。
侯爵を殺して自分も死のう、と。
この手紙を読んでいるということは、私の計画は成功したということです。
そんな計画、というかもしれません。
ですが、マリア、貴女を――しようとすること自体、どうしても許せません。
それなりの時間、過ごした相手でも、いえ、それだからこそ、絶対に許せません。
そしてまた、シリアに対しての借りをこれで返せると思いました。
マンダリンは私の点けた火のせいで死んでしまった。
シリアは母親を亡くし、保護者を無くし、そして辛い役目を背負わされた。
マリアにも悲しい思いをさせてしまった。
この家はエリア様が継げばいい。
あの方は侯爵が目をくれなくなってしまった領地をきちんと管理しています。
あちらの公爵家の方と共通の知人から、その辺りを耳にし、エリア様自身とも話してみました。
あの方も父親を憎んでいるとのこと。
そうです。
あの方の母君が殺されたのは、私を侯爵夫人として入れようとしたという部分もあったのですから。
だから私は、私含めてあの男をこの世から消すことにしました。
そしてできるだけこの家自体には被害が及ばない様に。
お話がある、と呼び出しておきました。
暖炉には、既にキョウチクトウの薪と生木が入っています。
部屋の扉と窓の鍵は、倉庫で見つけた樹脂で止める準備ができています。
イレーナに伝えておきました。
何かあったら、ともかく使用人全てを連れ、向こうの棟の方々も一緒に離れへ避難してくれ、と。
そして、マリアのことを頼むと。
ばあやは私の死に悲しむでしょう。
あのひとは私の母も同じなのですから。
ですから私が何故この様なことをしたのか、告げないで下さい。
けどそれは、そもそも娘に頼むことではないですね。ごめんなさい。
そんな辺りが、私の未熟なところなのでしょう。
ですからマリア。
この様な自分勝手で馬鹿な母親のことは忘れて、自分に合った人生を送って下さい。
貴女にはそれができます。
*
母の手紙を読み終わった私は、悲しいやら悔しいやらで顔全体が涙でぐちょぐちょになった。
確かにお母様は美しいひとだ。
だけど、歳のことを考えたことが――まるでなかった。
そんな若かったのか、と。
そしてまた、私に対してもそんな視線があったとは。
「……お母様」
私は手紙をぎゅっと握りしめてうめく様につぶやいた。
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