上 下
48 / 58

第47話 のこり2日4 この先のことを少し考える

しおりを挟む
「それが美味しいと思っていても、私の中の公爵の孫、という存在はあまりに大きくて、それに反することはできない。社交界も知っている。そして私はここでこのまま生きていくことにしている」

 けど、とお姉様は続けた。

「マリアはこれからどうしたい? せっかく目の上のたんこぶが消えたことだ。もう侯爵が貴女を利用しようとすることも無いだろうし、私の名で社交界に出るもよし。でもまあ」

 エリアお姉様はカップを両手で覆った蔭で少しばかりにや、と笑った。

「きっと、この家から出ていきたいのではないかな?」
「ええ」

  私はうなづいた。

「シリアお姉様が助かったなら、街の皇女様の施療院で共に働きたいと子爵様がおっしゃってました。皇女殿下は、二人を他国の大使の部下として逃がそうともお考えの様でしたが、シリアお姉様が無罪ということになれば、できれば街の方で、私もそちらのお手伝いをしていきたいです」

 そうか、とエリアお姉様はうなづいた。

「だったらそうするがいい。前も言ったけど、貴女は決して侯爵令嬢に向いていない」
「そうですね」

 そう言って私もスープをもらう。

「私はやっぱりスープは熱いまま受け取りたい方ですから」



 昼近くになって、司法省の役人が一週間ほど前より沢山やってきた。
 以前やってきたのは、お姉様の逮捕と、私達への聴取のためだからさほど多くは無かった。
 だが今回は、やっと消えて、窓を壊し、有毒な棟の空気を入れ換えるという作業と、亡くなった私の両親の確認の件もあった。

「こんなことになるとは……」

 ファゴット子爵は愕然とした顔で、焼けた棟を眺めていた。

「確認をお願い致します」

 司法省から、エリアお姉様と私、そしてばあやと執事に、二人の確認を要求された。
「勘弁してくださいまし…… 私は奥様が扉を閉め切ってしまうところまで見てしまっているのです……」
「私がでは先に」

 エリアお姉様は先に立って遺体の確認をする。
 顔を一瞬しかめるが、大丈夫、と一言、私をうながした。
 お母様は美しいままだった。
 火事の中亡くなったとは思えないほど、綺麗な姿だった。
 鼻の奥がつん、とすぐに痛くなった。涙があふれてあふれて仕方がなかった。
 一方、お父様は酷かった。
 顔はともかく、手が。
 どれほど叩いたのか、手がガラスの破片でずたずただった。

「掃き出し窓が全て漆喰で固められていました。いえ、窓という窓が」

 司法省の役人はそう言った。

「そのせいで侯爵は体当たりしても、ベランダに出ることができなかったのでしょう。ガラスを割ったとしても、あの格子の大きさでは出ることができませんしね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

悪役令嬢のわたしが婚約破棄されるのはしかたないことだと思うので、べつに復讐したりしませんが、どうも向こうがかってに破滅してしまったようです。

草部昴流
ファンタジー
 公爵令嬢モニカは、たくさんの人々が集まった広間で、婚約者である王子から婚約破棄を宣言された。王子はその場で次々と捏造された彼女の「罪状」を読み上げていく。どうやら、その背後には異世界からやって来た少女の策謀があるらしい。モニカはここで彼らに復讐してやることもできたのだが――あえてそうはしなかった。なぜなら、彼女は誇り高い悪役令嬢なのだから。しかし、王子たちは自分たちでかってに破滅していったようで? 悪役令嬢の美しいあり方を問い直す、ざまぁネタの新境地!!!

天使の行きつく場所を幸せになった彼女は知らない。

ぷり
恋愛
孤児院で育った茶髪茶瞳の『ミューラ』は11歳になる頃、両親が見つかった。 しかし、迎えにきた両親は、自分を見て喜ぶ様子もなく、連れて行かれた男爵家の屋敷には金髪碧眼の天使のような姉『エレナ』がいた。 エレナとミューラは赤子のときに産院で取り違えられたという。エレナは男爵家の血は一滴も入っていない赤の他人の子にも関わらず、両親に溺愛され、男爵家の跡目も彼女が継ぐという。 両親が見つかったその日から――ミューラの耐え忍ぶ日々が始まった。 ■※※R15範囲内かとは思いますが、残酷な表現や腐った男女関係の表現が有りますので苦手な方はご注意下さい。※※■ ※なろう小説で完結済です。 ※IFルートは、33話からのルート分岐で、ほぼギャグとなっております。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...