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第20話 のこり6日2 知らぬは自分ばかりなり

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 幌のついた馬車に揺られ、私達は街へと出向いた。
 馬車で一時間半くらいかかる場所なのだが、私はまだ行ったことがなかった。
 なので。

「そんな、固まっていらっしゃらないで」

 イレーナとメルダが私を後ろから押し出す。
 そうは言っても、何と言っても人が多い。多すぎる!
 しかも、馬車を止めた場所は市場に近く商売の声も競う様に大きく激しく通るものばかりで、私は思わず耳を塞ぎそうになったくらいだ。
 普段こんな大きな音を聞いたことがないから。

「とりあえずこれかぶっていましょうか」

 メルダは私にボンネットをかぶせて、上から布をかぶせ、顎の下で結んだ。
 音がややましになった。

「今まで全く出たことがないのですか?」

 メルダはイレーナの方に訊ねた。

「ええ、旦那様がお許しになりませんでしたから」
「え、そうだったの?」

 つい人ごとのように口にしてしまった。

「マリア様、奥様はできればご自分と一緒にお買い物に出たいとおっしゃったことが何度かあったそうです。そのたびにまだ早いまだ早い、と旦那様はにべもなかったそうです」
「シリア様は元々マンダリン様自体がいちいち許可などとらなかったので、我々が気をつけながら街の方に慣らしていきました」

 なるほど、お父様だったか。

「マリア様、ご自分にシリア様以外にお遊び相手や、外の令嬢達とのお付き合いがなかったこと、不思議にお思いになりませんでした?」

 ここぞとばかりにイレーナは言う。

「……そう言えば、そうね」

 そんなものだろう、と思っていた。

「シリア様が心配なすってました。お父上の人形にされるのではないか、と」
「お姉様が……!」
「はい。それで自分に何かあった時には、マリア様に外に伝手を作るように私達離れの使用人達は言われておりました」
「私はメルダさんに言われて、なるほどその通りだ、と以前からもやもやしたものの正体がわかったんですよね」
「奥様が離れを閉鎖するとおっしゃっていたので、少々荒っぽいようですが今日はこの様に連れ出させていただきました」

 私は二人の腕をがっしりと掴むと、ぎゅっと握りこんだ。

「そうなのね…… 私一人そんなことも知らずに」
「マリア様は知らない様にさせられていた環境だったのですから! 貴族の令嬢はこうこうだと言われたらそうなっておしまいでしょう?!

 そう口々に言う二人に、ふと。

「エリアお姉様も…… そうなのかしら」
「いいえ」

 イレーナがそれには頭を振った。

「エリア様は何より社交界に出ていらっしゃいます。それ以前にも公爵令嬢だった先の奥様の伝手で、親戚の方々とお手紙のやりとりや、親戚の知り合いとの交流とか、案外様々に外には出ていらしたとのことです。棟が違うのでマリア様はお気づきにならなかったと思うのですが、向こうの方は向こうの方で、馴染みの商人は出入りしていますし、小型の馬車であちこちに出向いてもいらっしゃるようです」

 知らなかったのは自分ばかりか、と結構私は肩を落とした。
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