上 下
20 / 54

第20話 D伯の経営する会社

しおりを挟む
 なるほどね、と鷹はオリイが持ってきたデータをスクリーンに浮かべながら、うなづく。
 あの後、オリイは女史が言うように、ディックの資料整理を手伝っていたのだ。彼が集めたLB社に関する情報をとりまとめ、分類整理する仕事。
 その時に、同じデータを丸ごとメ・カに写し取ってきたのだ。それ自体は、別段手にすることで違法な情報ではない。ただこれだけの情報を、雑誌社という肩書きの無い人間が手に入れようと思うとやや面倒なものが多かったのだ。

「幾つかの時代に、彼は不明点があるね」

 オリイはうなづいた。現在に至るまで、殆どの年についてディックは情報を収集しているのだが、数ヶ所に空きがあった。

「まずはこのウェストウェストに来てから銀行勤めをしていた期間…… まあ特に書くべき部分が無かったと言えばそれまでだけど」
『友達って誰?』

 そう、と鷹はうなづく。

「この『友達』というのが誰なのか、が断定されていないんだよね…… 銀行の関係者なのか、このウェストウェスト星域自体に大きな力を持っているのか、そのあたりがはっきりしない。それにそのくらいの知り合いだったら、データが表に出ていてもいいはずなのに」

 おそらくは、この星域全体、の方だと鷹は思う。MA電気軌道は、当初この星域のある会社の子会社として立ち上げられたのだが、最初に社長業を請け負った人物がさほどの器ではなかったため、利益は殆ど無かったのだという。

「MA電気軌道は、当初はD社の一部だった。ということは、D社にとって、中枢に居る人間と考えたらいいのか……」

 D社は、D伯の経営する会社だった。
 正確に言えば、企業体である。その中には数多くの企業が存在する。ウェストウェスト星域に住む人間は、朝起きてまずD製薬の歯磨き粉を使い、D食品から安価で発売されるパンを食べ、昼ご飯をD百貨店のレストランで食べ、夜は、D酒造の直営店でいっぱいやる。そして風呂にはD化学の入浴剤を放り込み、D寝具の毛布にくるまれて眠るのだ。
 D社で無いものを探すほうが、このウェストウェストでは難しい。したがって、LB社がそのD社から派生したものであってもおかしくはない訳である。いや、そう考える方が自然なのだ。

「だとしたら、あのシェドリス・Eと名乗っている奴は、何でそんな名を名乗っているんだろう? 少なくとも、サーティン氏はそんな名を名乗れば、警戒するだろうに」
『警戒』
「そりゃまあ、身内と言っても色々あるだろうけど……」

 鷹はひじをつきながら、顎に手をやる。するとオリイはそんな彼をそっと押しのけると、端末に手を伸ばす。何だ何だ、と思いつつ、彼は別の情報に手を伸ばす。画面に映し出される文字の羅列を見て、鷹はうなづく。

「名士の尊卑分脈、か」

 オリイはその中からあっさりとD伯の血統を抜き出した。名士というものは、「公式に」存在を許される身内の存在は公表することが多い。
 マルタから情報はもらっている。だがそれはダイジェストのようなものだ。彼女は有効な情報を抜き出して送ってくれるのだが、時には、その抜き出す以前の情報が欲しい時もある。
 多いな、と鷹はつぶやいた。現在のD伯は齢64。正子として認められている子供の数は13。そしてその子供の子供が、35。庶子が10。その庶子の子供が8。

「……よくまあこれだけ作ったものだ」

 子供が生まれにくい星域の出身である鷹は思わずため息をもらす。まあしかし、あの種族がそんなにぽこぽこ生まれていたら、それはそれで始末に困るだろう、と彼は思う。少ないから、寿命が長いのか、寿命が長いから少ないのか。
 画面には、その子供や庶子の名前がざっと映し出させる。その中でシェドリス・Eの名を彼は目で追った。

「ふーん…… 確かに彼くらいの年齢だな」

 無論この場合、シェドリスを名乗る彼の、本当の年齢は関係はない。あくまで外見の年齢である。現在生存しているなら、27歳。その様に資料からは読みとれる。

『庶子の子供が少ない』

 オリイはさらさら、とテーブルに文字をつづる。

「ああ。ま、色々あるんだろ……」

 庶子。理由は色々あれど、何度か取り替えられたD伯の正妻以外の女から生まれた子供。その女達が果たして自分の意志でそういう立場になったのかはこの資料からは読みとれない。
 そしてその子供達は、庶子の数より少ない。初めから生まれなかったのか、それとも途中で消されたのか。いずれにせよ、良い想像ができない。
 そして、シェドリス・Eはその姓が示す通り、庶子の子供だった。
 シェドリスの父であるE氏は、ウェストウェスト総合大を出ながら、どうもその後、戦争の方へ自主的に参加したらしく、30代の半ばで消息を絶っている。そしてその後、シェドリスが見つけられたのだが、この母親である女の名前は無い。故意的に削除してあるのは、一目で判る。
 そしてシェドリスは、15歳の時にそのD伯宅に引き取られている。だが17歳の時、その消息を絶っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

エッチな方程式

放射朗
SF
燃料をぎりぎりしか積んでいない宇宙船で、密航者が見つかる。 密航者の分、総質量が重くなった船は加速が足りずにワープ領域に入れないから、密航者はただちに船外に追放することになっていた。 密航して見つかった主人公は、どうにかして助かる方法を探す。

170≧の生命の歴史

輪島ライ
SF
「私、身長が170センチない人とはお付き合いしたくないんです。」 そう言われて交際を断られた男の屈辱から、新たな生命の歴史が始まる。 ※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。

反帝国組織MM①マスクド・パーティ

江戸川ばた散歩
SF
遠い未来、地球を捨てた人々があちこちの星系に住みついて長い時間が経つ世界。 「天使種」と呼ばれる長命少数種族が長い戦争の末、帝都政府を形成し、銀河は一つの「帝国」として動かされていた。 戦争は無くなったが内乱は常に起こる。 その中で暗躍する反帝組織「MM」――― 構成員の一人、「G」を巡る最初の話。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

処理中です...