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第18話 サーティン・LBの経歴①
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それでは次のニュース、と画面が告げたので、ふっとディックは斜め前に顔を上げた。
「今回の御訪問の旅程が公式に決定しました」
やっとか、と彼は立ち上がり、オフィスの窓際に置かれた受像器の音声を少し大きくする。何だ何だ、と周囲のスタッフ達も仕事の手を休め、画面に見入った。
「……皇兄ユタ氏の当ウェストウェスト星域における御訪問の順は、ウェストA区から始まり……」
次々にこの星域の母星の大陸の地名が読み上げられていく。無論テロップもその脇に流れている。
ここルナパァクのあるコロニーの地区は、ウェストアウトJ区と呼ばれている。ただし今では名前だけ残り、コロニー本体は無い地区も多い。J区は残った方だった。だがルナパァクはそのJ区の中心ではない。あくまで中心はプラムフィールドだった。
プラムフィールドはチューブのターミナル・コロニーであると同時に、J区だけでなく、ウェストアウトの殆どの中心でもある。ルナパァクはその中心都市につけられたおまけの様な存在だったのだ。別段無くても良いが、あると楽しい、甘い菓子のような。
そして甘い菓子だったからこそ、攻撃からまぬがれたのだ。
現在のこの街は、甘い菓子どころではない。
「……最終地として、ウェストアウトJ区、プラムフィールドにて式典を開催致します。その際の出席者は次のようになります」
名前がずらずら、と並ぶ。ずいぶんと盛大なものだ、とディックは思う。
「オリイ君、ちょっと今やってるニュースが終わったら、同じニュースにつないで保管しといて」
やはり端末に向かう作業の手を休めていたオリイに、ディックは声をかける。オリイはうなづく。
「何、夕方にはペーパーが出るじゃない。そのほうが一気に読めるわよ」
「と俺も思うんだけど、ついついね」
ふうん、と言いながらドーソン女史も腕組みをしながら画面に視線を飛ばす。
「あら、サーティン氏も、来るのね」
「え?」
「ほら、出席者一覧。サーティン・LB氏じゃない」
ゆっくりと流れる文字は、確かにLB社の会長の名を示していた。
「何、わざわざ来る訳? 本星から」
「でもまあ、あのひとチューブの総裁であるからその可能性はあった訳よね。プラムフィールドだったら、まあそれなりに重みはある訳だし」
「人口とかは大したことじゃないけどね」
「そういう問題じゃないんでしょ。実際プラムフィールドは、確かに人口は多くないし、住民のための都市って訳じゃあないわよ。どっちかというと、旅行者とか、近くの居住専門コロニーに住む人々が休みに行く様な所になってるわね」
「うん。実際サーティン・LBはチューブを通した時、そういう客の足と金を向けさせようとして、プラムフィールドを整備したはずなんだ。繁華街にしても、各種の専門店街にしても」
「あら、調査の成果がだんだん出てきたみたいね」
「うるさいね」
ディックは肩をすくめた。ちら、と見ると、オリイは言われた通りに、ニュースを配信しているネットにつないでいた。これで後のニュースを多少見落としても大丈夫だろう、という安堵感が広がる。
「それで? もう少しちゃんと詳しく、調査の結果を聞きたいものだわ」
「それは、下世話な興味? 知的関心?」
「どっちも。どっちも大切だわよ。記者にとってはね」
女史はくすくす、と笑う。
「へいへい。では何処から話しましょうかね、お姉さま」
「まずはサーティン氏がウェストウェストに来たくんだりから聞きたいわ。確か彼、出身はこっちではなく、むしろ現帝都に近いほうではない?」
「そう。現帝都に近い星域出身。とは言え、まだ彼がこっちにやってきた時点では、そこに住んでいるからというのは大した問題じゃないんだ。確かにもう戦争も末期だったしね。そろそろそこに住むことに特権がつく時代に変わりつつあったけど、彼が離れた時点ではまだそうではない訳よ」
「確か、銀行か何に勤めていたんだっけ」
「その銀行。……まあ最初はコネだね」
ディックは片方の眉をぴっと上げる。
「え? そうなの?」
「うん。彼は現帝立大学…… まだ彼の時は、前身のウェネイク総合大学だったんだけど、彼はまあ…… 一応経済を学んでいたんだけど、どっちかというと、興味関心は、経済よりは、歴史や文学にあったほうだったらしい」
「歴史や文学ぅ?」
女史は眉を寄せた。
「元々、ウェネイク総合大に入ったのも、彼自身の意志というよりは、家族の勧めが強かったらしい」
「勧めねえ。勧めでそんなとこ行けちゃうんだ」
「だから頭はいいってことだよ。で、卒論はと言えば、『辺境星域における経済と文化の進度の差異におけるユレケン戦の影響』」
「……何よそれ」
「つまり、……俺も中身読んだ訳じゃないから、資料によるけどさ、惑星ユレケンの惨事ってあったよね。あれが辺境星域にどういう経済的・文化的影響を与えたか、というのを、実に独自の視点で書いてあった、らしいんだ」
「……訳判らないわね」
はぁぁ、と彼女はため息をつく。
「私はそういうややこしいタイトルつけるのは嫌ね。も少しすぱっと行くわ」
「ふうん?例えば?」
「『ユレケンは遠く波打つ』」
「却下」
ディックは手をひらひらと動かし、まだ何か言いたそうな彼女をあえて無視する。
「で、まあそのユニークな論文書いて卒業したサーティン氏だけど、さすがになかなか職が見つからない。この場合の職っていうのは、彼の家とか一族にもふさわしい、っていう意味だよ」
「ってことは、何か彼がいいな、と思った職でも、一族が嫌って言えば駄目ってこと?」
「何かそういう地方だったらしいね。でまあ、そういう土地が息苦しくなったのか、サーティン氏は、とにかくこの地から出られるならいいや、という具合で、知人に頼み込んで、このウェストウェスト星域に新しくできた、イルミナイト銀行の支店に入った訳だ。まあ彼の知人……先輩とかだったら、彼がどういう所なら就職しても構わないのか、よく知っているからね。一方のサーティン氏は、なりふり構ってられなかったと」
ぱら、とディックは資料ファイルの一つを開く。時にはこういうアナログな集積法の方が、資料が出しやすい部分もある。彼が広げたファイルの中には、ウェストウェストに最寄りの星域のニュースのプリントアウトが入っていた。
「今回の御訪問の旅程が公式に決定しました」
やっとか、と彼は立ち上がり、オフィスの窓際に置かれた受像器の音声を少し大きくする。何だ何だ、と周囲のスタッフ達も仕事の手を休め、画面に見入った。
「……皇兄ユタ氏の当ウェストウェスト星域における御訪問の順は、ウェストA区から始まり……」
次々にこの星域の母星の大陸の地名が読み上げられていく。無論テロップもその脇に流れている。
ここルナパァクのあるコロニーの地区は、ウェストアウトJ区と呼ばれている。ただし今では名前だけ残り、コロニー本体は無い地区も多い。J区は残った方だった。だがルナパァクはそのJ区の中心ではない。あくまで中心はプラムフィールドだった。
プラムフィールドはチューブのターミナル・コロニーであると同時に、J区だけでなく、ウェストアウトの殆どの中心でもある。ルナパァクはその中心都市につけられたおまけの様な存在だったのだ。別段無くても良いが、あると楽しい、甘い菓子のような。
そして甘い菓子だったからこそ、攻撃からまぬがれたのだ。
現在のこの街は、甘い菓子どころではない。
「……最終地として、ウェストアウトJ区、プラムフィールドにて式典を開催致します。その際の出席者は次のようになります」
名前がずらずら、と並ぶ。ずいぶんと盛大なものだ、とディックは思う。
「オリイ君、ちょっと今やってるニュースが終わったら、同じニュースにつないで保管しといて」
やはり端末に向かう作業の手を休めていたオリイに、ディックは声をかける。オリイはうなづく。
「何、夕方にはペーパーが出るじゃない。そのほうが一気に読めるわよ」
「と俺も思うんだけど、ついついね」
ふうん、と言いながらドーソン女史も腕組みをしながら画面に視線を飛ばす。
「あら、サーティン氏も、来るのね」
「え?」
「ほら、出席者一覧。サーティン・LB氏じゃない」
ゆっくりと流れる文字は、確かにLB社の会長の名を示していた。
「何、わざわざ来る訳? 本星から」
「でもまあ、あのひとチューブの総裁であるからその可能性はあった訳よね。プラムフィールドだったら、まあそれなりに重みはある訳だし」
「人口とかは大したことじゃないけどね」
「そういう問題じゃないんでしょ。実際プラムフィールドは、確かに人口は多くないし、住民のための都市って訳じゃあないわよ。どっちかというと、旅行者とか、近くの居住専門コロニーに住む人々が休みに行く様な所になってるわね」
「うん。実際サーティン・LBはチューブを通した時、そういう客の足と金を向けさせようとして、プラムフィールドを整備したはずなんだ。繁華街にしても、各種の専門店街にしても」
「あら、調査の成果がだんだん出てきたみたいね」
「うるさいね」
ディックは肩をすくめた。ちら、と見ると、オリイは言われた通りに、ニュースを配信しているネットにつないでいた。これで後のニュースを多少見落としても大丈夫だろう、という安堵感が広がる。
「それで? もう少しちゃんと詳しく、調査の結果を聞きたいものだわ」
「それは、下世話な興味? 知的関心?」
「どっちも。どっちも大切だわよ。記者にとってはね」
女史はくすくす、と笑う。
「へいへい。では何処から話しましょうかね、お姉さま」
「まずはサーティン氏がウェストウェストに来たくんだりから聞きたいわ。確か彼、出身はこっちではなく、むしろ現帝都に近いほうではない?」
「そう。現帝都に近い星域出身。とは言え、まだ彼がこっちにやってきた時点では、そこに住んでいるからというのは大した問題じゃないんだ。確かにもう戦争も末期だったしね。そろそろそこに住むことに特権がつく時代に変わりつつあったけど、彼が離れた時点ではまだそうではない訳よ」
「確か、銀行か何に勤めていたんだっけ」
「その銀行。……まあ最初はコネだね」
ディックは片方の眉をぴっと上げる。
「え? そうなの?」
「うん。彼は現帝立大学…… まだ彼の時は、前身のウェネイク総合大学だったんだけど、彼はまあ…… 一応経済を学んでいたんだけど、どっちかというと、興味関心は、経済よりは、歴史や文学にあったほうだったらしい」
「歴史や文学ぅ?」
女史は眉を寄せた。
「元々、ウェネイク総合大に入ったのも、彼自身の意志というよりは、家族の勧めが強かったらしい」
「勧めねえ。勧めでそんなとこ行けちゃうんだ」
「だから頭はいいってことだよ。で、卒論はと言えば、『辺境星域における経済と文化の進度の差異におけるユレケン戦の影響』」
「……何よそれ」
「つまり、……俺も中身読んだ訳じゃないから、資料によるけどさ、惑星ユレケンの惨事ってあったよね。あれが辺境星域にどういう経済的・文化的影響を与えたか、というのを、実に独自の視点で書いてあった、らしいんだ」
「……訳判らないわね」
はぁぁ、と彼女はため息をつく。
「私はそういうややこしいタイトルつけるのは嫌ね。も少しすぱっと行くわ」
「ふうん?例えば?」
「『ユレケンは遠く波打つ』」
「却下」
ディックは手をひらひらと動かし、まだ何か言いたそうな彼女をあえて無視する。
「で、まあそのユニークな論文書いて卒業したサーティン氏だけど、さすがになかなか職が見つからない。この場合の職っていうのは、彼の家とか一族にもふさわしい、っていう意味だよ」
「ってことは、何か彼がいいな、と思った職でも、一族が嫌って言えば駄目ってこと?」
「何かそういう地方だったらしいね。でまあ、そういう土地が息苦しくなったのか、サーティン氏は、とにかくこの地から出られるならいいや、という具合で、知人に頼み込んで、このウェストウェスト星域に新しくできた、イルミナイト銀行の支店に入った訳だ。まあ彼の知人……先輩とかだったら、彼がどういう所なら就職しても構わないのか、よく知っているからね。一方のサーティン氏は、なりふり構ってられなかったと」
ぱら、とディックは資料ファイルの一つを開く。時にはこういうアナログな集積法の方が、資料が出しやすい部分もある。彼が広げたファイルの中には、ウェストウェストに最寄りの星域のニュースのプリントアウトが入っていた。
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