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20 「婚約者」アラミューサ嬢
しおりを挟む 布団に潜り込んだ牛五郎は、自分が何だかよく解らない面倒くさい事を言いながら泣き喚いているとは思う。
でもイライラしてムカムカして涙が止まらなかった。
何にこんなにムカムカしているのか良く解らないが、原因は間違いなく哉汰である。
牛五郎も自分が牛で有り、搾乳は必要だと知っている。
それに搾乳されると気持ちよくて乱れてしまうのは牛の性だ。
牛を調教し快楽に従順になれば、ミルクだって美味しくなる。
美味しいミルクを主人に搾乳してもらえるのが牛の喜びだ。
それをしてもらえる牛は元気で寿命も長くなる。
だから哉汰も執事である自分の事も気にかけてくれて、搾乳して喜びを与えてくれようとしているだけだ。
調教は牛の為。
解っている。
でも、嫌なんだ。
人間になりたかった。
だって、哉汰は他所にやらないと言ったけど、以前、調教した執事を他所にやった。
牛五郎は見ていたのだ。
『白金の執事は主人の調教が行き届いていて良い牛が揃っておりますな』
『ええ、まぁ。調教済みのモノならお好きなのを連れて行っても構いませんよ』
哉汰は商談相手に調教済みの牛をあげて、取り入っていた。
愛玩乳牛の交換なんかは良く有ることだが、執事まで他所にやってしまうなんて。
確かに哉汰なら替わりはいくらでも用意出来るし、優秀な調教師だから好きな様に出来るのだろう。
そうなると、俺も調教済みになったら『好きに持っていて良いよ』にと言われ、知らない人に連れて行かれてしまうかもしれない。
それが凄く怖かった。
あのとき連れて行かれた執事は泣き喚いていて、哉汰に助けを求めていた。
なのに、哉汰は冷たく無視していた。
あんなに優しく手塩にかけて育てていたのに。『良い子だね。上手に出せたね。ヨシヨシ』そう言って可愛がっていたのに。
あっさりと手放してしまった。
一瞬で興味が無くなったみたいに。
俺だってきっとそうだ。
可愛がってくれるのも調教している今だけ。
そう思うと悲しくて辛くて、不安で、たまらない。
「牛五郎、お願い。顔を出して、お薬飲もう? 嫌?」
「もう放っておいてくれ。優しくするな~ どうせ俺も要らないって捨てる癖に!」
面倒くさい事を言っているのに、哉汰は根気強く声を掛けてくれている。
布団の上から優しく撫でてくれてた。
でも、それなら飴と鞭なんてしないで欲しい。
鞭だけを与えたくれたら良いんだ。
それだと調教にならないのかも知れないけど。
優しくされると極端に嬉しいし、冷たくされると極端に悲しくなる。
もう疲れてしまった。
捨てるなら早く捨てろ。
「どうして俺が牛五郎を捨てる事になってるの? 捨てないってば。もう! いい加減にしろ!」
「やめろぉ~ 放っておいてくれよ~」
「こら、暴れない! また熱が上がるだろ!」
いつまでも布団に籠もって訳の解らない事を言って泣いている牛五郎に、哉汰もイライラしてきてしまう。
もう力技で布団を引っ剥がしにかかった。
布団を必死に掴む牛五郎と、引っ張る哉汰。
「布団が破れるよ」
「うう~」
布団が破れるのは困ると思ったのか、オズオズ顔を出す牛五郎。流石、節約家。
あーぁ、酷い顔。
涙でグチャグチャだし、顔も真っ赤だ。
そんな牛五郎の顔を見て欲情してしまう哉汰。
あー、困ったな。
調教してる牛に欲情するなんて調教師失格だよな。
「俺は牛五郎を捨てたりしないし、手放す気は無いよ。牛五郎は死ぬまで俺の側に居て。逃がしてやらない」
「本当に? 俺、ずっと哉汰の側に居られる? 人間じゃなくても? 乳牛じゃなくても?」
「ん? 牛五郎は乳牛だよ」
自分は何だと思っているのだろう。この牛は。
人間では無いが、人間よりの乳牛である。
実は闘牛だと思っていたとかだろうか。
闘牛の血は薄すぎる。
「牛美みたいに沢山ミルク出せない良い牛じゃない……」
シュンと落ち込んだ様子の牛五郎。
耳が立ったり垂れたり忙しなくて可愛い。
「牛美か。牛小屋の子達は乳牛の血が濃い商品だよ。牛美たちは俺のペットで、ミルクを売る為に飼っている。けど、牛五郎は執事だ。ミルクは俺が飲む分だけ出せれば十分良い子だよ。ミルクが出なくても俺の世話をしてくれるし、頭が良いし、器用だし、色々出来るだろ?」
牛美たちと牛五郎では比較対象にならない。
執事と、愛玩乳牛では全くの別物だ。
牛五郎だってそれを知っていて、頑張って執事になっただろうに。
「調教済みの執事を他所にやったじゃないですか! 俺も捨てるんだ!」
「あ? ああ、あれは替えが効く子だったんだ。お前は俺専属執事だろうが。他所にやる訳ねぇだろ!」
たくさん居る執事を他所にやるぐらい構わないが、自分専属の執事を他所にやる訳ない。
まさか牛五郎が、あの事をそんなに気にしていたとは思わなかった。
「それが不安で泣いてたのか?」
溜息を吐く哉汰に頷く牛五郎。
「そうか。不安にさせて悪かったな。俺はお前を手放さない。絶対だ。解ったか?」
そう言い聞かせ、頭を撫でてやる。
牛五郎はコクコク頷いてくれた。
解ってくれたらしい。
良かった。
「お薬飲めるか?」
牛五郎に薬を渡して水を飲ませる。
ちゃんと薬を飲んでくれた。
「ヨシヨシ、良い子。また寝てても良いよ」
牛五郎は頷いて布団に潜る。
控えめに布団から手が出て来て、服の裾を掴んだ。
「何処にも行かないよ」
手を握ってあげる。
牛五郎は安心した様子で、またスヤスヤ寝息をたてはじめた。
暫く牛五郎の寝顔を眺めて頭を撫でてあげ、リモート会議に出席した。
牛五郎が手を離してくれなかったので、手を繋いだままのリモート会議になってしまい、周りに気づかれないかドキドキしてしまった。
牛五郎のせいで変な性癖が目覚めそうだ。
今度、そういうプレイも楽しみたいな。
でもイライラしてムカムカして涙が止まらなかった。
何にこんなにムカムカしているのか良く解らないが、原因は間違いなく哉汰である。
牛五郎も自分が牛で有り、搾乳は必要だと知っている。
それに搾乳されると気持ちよくて乱れてしまうのは牛の性だ。
牛を調教し快楽に従順になれば、ミルクだって美味しくなる。
美味しいミルクを主人に搾乳してもらえるのが牛の喜びだ。
それをしてもらえる牛は元気で寿命も長くなる。
だから哉汰も執事である自分の事も気にかけてくれて、搾乳して喜びを与えてくれようとしているだけだ。
調教は牛の為。
解っている。
でも、嫌なんだ。
人間になりたかった。
だって、哉汰は他所にやらないと言ったけど、以前、調教した執事を他所にやった。
牛五郎は見ていたのだ。
『白金の執事は主人の調教が行き届いていて良い牛が揃っておりますな』
『ええ、まぁ。調教済みのモノならお好きなのを連れて行っても構いませんよ』
哉汰は商談相手に調教済みの牛をあげて、取り入っていた。
愛玩乳牛の交換なんかは良く有ることだが、執事まで他所にやってしまうなんて。
確かに哉汰なら替わりはいくらでも用意出来るし、優秀な調教師だから好きな様に出来るのだろう。
そうなると、俺も調教済みになったら『好きに持っていて良いよ』にと言われ、知らない人に連れて行かれてしまうかもしれない。
それが凄く怖かった。
あのとき連れて行かれた執事は泣き喚いていて、哉汰に助けを求めていた。
なのに、哉汰は冷たく無視していた。
あんなに優しく手塩にかけて育てていたのに。『良い子だね。上手に出せたね。ヨシヨシ』そう言って可愛がっていたのに。
あっさりと手放してしまった。
一瞬で興味が無くなったみたいに。
俺だってきっとそうだ。
可愛がってくれるのも調教している今だけ。
そう思うと悲しくて辛くて、不安で、たまらない。
「牛五郎、お願い。顔を出して、お薬飲もう? 嫌?」
「もう放っておいてくれ。優しくするな~ どうせ俺も要らないって捨てる癖に!」
面倒くさい事を言っているのに、哉汰は根気強く声を掛けてくれている。
布団の上から優しく撫でてくれてた。
でも、それなら飴と鞭なんてしないで欲しい。
鞭だけを与えたくれたら良いんだ。
それだと調教にならないのかも知れないけど。
優しくされると極端に嬉しいし、冷たくされると極端に悲しくなる。
もう疲れてしまった。
捨てるなら早く捨てろ。
「どうして俺が牛五郎を捨てる事になってるの? 捨てないってば。もう! いい加減にしろ!」
「やめろぉ~ 放っておいてくれよ~」
「こら、暴れない! また熱が上がるだろ!」
いつまでも布団に籠もって訳の解らない事を言って泣いている牛五郎に、哉汰もイライラしてきてしまう。
もう力技で布団を引っ剥がしにかかった。
布団を必死に掴む牛五郎と、引っ張る哉汰。
「布団が破れるよ」
「うう~」
布団が破れるのは困ると思ったのか、オズオズ顔を出す牛五郎。流石、節約家。
あーぁ、酷い顔。
涙でグチャグチャだし、顔も真っ赤だ。
そんな牛五郎の顔を見て欲情してしまう哉汰。
あー、困ったな。
調教してる牛に欲情するなんて調教師失格だよな。
「俺は牛五郎を捨てたりしないし、手放す気は無いよ。牛五郎は死ぬまで俺の側に居て。逃がしてやらない」
「本当に? 俺、ずっと哉汰の側に居られる? 人間じゃなくても? 乳牛じゃなくても?」
「ん? 牛五郎は乳牛だよ」
自分は何だと思っているのだろう。この牛は。
人間では無いが、人間よりの乳牛である。
実は闘牛だと思っていたとかだろうか。
闘牛の血は薄すぎる。
「牛美みたいに沢山ミルク出せない良い牛じゃない……」
シュンと落ち込んだ様子の牛五郎。
耳が立ったり垂れたり忙しなくて可愛い。
「牛美か。牛小屋の子達は乳牛の血が濃い商品だよ。牛美たちは俺のペットで、ミルクを売る為に飼っている。けど、牛五郎は執事だ。ミルクは俺が飲む分だけ出せれば十分良い子だよ。ミルクが出なくても俺の世話をしてくれるし、頭が良いし、器用だし、色々出来るだろ?」
牛美たちと牛五郎では比較対象にならない。
執事と、愛玩乳牛では全くの別物だ。
牛五郎だってそれを知っていて、頑張って執事になっただろうに。
「調教済みの執事を他所にやったじゃないですか! 俺も捨てるんだ!」
「あ? ああ、あれは替えが効く子だったんだ。お前は俺専属執事だろうが。他所にやる訳ねぇだろ!」
たくさん居る執事を他所にやるぐらい構わないが、自分専属の執事を他所にやる訳ない。
まさか牛五郎が、あの事をそんなに気にしていたとは思わなかった。
「それが不安で泣いてたのか?」
溜息を吐く哉汰に頷く牛五郎。
「そうか。不安にさせて悪かったな。俺はお前を手放さない。絶対だ。解ったか?」
そう言い聞かせ、頭を撫でてやる。
牛五郎はコクコク頷いてくれた。
解ってくれたらしい。
良かった。
「お薬飲めるか?」
牛五郎に薬を渡して水を飲ませる。
ちゃんと薬を飲んでくれた。
「ヨシヨシ、良い子。また寝てても良いよ」
牛五郎は頷いて布団に潜る。
控えめに布団から手が出て来て、服の裾を掴んだ。
「何処にも行かないよ」
手を握ってあげる。
牛五郎は安心した様子で、またスヤスヤ寝息をたてはじめた。
暫く牛五郎の寝顔を眺めて頭を撫でてあげ、リモート会議に出席した。
牛五郎が手を離してくれなかったので、手を繋いだままのリモート会議になってしまい、周りに気づかれないかドキドキしてしまった。
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