未来史シリーズ⑧カモンレッツゴーベースボール~よせ集め新チーム、他星へ遠征す。

江戸川ばた散歩

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第14話 「友達の、友達

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 翌朝、その男はやってきた。

「おはようございます!」

 その声の大きさは、食堂で朝食を摂っていた「サンライズ」メンツを驚かせるには充分だった。
 特に、マーティは呑んでいたコーヒーを吹き出す所だった。

「あ、トバリ監督ですか、おはようございます!」
「お、おはよう…… き、君は……」
「は。自分はイリジャ・アプフィールドと申します。クロシャール社『マサギ』営業所の者ですが」
「ああ、君が……」

 コロニー群「マサギ」地区は、「エンタ」に最も近い星域の地区だった。

「ああ君が。オーナーから最寄りの営業社員を向かわせる、と聞いたが、君のことかね」
「はい。しばらくはご同道させていただきます」
「まあ仕事と言ってもなあ…… この歳になって血気盛んな馬鹿どもが、下手に動かないように、よろしく頼むよ」

 散々だよなあ、と苦笑する者あり、爆笑する者あり。

「……で、あの、実は朝食、まだなんですが…… ここでも注文できますでしょうか」
「お、そうか。すぐに用意させよう」

 では、と彼はきょろきょろと空いている席を捜した。そしてにやり、と笑うと、投手陣の座っているテーブルに近づいた。

「すみません、ここ一つ空いてますよね」

 空いてますか、でもなく、いいですか、でもなく「空いてますよね」とその男は言った。

「空いてるよ」

 おや、とダイスは思う。何やらマーティの声が、ひどく憮然としているのだ。

「では失礼」

 そう言って彼は、ダイスの隣に陣取る。やがて食事が運ばれてくると、かなりのスピードがかき込み始めた。思わずダイスはその食べっぷりに圧倒される。

「……あの……」
「はに?」

 何、と彼は言ったつもりだろうが、口にものが入ったままである。

「いや、『マサギ』から来たということですが、ずいぶん速かったですねえ」
「うん」

 そしてまずごくん、と口に入れていたものを呑み込む。

「やー、知らせ受けて、すぐ飛んできたんですよ。こっちは夜中だったかねしれないけど、あっちはちょうど現地時間的には昼だったから」

 ああ、とダイスは納得する。

「それでまあ、一番速い便を使って、慌てて」
「けど俺は、お前が来るとは思わなかったよ、イリジャ」

 低い声で、マーティが口をはさんだ。

「あ、お知り合いなんですか?」
「友達の、友達」
「だから俺達は、直接の友達じゃあ、ないんだ」

 へえ、とダイスは改めてこの「営業社員」を見る。何やら、顔のパーツが一つ一つ突き出ているような印象を受けた。目にしろ、歯にしろ。
 しかしまあ、身体つきがスポーツマンのそれに酷似していることから、全体的にみれば、「格好いい」部類に入るのかもしれない。それに営業社員の特性として、人あたりがいい。それはかなりのプラス・ポイントだろう。

「トバリ監督に好印象植え付けたなら、上等」

とストンウェル。

「ビリシガージャのおっさんに比べると、あのひとは口うるさいからなー」
「あのひとが特別なんだよ」

 ははは、とマーティは今度は笑った。

「ビリシガージャさん?」
「ああ、お前は知らなかったっけ。俺達のテスト試合の時に、臨時で監督してくれたの。俺がコモドに居た頃の監督でもあったんだけどさ。やー、酒呑みで。でも面白いおっさんだったよ」
「へえ……」

 確かにそれに比べれば、現在の「サンライズ」のトバリ監督は、「口うるさい」と言われても仕方が無いとダイスも思う。と言うか、真面目なのだ。
 だがその監督のもとで、昨年はナンバー3リーグで初出場初優勝したのだから、良い監督ではあるはずである。少なくとも、ダイスはトバリ監督のことは嫌いではなかった。

「それで、ですが」

 イリジャは物を呑み込む合間を縫って、話を続ける。

「話は来るまでに、社長から聞きました。で、移動中にデータはある程度、収集してあります」
「早いね、あんた」

 ストンウェルはスプーンを振り回して感心してみせる。

「そりゃあまあ、営業の人間には素早い情報は命ですしねえ」
「けど、いつ寝てるんですか?」
「いつでも。移動時間は睡眠時間よ」

 ははは、と彼は歯をむき出しにして笑った。

「営業社員に必要なのは雑草の様な体力なんだぜ。ルーキー君」

 ふうん、と彼は素直に感心する。

「で、ラビイさん、改めて、お久しぶりです」
「何でお前なの?」
「何でって。これは本当に偶然ですってば。俺は一昨年は、あんた方を追いかけてましたが、去年からあそこの『マタギ』に転勤になっていたんですから。あ、もしかして、奴はまだ帰って来てません?」
「言うなよ…… 通信すれば連絡はくれるがな」
「いいじゃないですか。俺なんか奴が今何処に居るかも知らないんですからね」
「お前に居場所教えていいか、後で奴に聞いてみるよ」

 意味不明の会話が続く。ストンウェルもその件については、プライヴェイトは割り切っているらしく、明後日の方向を見て、アールグレイの紅茶をすすっていた。

「それじゃ皆聞け。昼食は球場に持ち込むから、お前等は今から三十分以内に、支度をしてここに集合」
「三十分!!」
「何だテディ、文句あるか?」
「いいえ~」

 監督は皆あらかた食事を終えた、と見ると、そう声を張り上げた。
 テディベァルは慌てて部屋に走って行った。

「あいつの髪って、異様に整えるのに時間かかるんだよなー」
「はあ」

 だったら切ってしまえばいいのに。
 短い頭の彼にはよく判らなかった。重力制御はどうも、髪にも影響があるらしい。試合の時は外してしまうので、特にちゃんと整えておかないと、跳ね回り方が尋常ではないのだ、ということだった。
 ダイスは、と言えば、歯を磨いてユニフォームに着替えて、という程度だから時間は掛からない。

「ま、監督もああ言ってることだし、とっとと行こうぜ」
「ああ」

 がた、と音を立てて、彼等もゆっくりと席を立った。

「友達の友達、って」
「ん?」

 背後から呼びかけると、マーティはやや複雑な表情でダイスの方を向いた。

「何? ダイちゃん」
「いえ、何でもないです」
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