未来史シリーズ⑧カモンレッツゴーベースボール~よせ集め新チーム、他星へ遠征す。

江戸川ばた散歩

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第9話 鳥かご球場と勢い余る先輩

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 皆はああ、とうなづく。

「どういう意味ですか?」
「お前寝てるから気付かなかったんだよ。あの天井、良く見てなかったろ」

 へへへ、と笑いながら言うストンウェルに、ダイスは恐縮する。
 幾ら時差ボケで寝こけていたとはいえ、敬愛なる中継ぎエースの登板も自分は見損ねているのだ。

「……すみません」
「まあいいさ。つまりな、ダイちゃん、まずこーやって缶詰があるだろ」

 マーティはベッドの上に、缶詰ならぬ、背の低いカップを下向きに置いた。

「その上にこう、すーっと下からドームが出てくるんだけど、その時ど、んな形をしていると思う?」
「形?」

 言われている意味が、良く判らなかった。

「球形のものが、そのまませり上がってくるってのは、難しいだろ?」

 ああそうか、とダイスははうなづいた。
 彼はビーチボールや、工作のパーツとして売られている地球儀の形を思い出そうとした。
 あんな尖った辺が組み合わさると、球形になってしまうのが不思議なんだな、と子供の頃、思ったものである。

「で、全体を36のパーツに分けてあるんだ。だから、一辺が10度ってとこだろうな」
「10度?」
「角度ですよ」

 ミュリエルが補足する。

「で、そのパーツが、細い骨組みに沿ってせり上がってくる。……まあ、中で蛇腹のようになっているんだろうな」

 こうやって、とマーティはカップの上で手を使って、その様子を真似する。

「で、ぴたっ、と一番上で合う訳だ」

 はあ、とダイスはうなづいた。

「つまりね、ダイス」

 ホイが口をはさむ。

「君は夜になって目を覚ましたから、気付かなかったかもしれないけれど、まだ僕等が球場から出た頃は、夕暮れでも空は明るかったから、その枠が、空に浮かび上がって見えたんだよ」
「あ、それが鳥かご、ということですか」

 ダイスはやっと納得した。

「まあ半球のボウルを両側からこう、うぃーんと」

 マーティはまた手で、その真似をする。

「……出す方法もあるのかもしれないけれど、その場合、もしそのドームが壊れた時の修繕が、厄介だろう?」

 厄介なの? と皆顔を見合わせる。厄介なんだよ、とストンウェルが一喝する。確かにそうですね、とミュリエルもうなづく。

「この惑星も、まあ確かに平和で安定しているけれど、そんなに滅茶苦茶裕福なとこ、って訳じゃないからさ。帝都本星付近のような大都会ならともかく、……ローコスト・ローリスクで行きたいんだろうな」
「まあ確かにね。で、それはまた、何処かに居るあんたの相棒のご意見?」

 ストンウェルは薄い笑いを浮かべながら、煙草を灰皿に押しつぶした。

「や、情報は相棒だけど、見解は、俺」

 そうですね、とミュリエルは人差し指を立てた。

「マーティの言うことは正しいと思いますね。私もコストはともかく、リスクを考えると、パーツはばらした方が、いいと思う」
「でもその中で、『取り付けるのが厄介な場所』って、結局どこなんでしょうね」

 ホイは改めて見取り図をのぞき込む。

「ま、何せ俺達は、アルクのチームだからなー。危険なことは、最大限予想してしまうクセがあるからなー」

 出身なのは、自分だけじゃないのか、とふとダイスは突っ込みたくなったが……やめた。
 何はともあれ、皆アルクに集結して、そこに馴染もうとしていることは、彼も良く知っていたのだ。

「と言う訳で、最悪の事態を想定しようか」

 マーティの提案に、皆、おし、とうなづく。

「客席」

 まずそうテディベァルが言った。

「あ、それは駄目ですよ」
「何で」
「客席に仕掛けたら、向こうにその気が無くても、パニックで人々が最悪、そうなるかもしれないし。そうすると、下手すると、そのパニック自体で被害者が出る」

 うーん、と「先生」の指摘にテディベァルはうなる。
 要するに、「最低能力で最大効果」という言葉に皆引っ掛かっているのだ。
 何に対しての「効果」なのかがはっきりしない。それが結局、その「もの」と「場所」を彼等に特定させるのを困難にしていたのである。

「バックスクリーンに仕掛けて、壊す」
「却下」

 マーティが手を挙げる。

「理由が無い」
「バックスクリーンに広告出してる企業が憎い、とかは?」
「……回りくどくねえか? それ」

 幾つかの意見が、飛び交った。
 ダイスはつい聞く側に回ってしまう自分に気付いていたのだが、よくまあ皆、可能性と予測がこれだけ口に出せるものだ、と感心してしまっていた、というのが本心である。

「なー、話し合ってるより、とりあえずてっとり早く、一回りしてみた方がいいんじゃねーのー?」

 テディベァルはそう言って、よいしょ、とベッドから飛び降りた。その途端、勢いが余って、彼はまた天井に頭をぶつけた。

「……テディよ、重力制御の目盛り、お前ちゃんと合わせたのか?」
「……そういうことは、つける前にちゃんと言ってくれ~」

 床にへたりながら、テディベァルはうめいた。
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