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第2話 かくして休暇は終わりぬ
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惑星コンシェルジェリの軍警支部にその知らせが入ったのは、中佐のもとに連絡員やってきた三日後だった。
軍警の若い士官達は、久々に見るコルネル中佐の機嫌をそっと伺う。
どうやら彼らの上官は、充分満喫した休暇を過ごしてきたらしい。機嫌は良さそうだった。彼らは皆一様にほっとする。
ところが彼らの安堵はそう長くは続かなかった。
彼らの上官が呼ばれた通信機の前から立ち上がった時、不吉な予感は、次第にその体積と密度を増していた。
彼ら軍警の実働隊にとって、コルネル中佐は畏敬と恐怖の対象だった。
このコンシェルジェリ支部において、彼は以前のサルペトリエールから転属してきてから、支部長、副支部長に次いでナンバー3の位置にあった。
実働隊を一人として指揮しない総責任者とは違い、いつでも前線に出て指揮をし、必ずと言っていい程任務を遂行し、帰還するのが彼だった。その姿勢が、実働隊の部下達に尊敬されない筈がない。
だが一方で彼は恐怖の対象でもあった。
確かに彼は必ず生きて帰るのだが、その際に手段を選ばない。
さすがに味方を売り渡すような行動に出ることはないのだが、「ついて行けない者は見捨てる」と公言し、それを明らかに実行に移している。
任務第一、の軍人としては当然なのだろうが、かつての様に大きな戦争も無い今日、まだ学校から出てきたばかりの若い士官や、「軍内部の不正を正す」とかの理想に燃えて軍警に配属されているような者には、彼の態度が冷酷に思えることも多い。それが反感にまで至らないのは、結果として彼の行動が正しいことが往々にしてあるからなのだが。
何にしろ彼は、その燃える火のような赤の髪、光の加減によって人間味を失わせる金色の目、といった強烈な外見もあって、遠まきに敬意を払われている。
まあ本人はそんなことはどうでも良いようだったが。
「さて諸君、任務だ」
彼の部下達は一様に、彼らの精神的休暇の終わりにこっそりとため息をついた。
「今回の事件の背景はそう難しいものではない」
中佐はスクリーンの前に立って部下に説明する。
「事件の舞台である惑星クリムゾンレーキは、十二年前の惑星全土的騒乱のために、現在に至るまで帝国軍の治安維持部隊に駐留され、管理されている。その程度はお前らも士官学校の歴史で習って知っているだろうな?」
はい、とまだ若い部下達は慌てて答える。
中佐は片手に愛用の鞭を短くして持ち、指示棒代わりに時々スクリーンを叩く。その音が部下達の背筋を寒くする。それが自分の背に当てられたことのある者は特に。
「治安維持部隊は、主に帝都の防衛隊から定期的に人員を交換されて派遣される。それは何故だ? アンバー中尉」
まだ若い中尉は慌てて立つ。
「はっ、はい、当地との密接な結びつきを防止するためであります」
中佐はうなづく。アンバー中尉はほっと胸をなで下ろしながら着席する。
「そうだな。帝都から派遣される連中は、統治マニュアルに沿って統治することだけだ。それ以上のことなんぞ要求されねえし、下手にそれ以上のことをすりゃ、ボーナスの査定に関わる。昇級にも関わる」
くっ、と一瞬口の中で笑う者が居たので、彼はちら、とその方向へ視線を向けた。さっとその一人から血の気が引いた。
「つまりは、下手に長く居て、そこの人間と交流を深めるなんてことは望まれちゃいねえんだ。そのために、人員が三年以上そこに駐留することはない。その代わり、マニュアルはその都度その地に合ったものに事細かに書き換えられる。オーカー少尉、何故だか言ってみろ」
先ほど口の中で笑ってしまったオーカー少尉は、はい、とバッタのような勢いで立ち上がった。
「は…… はい! えーと」
「ちゃんと聞いてろ。座れ」
オーカー少尉は冷や汗をかきながら座った。
「まあ、マニュアルがよく変わるってのは、中央が常に駐留地に注意を払っているってことだし、現地に居る奴に、上手く統治させないようにしている、とも言える」
はあ、と部下達の間から声が上がった。
「だが変化が多い状態であるからこそ、現場の連中は、無視もできねえ。何せこの役に居れば特別手当が出る。それに任期は短い。下手に逆らって任期半ばにして帰されるってのは割に合わないと考えるのが普通だ」
ああ、と部下達はうなづく。
「ところが、そこでそういう馬鹿が出やがった」
部下達の表情が固くなる。
「今年の人事移動で交換されたクリムゾンレーキの人員は、全体38人中10人だ。そのうちの誰かが馬鹿だった」
スクリーンはその「馬鹿」達の写真が映し出された。途端にあ、と小さく声を立てる者が居た。
中佐はそれにちら、と視線をやったが、すぐにスクリーンに視線を移した。
「この中に首謀者は居る。だが特定に関しては我々の範疇ではない。我々の任務は、現地軍の管理下に置かれた治安維持部管制塔の奪回にある」
部下達の表情が厳しくなった。
「参加メンバーを発表する」
軍警の若い士官達は、久々に見るコルネル中佐の機嫌をそっと伺う。
どうやら彼らの上官は、充分満喫した休暇を過ごしてきたらしい。機嫌は良さそうだった。彼らは皆一様にほっとする。
ところが彼らの安堵はそう長くは続かなかった。
彼らの上官が呼ばれた通信機の前から立ち上がった時、不吉な予感は、次第にその体積と密度を増していた。
彼ら軍警の実働隊にとって、コルネル中佐は畏敬と恐怖の対象だった。
このコンシェルジェリ支部において、彼は以前のサルペトリエールから転属してきてから、支部長、副支部長に次いでナンバー3の位置にあった。
実働隊を一人として指揮しない総責任者とは違い、いつでも前線に出て指揮をし、必ずと言っていい程任務を遂行し、帰還するのが彼だった。その姿勢が、実働隊の部下達に尊敬されない筈がない。
だが一方で彼は恐怖の対象でもあった。
確かに彼は必ず生きて帰るのだが、その際に手段を選ばない。
さすがに味方を売り渡すような行動に出ることはないのだが、「ついて行けない者は見捨てる」と公言し、それを明らかに実行に移している。
任務第一、の軍人としては当然なのだろうが、かつての様に大きな戦争も無い今日、まだ学校から出てきたばかりの若い士官や、「軍内部の不正を正す」とかの理想に燃えて軍警に配属されているような者には、彼の態度が冷酷に思えることも多い。それが反感にまで至らないのは、結果として彼の行動が正しいことが往々にしてあるからなのだが。
何にしろ彼は、その燃える火のような赤の髪、光の加減によって人間味を失わせる金色の目、といった強烈な外見もあって、遠まきに敬意を払われている。
まあ本人はそんなことはどうでも良いようだったが。
「さて諸君、任務だ」
彼の部下達は一様に、彼らの精神的休暇の終わりにこっそりとため息をついた。
「今回の事件の背景はそう難しいものではない」
中佐はスクリーンの前に立って部下に説明する。
「事件の舞台である惑星クリムゾンレーキは、十二年前の惑星全土的騒乱のために、現在に至るまで帝国軍の治安維持部隊に駐留され、管理されている。その程度はお前らも士官学校の歴史で習って知っているだろうな?」
はい、とまだ若い部下達は慌てて答える。
中佐は片手に愛用の鞭を短くして持ち、指示棒代わりに時々スクリーンを叩く。その音が部下達の背筋を寒くする。それが自分の背に当てられたことのある者は特に。
「治安維持部隊は、主に帝都の防衛隊から定期的に人員を交換されて派遣される。それは何故だ? アンバー中尉」
まだ若い中尉は慌てて立つ。
「はっ、はい、当地との密接な結びつきを防止するためであります」
中佐はうなづく。アンバー中尉はほっと胸をなで下ろしながら着席する。
「そうだな。帝都から派遣される連中は、統治マニュアルに沿って統治することだけだ。それ以上のことなんぞ要求されねえし、下手にそれ以上のことをすりゃ、ボーナスの査定に関わる。昇級にも関わる」
くっ、と一瞬口の中で笑う者が居たので、彼はちら、とその方向へ視線を向けた。さっとその一人から血の気が引いた。
「つまりは、下手に長く居て、そこの人間と交流を深めるなんてことは望まれちゃいねえんだ。そのために、人員が三年以上そこに駐留することはない。その代わり、マニュアルはその都度その地に合ったものに事細かに書き換えられる。オーカー少尉、何故だか言ってみろ」
先ほど口の中で笑ってしまったオーカー少尉は、はい、とバッタのような勢いで立ち上がった。
「は…… はい! えーと」
「ちゃんと聞いてろ。座れ」
オーカー少尉は冷や汗をかきながら座った。
「まあ、マニュアルがよく変わるってのは、中央が常に駐留地に注意を払っているってことだし、現地に居る奴に、上手く統治させないようにしている、とも言える」
はあ、と部下達の間から声が上がった。
「だが変化が多い状態であるからこそ、現場の連中は、無視もできねえ。何せこの役に居れば特別手当が出る。それに任期は短い。下手に逆らって任期半ばにして帰されるってのは割に合わないと考えるのが普通だ」
ああ、と部下達はうなづく。
「ところが、そこでそういう馬鹿が出やがった」
部下達の表情が固くなる。
「今年の人事移動で交換されたクリムゾンレーキの人員は、全体38人中10人だ。そのうちの誰かが馬鹿だった」
スクリーンはその「馬鹿」達の写真が映し出された。途端にあ、と小さく声を立てる者が居た。
中佐はそれにちら、と視線をやったが、すぐにスクリーンに視線を移した。
「この中に首謀者は居る。だが特定に関しては我々の範疇ではない。我々の任務は、現地軍の管理下に置かれた治安維持部管制塔の奪回にある」
部下達の表情が厳しくなった。
「参加メンバーを発表する」
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