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第4話 相棒が迎えに来るのはいいことだ。
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「……まあ確かにあの三人じゃなあ」
超マイペースのヴォーカリストと、豪快なドラマーと、頼りになりそうなベーシストの姿が一気にP子さんの脳裏を駆けめぐった。
なかなか戻って来ないなあ、と思いながらオーダーしたレバ串をかじっていると、ぴろぴろ、と軽い音が響いた。
「あれ、FAVさんのじゃないですか?」
「ホントだ。出ていいですかねえ」
「だって番号知ってるの、身内くらいなものでしょ?」
はい、とKAYAはFAVの上着のポケットから携帯を取り出して、P子さんに渡した。
「何でワタシなんですか」
「あたしが出るよりいいですよぉ。メンバーでしょ?」
へいへい、としぶしぶP子さんは着信ボタンを押す。
「…もしもし? FAVでしたらちと今出てますよー」
『あーP子さんだな。わはははははは』
アルトの声が響いた。その大きさに思わずP子さんは耳を離す。何ですか一体、とKAYAはギョーザを取りかけた手を止める。
「アナタですかTEAR。何ですか一体」
『あんたが出るってことは、わははははは、やっぱりあの人、ぶっ倒れたか何かだな』
「アナタねえ」
P子さんは思わずため息をついた。同居人は予想はしていたのだろう。
『や、今何処? FAVさん迎えに行くよ。あ、さっきKAYAの声がしたな。LUXURY全員居るの?』
「や、KAYAとKTとシーナの三人」
『ふーん。それだけ?』
「や、LUCKYSTARのメンツも居ますよ」
『なるほど。じゃああそこだな』
携帯の向こう側から、この店の名前が聞こえてくる。お見事、とP子さんは思わずにはいられない。
「アナタ今何処なんですか」
『や、今駅だよ。どっちに向かおうかな、と思ってさ』
そういえば、相手の声の大きさに気を取られていて気付かなかったが、周囲のざわめきと、駅特有のアナウンスが時々聞こえてくる。よく考えてみれば、電波状態も良くないではないか。
『ま、もう少しよろしくねー。あ、そっち行きが来た』
一方的に電話は切れる。切ったのを見て、KAYAは身を乗り出す。
「TEARさんだったんですかあ?」
「そ。迎えに来ますとさ」
「へええ。まめですねえ」
「そうですね」
音楽とFAVさんにに関してだけですがね。
さすがにP子さんもその言葉はビールと一緒に飲み込んだ。
やがてKTに支えられてFAVが戻ってきた。P子さんは座敷席の一部を彼女が寝ころべるように空けてやる。
「大丈夫そうですかね?」
「うーん……」
KTは細い目を更に眇めて細くする。
「何つか、あたしには判らんですからねー。おかげでウチのIMAGE《いまーじゅ》にもぼかすか言われてるくらいだし」
「まあ仕方ないよなあ」
やや離れて呑んでいたLUXURYのシーナものそのそと様子を見に来る。
「判らんもの判らん。そりゃー仕方ないって」
「仕方ないで終われば世界は平和なんだよっ!」
KAYAは長いつきあいの友人に歯をむき出す。
*
三十分程して、派手な女が店に入ってきた。
いらっしゃいませー、という声で扉の方を向くと、そこには濃い顔立ちに胸ぼん腰ぼん、の背の高い女が居た。
お一人で? と聞く店員に、何やら聞いている。ああ、と店員はうなづくと、集団で呑んでいる方まで案内をした。
「よ、お姫さんを迎えに来たよ」
「遅いですよ~TEARさん」
いつの間にかまた脚の上に乗っかられているKTは泣きまねをする。
「へいへい。もしもしFAVさん生きてる?」
ぽんぽん、とTEARは同居人の背を軽く叩く。
「死んでる~」
「はいはい、じゃあ帰ろ」
「帰る~」
素直なことはいいことだ、とP子さんは奇妙に感心する。
この同僚ギタリストがこんなに素直に言うことを聞くことは滅多にない。特にこのベーシストに対しては。
よ、と後輩の膝から同居人を引き剥がすと、軽々と立たせて肩を貸す。
もしかしたら背負ったり抱きかかえたりも可能なのではないか、とP子さんは思ったが、あえてここで口には出さない。
「明日払うからさ、立替といてくれね?」
「FAVさんの分だけで良ければ。皆さんちゃんと自分の分は自分で出しましょう~」
さりげなくP子さんは女達に牽制球を投げた。
牽制球は非常に良く効いた。二人を見送ったら、いつの間にか、お開きが目の前にやってきていた。
やはり主賓が居ないことには呑み会も面白くはない。
「呑む口実」として主賓は使われることも多いが、FAVに関しては、「口実」ではなくあくまで「主賓」だったのだ。FAVさん居ないとつまらないねー。じゃあ帰ろうっかー。そんな声がいつの間にか飛ぶのである。
*
「今日は悪かったね」
P子さんは駅で別れ際、神奈川方面へ戻るLUXURY組に言った。
「や、いーですよ」
「ねえ。仕方ないっすよ。不可抗力不可抗力」
「しかしホント、人によりますよねえ」
三人してうなづき合う。普段どれだけ音楽で闘い合っているバンドメンバーでも、この点に関しては意見の一致を見るようだった。
さて。
超マイペースのヴォーカリストと、豪快なドラマーと、頼りになりそうなベーシストの姿が一気にP子さんの脳裏を駆けめぐった。
なかなか戻って来ないなあ、と思いながらオーダーしたレバ串をかじっていると、ぴろぴろ、と軽い音が響いた。
「あれ、FAVさんのじゃないですか?」
「ホントだ。出ていいですかねえ」
「だって番号知ってるの、身内くらいなものでしょ?」
はい、とKAYAはFAVの上着のポケットから携帯を取り出して、P子さんに渡した。
「何でワタシなんですか」
「あたしが出るよりいいですよぉ。メンバーでしょ?」
へいへい、としぶしぶP子さんは着信ボタンを押す。
「…もしもし? FAVでしたらちと今出てますよー」
『あーP子さんだな。わはははははは』
アルトの声が響いた。その大きさに思わずP子さんは耳を離す。何ですか一体、とKAYAはギョーザを取りかけた手を止める。
「アナタですかTEAR。何ですか一体」
『あんたが出るってことは、わははははは、やっぱりあの人、ぶっ倒れたか何かだな』
「アナタねえ」
P子さんは思わずため息をついた。同居人は予想はしていたのだろう。
『や、今何処? FAVさん迎えに行くよ。あ、さっきKAYAの声がしたな。LUXURY全員居るの?』
「や、KAYAとKTとシーナの三人」
『ふーん。それだけ?』
「や、LUCKYSTARのメンツも居ますよ」
『なるほど。じゃああそこだな』
携帯の向こう側から、この店の名前が聞こえてくる。お見事、とP子さんは思わずにはいられない。
「アナタ今何処なんですか」
『や、今駅だよ。どっちに向かおうかな、と思ってさ』
そういえば、相手の声の大きさに気を取られていて気付かなかったが、周囲のざわめきと、駅特有のアナウンスが時々聞こえてくる。よく考えてみれば、電波状態も良くないではないか。
『ま、もう少しよろしくねー。あ、そっち行きが来た』
一方的に電話は切れる。切ったのを見て、KAYAは身を乗り出す。
「TEARさんだったんですかあ?」
「そ。迎えに来ますとさ」
「へええ。まめですねえ」
「そうですね」
音楽とFAVさんにに関してだけですがね。
さすがにP子さんもその言葉はビールと一緒に飲み込んだ。
やがてKTに支えられてFAVが戻ってきた。P子さんは座敷席の一部を彼女が寝ころべるように空けてやる。
「大丈夫そうですかね?」
「うーん……」
KTは細い目を更に眇めて細くする。
「何つか、あたしには判らんですからねー。おかげでウチのIMAGE《いまーじゅ》にもぼかすか言われてるくらいだし」
「まあ仕方ないよなあ」
やや離れて呑んでいたLUXURYのシーナものそのそと様子を見に来る。
「判らんもの判らん。そりゃー仕方ないって」
「仕方ないで終われば世界は平和なんだよっ!」
KAYAは長いつきあいの友人に歯をむき出す。
*
三十分程して、派手な女が店に入ってきた。
いらっしゃいませー、という声で扉の方を向くと、そこには濃い顔立ちに胸ぼん腰ぼん、の背の高い女が居た。
お一人で? と聞く店員に、何やら聞いている。ああ、と店員はうなづくと、集団で呑んでいる方まで案内をした。
「よ、お姫さんを迎えに来たよ」
「遅いですよ~TEARさん」
いつの間にかまた脚の上に乗っかられているKTは泣きまねをする。
「へいへい。もしもしFAVさん生きてる?」
ぽんぽん、とTEARは同居人の背を軽く叩く。
「死んでる~」
「はいはい、じゃあ帰ろ」
「帰る~」
素直なことはいいことだ、とP子さんは奇妙に感心する。
この同僚ギタリストがこんなに素直に言うことを聞くことは滅多にない。特にこのベーシストに対しては。
よ、と後輩の膝から同居人を引き剥がすと、軽々と立たせて肩を貸す。
もしかしたら背負ったり抱きかかえたりも可能なのではないか、とP子さんは思ったが、あえてここで口には出さない。
「明日払うからさ、立替といてくれね?」
「FAVさんの分だけで良ければ。皆さんちゃんと自分の分は自分で出しましょう~」
さりげなくP子さんは女達に牽制球を投げた。
牽制球は非常に良く効いた。二人を見送ったら、いつの間にか、お開きが目の前にやってきていた。
やはり主賓が居ないことには呑み会も面白くはない。
「呑む口実」として主賓は使われることも多いが、FAVに関しては、「口実」ではなくあくまで「主賓」だったのだ。FAVさん居ないとつまらないねー。じゃあ帰ろうっかー。そんな声がいつの間にか飛ぶのである。
*
「今日は悪かったね」
P子さんは駅で別れ際、神奈川方面へ戻るLUXURY組に言った。
「や、いーですよ」
「ねえ。仕方ないっすよ。不可抗力不可抗力」
「しかしホント、人によりますよねえ」
三人してうなづき合う。普段どれだけ音楽で闘い合っているバンドメンバーでも、この点に関しては意見の一致を見るようだった。
さて。
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