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第22話 女の戦士が居てほしいシャンポン、編みの手を教えるウリュン

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「貴方がこんなに器用だとは思わなかったですよ」

 マヌェに手取り足取り教えるウリュンに、シャンポンはやや驚いた表情を向ける。

「お前はどうなんだ? 一緒に覚えた方が良くないか? マヌェは楽しそうだぞ」
「向いておりません。何せ細かすぎる」

 実際、一つ一つ説明するとマヌェは実に楽しそうに延々同じものを編み続ける。鎖編みならひたすら長く。ちょっと編みすぎだ、と思ったら、その上にだんだん次の編み方を加えさせて。
 教わっている時、カリョンは言った。

「私も女君から教わったのはこれだけです。あとは全て組み合わせで美しい模様も、柔らかな生地も作ることができます」

 そしてまだ女君/アリカからは全てを教わってはいない、とのことだった。

「まだ覚えなくてはならないことがあるのはしんどくないか?」

 細かな作業なので、そう問いかけると。

「願ったり叶ったりです。それにこうやってウリュン様も私のところに教わりにくるでしょう?」

 その言い方には少し心が飛び跳ねた。

「どんな地位の方でも、その使いの方でも、まず私に、というのは凄く気持ちいいですよ!」

 そういうものか、と肩をすくめたら、そういうものですよ、と彼女は更に笑顔になった。
 そして自分の斜め前に居る妹の一人も普段より生き生きとした笑顔になっている。

「いいものだな。自分の役目を何だかんだ言って楽しめる者というのは」
「兄上は軍務が楽しくはないのですか?」
「……楽しい楽しくないで就いている役目ではないからな」
「私が就けるものなら就きたいところですが」
「さすがにそれはな」

 彼は首を横に振った。

「過去に先帝陛下が平定された地域の中には、女子の戦士が居たところもあったそうではないですか」
「それはそもそもの人口が少ない所だろう」

 ひとまずやり方は理解した様なマヌェはそのままにしておき、シャンポンの話に応じる。

「最後に滅ぼした桜の国にしても、武芸者ということで女子は結構居たということです。あの国は決して少ない人口ではなかったと思いますが」
「あと気候も違う。桜の国はこの帝都付近とは違い、全体的に暖かい。時には暑い。そういう国では家の護りは北の国より緩めになるだろう」

 そう言ってはいても、ウリュンとて確信がある訳ではない。
 とりあえず現在の帝国は、最初の皇帝が草原から出ていることが大きい。
 それが次第に様々な部族を平定しながら南下し、河の付近の平地に都城を作ったのがはじまりなのだ。
 では草原に女戦士はいなかったか、というと。
 全く居ない訳ではないから困るのだ。そもそも、最初の皇后、―――冬闘初后と現在は呼ばれ、天下御免のお墨付きで放浪しているという人は、名が示す通り、闘う女性だった。初代皇帝の盟友でもあったという。
 だが一度帝都、やがてはその帝都の出入りも「成人」である十六歳以上と限定される頃には、すっかり女の戦士は見られなくなった。

「女の方が、その地に根付いて土地を豊かにする仕事があるんだ。そして郷里であぶれた男達が軍に入ってくる」
「それは判っているのですが」
「逆に考えてみろ。俺とは言わない。だがどんな場所でも男の仕事には向かない様な繊細な心持ち、華奢な手を持って生まれてしまった男子の行き先というのもなかなか哀れなものだぞ」

 だから、とウリュンはマヌェの方をちら、と見て言う。

「家のことはお前が好きにすればいい。俺は将軍の息子として、軍に居なくてはならないのだから。俺が何かの折りに死んだら、お前がこの家を継げばいいんだ」
「兄上……」

 少し前までは、ウリュンに何かあったら家を継ぐのはアリカだった。だがアリカはそれどころではなくなってしまった。

「シャンポン、お前は婿は取らないのか?」
「用意してくださるとでも?」
「……なるほど、その程度か」

 自主的に結婚することは考えていない、ということがうかがえた。無心に作業に取り組んでいるこの妹についていたいのだろう。

「……ああ、でも兄上、セレ姉様の婚儀の話も早くしないと。母上は向こう様に恥ずかしくない程度には美しいものを揃えたい、と言ってました」

 ああ、と四人姉妹の一番上のことを思い出す。セレナルシュは結局アリカのてんやわんやで結婚式が延びているのだ。アリカの出産は大変な騒ぎになるので、その前に済ませておきたい、ということだろう。

「セレ姉様に綺麗なものをつくりたいわ」

 唐突にマヌェは言った。

「シャンポン、ふわふわした糸ってないの?」
「ふわふわした糸…… この編み飾りはもっときつい糸じゃないのかい?」
「いや、どんな糸でもいいと聞いた。その糸によって、出来具合も違うのだと」
「セレに白い鳥の翼のような大きなふわふわした肩掛けをつくりたいの」

 またそれはいきなり。兄と姉は顔を見合わせた。

「だめ?」
「私がお前に駄目と言ったことはないだろう? マヌェ」

 シャンポンはそう言って見上げる妹の頭を撫でた。わぁい、と言って妹は姉の手を取って頬ずりする。
 仲が良いなあ、としみじみ思う。こういう時一人息子というのは損だ、と彼はやや寂しくなる。

「あ!」

 からり、と開いた戸の向こうから、流行の木瓜ぼけ色の重ねでまとめた服を着たもう一人の妹が入ってきた。

「お帰りなさい兄様。教えてもらってきたの!?」

 そう言ってマヌェが作った鎖編みやその続きを取り上げる。じっと見つめ、ふぅん、と彼女は首を横に振った。

「私にはこの根気は無いわ! メイリョンの方が器用だから、後で兄様のところに行かせるわ!」

 マドリョンカは自分の乳母子のことを持ち出す。

「いや俺も忙しい。メイリョンだってお前のその衣装の片付けで忙しいだろう。手順そのものは簡単だ、覚えていけ」

 仕方無いわねー、とマヌェの作ったものをテーブルの上に放り出すと、マドリョンカは椅子に座った。
 マヌェは慌てて編んだものに手を伸ばし、今度は取られない様に、と思ったのか、自分の腕の中に囲い込んだ。
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