未来史シリーズ⑩レッドリバー・バレー~こんな所にやばい石が!

江戸川ばた散歩

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エピローグ2 もう一つの可能性

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 さてその頃。
 惑星「ウェストウェスト」の宿舎にベースボール・チーム「アルク・サンライズ」の選手達が帰還した。
 最初に到着したヒュ・ホイ捕手は、フロントで手紙をまとめてもらう。
 別に誰が、ということではないが、何かとまめなこの正捕手は、ついついそういうことをしてしまうらしい。

「ストンウェルさーん、急ぎの手紙らしいですよ。転送されてきてます」
「サンキュ、ホイ。マーティには何か来てるかい?」
「や、マーティさんには特には」
「了解」

 何ヶ所目かの遠征地で、ノブル・ストンウェルは兄からの手紙を受け取った。
 しかし珍しいな、と彼は思う。手紙、というにはずいぶんと分厚い。
 ―――と言うか、クッションシートが入っている。
 壊れ物だろうか? と彼は思いながら、自室のベッドに腰掛けた。

「へー、手紙。何かいいねえ、おにーちゃんからかい」

 同室の投手仲間・マーティ・ラビイが問いかける。

「その様だけど… 珍しいなあ、奴が寄越してくるなんて」
「こないだ、事件に巻き込んだから心配してんじゃない?」
「や、そんなことであれこれ言う程、『ランプ』の男は…」

 言いながら、封を破くと、ころん、とベッドの上に一つの石が転がった。

「何だこりゃ」

 ストンウェルはそれをつまみ上げる。乳白色の、小さな石のかけらだった。

「宝石の原石にしては何か変だし…」
「…おい」

 光にさらそう、とした時、マーティがその手をがっ、と掴んだ。ストンウェルは驚いて目をむく。

「な、何だよ」
「それ… ちょっと良く見せてくれ」
「い、いいけどさ…」

 同僚のそんな顔は、初めて見た、とストンウェルは思った。おかげで心臓の動悸が激しくて仕方がない。困ったものだ。
 そしてよく見てみると、中には短い手紙が入っていた。

『よぉ弟元気か。
 俺はこないだアリゾナの勤務を終えて、ノーヴィエ・ミェスタに移ることになった。最短記録だ。』

 そこまで読んでストンウェルはくす、と笑う。確かにそうだ。一ヶ月少し、しか確か経っていないはずだ。

『本題に入る。
 同封した石を見てくれ。それはアリゾナでちょっとしたきっかけで俺の手に入った欠片だ。
 マーティ・ラビイさんに見せてくれないか。
 気に掛かることが、ある』

 マーティに?
 しかし当の本人が、既に今まで見たことのない様な真剣な顔で、その鉱石をにらんでいるではないか。

「…おい、マーティ」

 多少の声で呼んでも、返事もしない程に。

『もう今はその欠片と同じものはアリゾナには全く無い。
 それはいい。記念に残しておこうと思った。
 そうしたら、こないだお前が言ってた話を思い出した。
 乳白色の石だ、とお前は言ったな。違うか?
 俺には判らない。だから彼に見せてやってくれ。
 それからどうするか、はまた会った時にでも話そう。』

 そしてその後に、ノーヴィエ・ミェスタでの連絡先が書いてあった。
 ジャスティスがそんな風にノブルに連絡をしてくるというのは初めてだった。何かあったのだろうか、と彼は思う。心配はしない。お互い、何かしらのトラブルがあっても、解決できるだろう、という信頼がある。
 と言うか、向こうに本当の意味で危機があったなら、どれだけ離れていても、自分の頭に何かしらの異変が起こるはずなのだ。
 しかしそれは無い。あくまで、兄が、兄の許容範囲の中で、ショックを受けることがあったのかもしれない。

「マーティ… もしかして、それが、パンコンガン鉱石、なのか?」

 敬愛なる同僚は、ぱっ、と顔を上げた。そして真剣な目でストンウェルを見ると、そうだ、とうなづいた。

「何だってまた、こんなものがあるんだ?」

 ストンウェルはすっ、と兄からの手紙を差し出した。下手に口で説明するより、こういう時は文書そのままを見せたほうが早いし、誤解も無い。

「アリゾナ」
「そう、アリゾナ。…レーゲンボーゲンも辺境だけど、ずいぶん違う方向だと思うけどな」
「ああ… だけど『パンコンガン』はライにしか無いはずだったんだが…」
「ジャスティスはしばらくはノーヴィエ・ミェスタだ。うちがその付近を通りかかることは… まだしばらく無いな」
「だがパンコンガンが関わってくると、下手に高速通信とかするのが俺としては、怖いよ」

 怖い。その言葉にストンウェルは驚く。

「あんたでも、怖いものがあるのかい? マーティ」
「俺には怖いものだらけさ。そう、できれば雪の日の夜明けなんて、そうそう見たいものじゃない」

 まあトラウマにまではなってないけど、と彼は付け足す。

「俺達がホームに戻るのは?」
「もうじきじゃなかったかな。さすがに」
「…判った」

 マーティはうなづいた。そして慌てて通信端末の設定を長距離の高速にした。
 何処に掛けるのだろう、と別に隠しもしていないマーティの姿にストンウェルは神経をとがらせる。

「…やあ、久しぶり。すぐにあんたに連絡が取れるとは思っていなかったけど… そう。気になることができた。ただ、ここで言うのはちょっと… いや別に、周囲がどう、ということじゃない。むしろ… そう、そっちだ。俺があんたに直接通信を取る、という用事だよ。あんたはたぶん乗ってくる」

 一体誰につないでいるのだろう、とストンウェルの中で好奇心が膨らむ。しかし会話の向こう側の相手はさすがに判らない。
 マーティ・ラビイは、何かと自分の知らない範囲に友達や知り合い、もしくは「かつての戦友」とも言っていい相手が居る。
 それはストンウェルにとっては未知の部分であるので、余計に気になるのだ。

「だからすまないけれど、公務忙しいのは判りけど、うちがロード終わった時、会ってくれないか? …オッケー。あんたはそういうと思ってたよ、ジオ」

 にやり、と笑うと、彼は通信を切った。

「ジオ?」
「ああ、聞いてたのか。別にいいけど。ジオってのは、あだ名。昔俺達がつるんでいた頃のな。本名は、ゼフ・フアルトって言う奴」
「ゼフ・フアルト!」

 ちょっと待て、とストンウェルは腰を浮かした。

「それって」
「そう、アルクの科学技術庁長官さ」

 手の中には、乳白色の鉱石が、微妙に発光していた。
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