155 / 170
3年後、アルク再び(俯瞰視点三人称)
92 『偉大なる総統閣下、敬愛なる宣伝相閣下のご冥福を祈ります』
しおりを挟む
「お?」
と、首府のある一角で、TVを睨む様にして見ていた男達が声を立てた。
あれは対戦車砲じゃないか、と「赤」の若い一人はつぶやいた。
確かにそうだ、と「緑」の一人もつぶやいた。
官邸に出かけた五人の安否も判らないまま、そのまま首都に留まった、この反政府組織のメンバー達は中央放送局の番組に見入っていた。
出来上がったばかりのスタジアム。
自分達の殺そうとした、総統閣下ヘラのために作られた。
だが彼らには、それ以上の手出しはできなかった。
「赤」の代表ウトホフトからの指示も無かったし、それにあの日出向いた、BPを含めた五人は、この首府に留まるメンバーの中でも、手練れのはすだったのである。
そんな五人を欠いたまま、下手に動く訳にはいかなかった。
なのに。
「何で、あんなことが起こるんだ?」
それは突然消えた放送と同時に起きた、メンバーの共通した疑問だった。
「俺達じゃないぞ?」
「当たり前じゃないか!」
真っ先に疑われるのは、反政府集団だ――
彼らも容易に予想できるところだった。
しかし、自分達ではない。自分達ではないのだ。
「一体誰が……」
腰を浮かして、今にもその真相を掴みにスタジアムへ走りたいところだった。
しかし。
その時、いきなりTVのスピーカーから、ノイズが走った。
『親愛なる首府民の皆様新年おめでとう! ……そして総統閣下と宣伝相閣下のご冥福を祈りますことよ』
あ、と構成員達は、口々に声を上げた。
「海賊電波だ」
*
「海賊電波だわ!」
ゾフィーは思わずコンソールに両手を叩きつけていた。
「……これじゃ……」
彼女は唇を噛む。
この海賊電波は、他の電波を全て駆逐する勢いで、その場に放送を流すのだ。
「や、でも、音声だけだったじゃないすか、今まで……」
戻ってきたリルが、そうなだめる様に彼女に話しかける。
「リル君! ……どうだったの?」
ゾフィーは弾かれた様にリルの方に顔を上げた。
しかし、相手は黙って首を横に振った。
ゾフィーは口に手を当てる。
「今さっき、廊下を担架が二つ、運ばれていくのを見ました。だけどその様子は、一刻を争うけが人の輸送、という感じではなかったんす」
「ってぇことは?」
他のスタッフまでもが、声を上げる。
「……おそらく、もう……」
リルは再び首を横に振った。
ああああああああ! と、ゾフィーはその場にしゃがみこんだ。
『偉大なる総統閣下、敬愛なる宣伝相閣下のご冥福を祈ります』
海賊放送の声が、彼女の耳にも入る。それは決していつもの嘲笑する声とは違う。
ゾフィーは立ち上がると、コンソールにつけられたスピーカーに思い切り両手を振り上げた。
「黙んなさい!」
そして何度も、何度も、彼女はその行為を繰り返した。
彼女がテルミンと友達であることを、その場の皆が知っていた。
恋人ではないか、と疑っている者も居た。
区別はどうでもいい、とリルも思った。
「この電波は一体何処から出てるの!」
一陣の嵐が治まった後、ゾフィーはうめく様な声でそう周囲のスタッフに訊ねた。
「たどることはできないの!?」
「レベカさん」
おずおずと、スタッフの一人が、彼女の剣幕に押されながらも、手を上げた。言って、と彼女は命ずる。
「その海賊放送の発信者が、もし放送用端末、携帯型のそれを使っているなら、方法は無くはないです」
「あるの?」
「はい。ですが、そんなことは……」
口に出した割には、自分の言ったことを否定する様な勢いだった。
ゾフィーは低い声でつぶやく。
「後で教えてちょうだい。役に立たなくてもいいわ」
はい、とスタッフは、そう答えるしかなかった。
と、首府のある一角で、TVを睨む様にして見ていた男達が声を立てた。
あれは対戦車砲じゃないか、と「赤」の若い一人はつぶやいた。
確かにそうだ、と「緑」の一人もつぶやいた。
官邸に出かけた五人の安否も判らないまま、そのまま首都に留まった、この反政府組織のメンバー達は中央放送局の番組に見入っていた。
出来上がったばかりのスタジアム。
自分達の殺そうとした、総統閣下ヘラのために作られた。
だが彼らには、それ以上の手出しはできなかった。
「赤」の代表ウトホフトからの指示も無かったし、それにあの日出向いた、BPを含めた五人は、この首府に留まるメンバーの中でも、手練れのはすだったのである。
そんな五人を欠いたまま、下手に動く訳にはいかなかった。
なのに。
「何で、あんなことが起こるんだ?」
それは突然消えた放送と同時に起きた、メンバーの共通した疑問だった。
「俺達じゃないぞ?」
「当たり前じゃないか!」
真っ先に疑われるのは、反政府集団だ――
彼らも容易に予想できるところだった。
しかし、自分達ではない。自分達ではないのだ。
「一体誰が……」
腰を浮かして、今にもその真相を掴みにスタジアムへ走りたいところだった。
しかし。
その時、いきなりTVのスピーカーから、ノイズが走った。
『親愛なる首府民の皆様新年おめでとう! ……そして総統閣下と宣伝相閣下のご冥福を祈りますことよ』
あ、と構成員達は、口々に声を上げた。
「海賊電波だ」
*
「海賊電波だわ!」
ゾフィーは思わずコンソールに両手を叩きつけていた。
「……これじゃ……」
彼女は唇を噛む。
この海賊電波は、他の電波を全て駆逐する勢いで、その場に放送を流すのだ。
「や、でも、音声だけだったじゃないすか、今まで……」
戻ってきたリルが、そうなだめる様に彼女に話しかける。
「リル君! ……どうだったの?」
ゾフィーは弾かれた様にリルの方に顔を上げた。
しかし、相手は黙って首を横に振った。
ゾフィーは口に手を当てる。
「今さっき、廊下を担架が二つ、運ばれていくのを見ました。だけどその様子は、一刻を争うけが人の輸送、という感じではなかったんす」
「ってぇことは?」
他のスタッフまでもが、声を上げる。
「……おそらく、もう……」
リルは再び首を横に振った。
ああああああああ! と、ゾフィーはその場にしゃがみこんだ。
『偉大なる総統閣下、敬愛なる宣伝相閣下のご冥福を祈ります』
海賊放送の声が、彼女の耳にも入る。それは決していつもの嘲笑する声とは違う。
ゾフィーは立ち上がると、コンソールにつけられたスピーカーに思い切り両手を振り上げた。
「黙んなさい!」
そして何度も、何度も、彼女はその行為を繰り返した。
彼女がテルミンと友達であることを、その場の皆が知っていた。
恋人ではないか、と疑っている者も居た。
区別はどうでもいい、とリルも思った。
「この電波は一体何処から出てるの!」
一陣の嵐が治まった後、ゾフィーはうめく様な声でそう周囲のスタッフに訊ねた。
「たどることはできないの!?」
「レベカさん」
おずおずと、スタッフの一人が、彼女の剣幕に押されながらも、手を上げた。言って、と彼女は命ずる。
「その海賊放送の発信者が、もし放送用端末、携帯型のそれを使っているなら、方法は無くはないです」
「あるの?」
「はい。ですが、そんなことは……」
口に出した割には、自分の言ったことを否定する様な勢いだった。
ゾフィーは低い声でつぶやく。
「後で教えてちょうだい。役に立たなくてもいいわ」
はい、とスタッフは、そう答えるしかなかった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる