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3年後、アルク再び(俯瞰視点三人称)

85 その頃の待機中のリタリット

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「連絡がナイ?」

 回線の向こうの相手に、リタリットは声を低める。

「って、それは何よヘッド」
『成功にせよ失敗にせよ、何かしらの連絡があるはずだ。生きていれば』

 ヘッドは重い声で、それだけを仲間に告げた。

「何ソレ」

 リタリットは即座に問い返す。

「アンタはあの馬鹿が、死んでしまったとか、そういうコトを言うわけ?」
『いやそんなことは言ってはいない。ただ、連絡が取れない、ということなんだ』
「同じことでしょ。……首府では、総統閣下が殺された、って知らせは何処にも出てないよ。まあ本当に殺られたとしても、きっとソレはしばらく隠されるんだろうけどさ。……現在総統ヘラ・ヒドゥン閣下は、『ご病気』だそうだよ。宣伝相テルミン閣下、がそんなコトを政府公報で言ってた。そっちにも伝わってるだろ?」
『……妙な気は起こすなよ、リタ』
「なーにが」
『……BPが捕まっているとかそんなことを考えて、下手な動きはするなよ、と言うんだ』
「そんなコトするかよ、ばーか」 

 リタリットは軽く答える。
 回線の向こう側の方が驚いた様に、言葉を失う。

「奴は、帰ってくるよ」
『リタリット?』
「暗殺なんて、出来やしねーんだ。そして、帰ってくるんだ。絶対」

 そう言って彼はハルゲウとの回線を切った。
 何か言いかけているな、とは思ったが、知ったことか、とポケットから煙草を取り出して火をつける。
 ふと視線を上げると、伸びかけた金髪が視界に入る。
 けっ、と声を立てると、広げた指でリタリットはそれをかき上げた。
 そして端末の回線を、別の場所へとつなぐ。
 数回のコールで、相手は出る。

「……よお」
『万事快調、っていう感じの声じゃないかな?』

 穏やかな声が、回線の向こう側から聞こえる。
 何処が、とリタリットは即座に吐き捨てる様に返す。

「心配せんでも、やるコトはやってる。それより、何が一体起こっているのか、あんたはオレに説明できるのか? 代表ウトホフト」
『残念ながら、今この状況に関しては、私も説明ができない』
「BPからの連絡が途切れているとオレは聞いたが」
『事実だ。実際、一緒に行動させた四人についても判らない』
「……」

 ヘッドに対しては反論できることが、この男に対してはできなかった。
 情報量が、ヘッドに行くそれとこの男に行くそれでは違いすぎる。
 そもそも、ヘッドは彼がウトホフトと直接話していることは知らないはずだった。

「それで、オレはこのまま半月もの間、お馬鹿な放送を続けてりゃイイのかな?」
『新年まではな』
「ふうん。新年に、何か起こると思ってるんだ、あんたは」
『そう思うなら思えばいい』
「あんたは、一体何だ?」

 リタリットは問いかける。

『おや、それはよく知っていると思ったが』
「それはあんたの考え違いだ。オレはそんなコト知らない」
『私の考え違いかな?』
「考え違いだろ」

 そして念を押す様に、もう一度新年までの放送を約すると、彼は再び回線を切った。
 端末はそのまま、煙草と共にジャケットのポケットに放り込まれる。
 モードを変えれば、それは普通の通信回線にも使用できる。
 よく無事だったものだ、とリタリットは思った。
 携帯式の放送用端末。
 首都に入り込んだのは、代表ウトホフトからの要請があったからだった。
 あの時の訪問から少し経った後での再会で、この代表は何を思ったのか、彼に海賊放送をやる様にと頼んだ。
 彼らライからの脱出者集団に対し、この代表は「お願いする」という形を必ず取っていた。
 それはBPであるにせよ、ヘッドやビッグアイズと言ったやがて起こるだろうことに対する実働隊にせよ、昼間の仕事をするキディに対してまで、変わらないスタンスだった。
 その時彼は、ビッグアイズと一緒にその依頼を受けていた。
 ビッグアイズは、本人が思っていた通り、実働隊への加入を「お願い」された。
 だがリタリットに対し、この代表は、特別な「お願い」をした。
 その内容に関しては、ビッグアイズも席を外すことを「頼まれ」た。
 そして代表が「お願い」したのは。

「我々の仲間が八年前に残した放送機材があるはずなのです」

 あっさりとそんなことを彼に向かって言った。
 それが何処にあるのだ、と訊ねると、ウトホフトは判らない、と答えた。
 その当時から、その機材も端末も何処にあるのか判らない、当の指令を受けた本人しか判らない、と言ったのだ。
 だから彼は反論した。

「オレにソレがどうして判るって言うんだよ!」
「判ると思うのですがね」

 腹が立つ程に穏やかにこの男は言った。
 リタリットは思わず立ち上がり、座ったままのウトホフトを見下ろした。
 その姿は、店に出る時のままのギャルソンの黒いエプロンをつけたままだった。

「そう言えば、君を訪ねてきた男が居たらしいね。リタリット君」
「居たよ。でも何であんたがそんなコトを知ってる」
「君の仲間が、問い合わせてきた。ただしそれは、君達のヘッド達のところにだがね」
「ドクトルとトパーズからの通信を、横から聞いてたのかよ」

 自分達脱出者集団が決して信用されている訳ではないのは、彼もよく知っていた。
 だから彼らのテリトリイ内での会話はまず奪われていると思ってもよかった。
 少なくとも、リタリットはそう考えていた。
 しかし何故自分が当然の様にそんな風に考えてしまうのか、はまだその時点ではよくは判っていなかった。
 ただ。

「彼らは君のことを心配しているのだよ」
「それは当然だろ」

 彼は言い放つ。
 この男からいちいち言われる筋合いは無かった。

「だがアンタには関係の無いコトだ」
「そうかな?」

 ひどく微妙に、ウトホフトは語尾を上げた。
 その調子がまたリタリットの神経に触る。

「関係無いコトだよ!」
「そう、関係無いことだね。でも君は、あの少年の話を聞いて、どう思った?」
「は。ひでー家庭に育って、アワレなガキだよね。けどな」
「けど?」
「それでいきなり行方くらましたんだろ? ハイランド・ゲオルギイで『朱』だったヤツってのは。いきなりにしちゃ、馬鹿すぎねーかって思うけどな、オレは」
「そう。確かにそこだけ取ればね」
「アンタは、『朱』は知ってるはずだ」
「ええ、知ってますよ」
「……何で、そいつは、いきなりそんな行動に走ったんだ?」
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