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3年後、アルク再び(俯瞰視点三人称)

21 テルミンの大がかりでささやかな理想

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 官邸自分分の部屋に資料を置くと、テルミンはそのまま大会議室へと向かった。
 廊下で警備をしている兵士に、誰がもう来ているか、と問いかけると、若い兵士は、スペールン建設相が既に在室だと告げた。
 扉を開けると、やあ、とスペールンは手を上げた。
 彼の前には、精巧な模型が置かれている。
 それはこの首都の改造プランをそのままミニチュア化したものだった。
 元々この官邸や議会堂のある地域がきっかりと生活圏と分けられている。
 その特性を利用して、更にその傾向を強めよう、というのが基本的な構想だった。
 元よりある大規模建築を、更に大きなものに。
 つぎはぎな傾向のものを一つの傾向に。
 道路を拡張し、駅はもっと多くの人々の通行が可能な様に。

「総統閣下はまだ?」
「まだのご様子だが。君は一緒ではなかったのかい?」
「俺は所用があって今来たばかりだ」

 ふうん、とスペールンは眼鏡の下の目を軽く細める。
 スーツの上着は椅子に掛けて、いつもの様に腕まくりをしている男は、何処かテルミンの様子を伺っているようにも見えた。

「で、状況はどうだ?」
「まずまずだ、と言いたい所だが、ちょっとばかり、厄介な問題も入っている」
「何だ? 例のテロのことか?」

 テルミンは先日この男と会った時のことを思い出す。
 確かそんなことを言っていたはずだ。

「ああ。各地で起きている最近の活動状況なんだが、彼らは古い建築物よりは、こう言った新しいものばかりを狙っている」
「最近、と言えば」
「辺境武装地帯はどうなんだ? 軍の方は」
「ああ」

 うなづくことで、テルミンは自分の内心の動揺を隠した。
 辺境武装地帯は、ヘラの過去が少なからず存在する場所だった。
 テルミンにしてみれば、反乱分子共々消してしまいたい存在ではあるが、そういう訳にもいかない。
 共倒れを願っていた、というのが正直な所である。
 テルミンは、現在の「総統」の地位が永遠である、などという幻想は全く持っていない。
 彼はそこまで誇大妄想狂ではなかった。
 テルミンがヘラをその地位につけることで欲しかったのは、彼とい人間の自由のためだった。
 それは、あと数年その地位に居て、平和裡に引退すれば手に入るものだ、と考えていた。
 ただ、それを手に入れるために汚してきた手のことを忘れている訳ではない。
 そのために、現在の急ピッチで行われる作業の数々があった。
 とにかく何かしらの功績を。
 対外的には、それなりのものがあった。
 例えば、全員が脱走した流刑惑星ライから採れるパンコンガン鉱石。
 これが一定の量採取できなくなってしまったことは、帝都政府に対して大きな問題となる。
 帝都政府がこの星系に対し、強圧的になってでも要求するのは、この鉱石くらいなものである。
 しかしそれは逆に言えば、この鉱石だけは、絶対に保証されなくてはならない、ということである。
 ところが番狂わせの脱走事件が起きてしまった。
 皮肉なことに、これがまずヘラを表に押し上げる原因となった。
 テルミンは当時のことを思い出す。
 帝都の派遣員により、「代理」という形で全権を押し付けられたヘラにとって、最初の問題でもあった。
 さて、それに対し、まず外側からは、帝都政府からの厳しい追及があった。
 レーゲンボーゲン政府の代表として、ヘラ・ヒドゥンはその矢面に立たされた訳である。
 連日行われるこの会談は、閉ざされた扉の向こうで行われたが、その直後に、必ず中央放送局のカメラがこの「代表」の姿を追ったのである。
 そして内側からは、反政府主義者達が、そんな風に追求されなくてはならないことに憤り、帝都政府からの独立を叫ぶ。
 テルミンはその時はまだヘラの側近に過ぎなかった。しかしその時彼は、特命という形で、反体制主義者達を半ば強引に逮捕したのである。
 もっともそれは、期間限定のものだった。
 その時必要なのは、その危険分子達を引き留めておくことで、刑罰を食らわせることや、転向を求めることは必要では無かったのである。
 それに彼は、そんなことを強要すること自体、人々の政府離れを招くことを知っていた。
 あくまで一時的なもの、と彼は説明し、それを実行した。
 
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