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3年後、アルク再び(俯瞰視点三人称)

14 地質学者の幸せとBPの固執するもの

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「そもそも総統なんて地位が、今までのこのレーゲンボーゲンにあったか、って言えばそれも無いだろう? 首相の代行、で、首相にはならない代わりに、そんな地位を作ってついてしまった。僕はね、BP、向こうで会った軍の科学技術庁関係の連中と話をするたびに、向こうの連中が首をひねっていたのを知ってる」
「そういえば、放送が入ってきてたんだよな」
「一応料理人の中に紛れていたから、食堂の放送は僕も目にしたしね。向こうの機材を使ってもみたかったから、『すいませんお手伝いさせて下さい~』ってちょっと愛嬌なんかもふりまいてね」

 似合わねえ、と思わずBPは頭を抱えた。

「そんなこと言ってもしょうもないだろう? 僕はそういう時には何でもやるからね。まあそれはともかく、おかげで、向こうの連中の研究という奴にも結構参加できたし」
「本当にあんたはそういう点では見境無いなあ」
「お誉めにあずかってどーも」

 誉めている訳ではないのだが、とBPは苦笑する。

「目的があるんだから、そのためだったら何でもできるさ。僕はそもそもがどうもノンポリらしいし。……ああ、そう言えば君は、BP、何か記憶の断片でも増えた?」
「増えたと言えば増えたかもしれないけど…… 謎も増えたというべきかな。あんたはどうなんだ?」
「僕は別に。もともと皆の様に残っているものも無かったから、思い出そうという気も起きない。しいて言うなら、僕に残っていたのは、研究への熱意、って奴だろうし…… だとしたら、僕は…… ねえ?」

 全くだ、とBPは再び苦笑する。

「僕はかなり、幸せな部類だろうな」

 そう言ってジオは子供の様に鳩と遊び続ける二人に視線を移す。
 肩にふんをされて馬鹿ヤロ焼き鳥にしてやる、と怒鳴るリタリットをキディがばぁか、とげらげらと笑い飛ばしていた。

「ドクトルKから前に聞いたことがあるけど、キディの唯一の記憶って、親、らしいよ」
「親?」
「どうも断片的な部分をつなげると、彼、親に通報されたらしい。……て言うか、親に殺されかかって逃げたとこを、通報された、って感じなのかな。つなぐとそんな感じらしい」
「つなぐと、か……」

 BPは眉を寄せた。

「君の相棒も、そういう意味ではひどい部類じゃなかったっけ?」
「ドクトルは奴にも聞いたのか?」
「彼が来たばかりの時、ひどい躁鬱が激しかったから、話を聞いたことがあるらしい。でも君が来てからずいぶん良くなったって言うんだけどね」
「俺は何もしてないぞ?」
「だろうね。でもねBP、居るだけで何か気が楽になる、って相手ってあるじゃない?」
「……」
「おそらく彼には、君がそうなんだろうね」

 その割には、することがとんでもない様な気がするのだが、とBPは内心つぶやく。
 そこから先は、プライヴェイトだ。
 彼自身は、格別何かに対して欲望を感じたことが無い。
 少なくとも、相棒が自分に対している様には、何かを特別欲しいと思ったことが無い。
 それが元々の性質なのかもしれない。
 だからこそ、何故自分があの「誰か」に固執しているのか、よく分からないのだ。
 あれが自分の「好きな誰か」だとしたら、何かつじつまも合わなくもないが、だとしたら、何故あの「総統閣下」とそれがだぶるのだろう。

「なあジオ」
「何」
「もし自分の過去が、認めたくない様なものだったら、どうする?」
「認めたくないもの?」
「例えば俺は軍関係だったらしい、だろ?」
「ああ、そういうことね。でも、僕らは君が向こうでどうだったか知っているじゃない。君が何であったとして」
「そうかなあ?」
「そうだよ。あそこで生きてきた仲間は、それしかない分、そこに居た記憶が全てだから、君がどんな者であったとしても、今そこに居る君が君だと認めると思うよ。僕だってそうだし」
「そうだな。そうあってほしい」
「気弱だな、BP」

 くす、とジオは笑った。
 鳩が一斉に舞い上がる。
 列車の到着のベルが鳴ったのだ。
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