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流刑惑星ライでの日々(BP視点)

17 奇襲

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「……の野郎!」

 その声が届いた時、俺は自分の耳を疑った。
 地面の上に転がされ、何度も、何度も固いブーツで蹴られ、銃身で殴られ…… 手で防ぐにも限度がある。
 俺は自分の忍耐が尽き掛けているのを感じていた。
 しかしそれでも、目の前でやはり倒れ、顔色の悪いヘッドのことを思うと、下手なことはできなかった。
 なけなしの理性が、俺を押さえ留めていた…… はずだった。
 なのに、だ。

「リタ!」

 見覚えのある白に近い金髪が、常夜灯に光る。
 何でこいつがここに居るんだ、と口の端の血をぬぐいながら思う。
 奴はそんな俺の考えなど、お構いなしに、相棒を殴りつけていた看守の兵士に殴りかかっていった。

「よせリタ!」
「今更止せるかよ!」

 そうだ。
 何でこいつはここに居る? 
 身体を起こす俺の背中を、ヘッドが脂汗を流しながらもにやりと笑ってつつく。
 振り向くと、指が背後を差していた。
 俺は目を丸くした。
 次々に、自分の房の者が、走ってくるではないか。
 そうか。
 それを見た瞬間、理解した。
 「その時」というのは、本当に、不意にやってくるのだ。
 俺は身体のバネを利かせて立ち上がると、目の前の事態にやはり呆然としている兵士に向かって掴みかかった。
 この時の俺の動きは、その呼び名の通り敏捷だった。
 あっと言う間に、兵士の銃は、俺の手の中にあった。
 それを掴んだ瞬間、俺は手が自然に動くのに気付いた。
 安全装置を外し、手にした大きな銃を兵士達に向ける。
 普段管理にしか回っていない兵士達は、反射的に銃を向けた。
 だがそれは俺の思うつぼだった。
 迷わず引き金を引く。
 わ、と声が飛び、肩を撃たれた兵士の手から銃がまた一つ、落ちる。
 いただき、とトパーズがそれを拾う。
 彼は一瞬そのつくりを眺めていたが、慣れた手つきで、俺と同じ様に兵士の肩を狙って撃つ。
 いい腕だ。
 トパーズが飛ばした銃は、ゲームコックが拾った。
 そこへサイレンの音が響いた。

「連絡したらしいな」

 ヘッドはつぶやく。
 やってきたビッグアイズに肩を借りて立ち上がると、額の汗を拭き、こちらを向く。

「このままでは、房全員が『祈』らさせる。やるしかない」
「何を今更」

 けっ、とリタリットは笑う。
 それは俺がまだ見たことの無い、凶暴な笑みだ。
 だがその目は今までになく、ひどく生き生きとしている。

「二手に別れよう」

 ヘッドは次々にやってくる118号房の男達に向かって言う。

「銃を持ってる三人は、一人は鍵を開けてくれ」
「それは俺が行く。ったく、オートコントロールにすれば、そこの部屋一個破壊すりゃ済むものをよ」

 トパーズはそう言って、金色の目をひらめかせた。
 どうやらこの慣れた手つきと銃の扱いは、都市型ゲリラの出らしい。
 こうなって初めて判るその人間の属性というものがあるものだ。

「BPは」
「判った。俺は管理棟へ攻め込む。とにかく武器を手に入れることが先決だな」

 よし、とうなづき、トバーズとドクトルK、それに技術屋エンジニーヤと呼ばれる男が、鍵の奪取に走った。

「大丈夫か?」
「大丈夫。骨は突き出たりしてないから、単純骨折だとは思う」

 ヘッドは先程自分達が乗ってきた車を指さすと。

「あれに乗っていけ」

 そう俺に言った。

「それから、ビッグアイズ、お前も」
「オーケー」

 そして、何故かリタリットが車のエンジンを掛けている。

「お前、吐き気がするんじゃないかよ!」
「クソ! 吐き気がするよ! だから吐いてやるさ、連中のアタマの上にさ」

 判った、とうなづいて俺は助手席に乗り込む。
 機材で狭い後部座席にビッグアイズは乗り込み、言った。

「時間稼ぎ、だ」

 判ってる、と俺は答え、銃の中の弾丸の残数を調べる。
 銃が自分の手にしっくりくるのを覚える。
 ぐん、とリタリットはアクセルを踏む。

「いったれーっ」

 これまでに無く生き生きと声を張り上げる相棒をちら、と見てから、俺は窓を大きく開け、前方を見据える。
 ひどく乱暴な運転だ。
 だがよく考えたらこいつは軍用自動車には慣れていない筈じゃなかったのか?
 とにかくリタリットはアクセルを思い切り踏み、ライトを点けると、管理棟めがけてスピードを上げる。

「どう思う?! BP」

 背後でビッグアイズが訊ねる。
 問いかけの意味を問うことは止めた。
 予想はついている。

「奴らは、実戦慣れしてない。とにかく先制攻撃をかける!」

 開けた窓のせいで、声を張り上げないことには、相手に伝わらない。
 だが、その動作のせいで、何やら酷くわくわくする様な感じを覚える。
 命がけのはずなのに。
 こうなるとは思っていなかった。
 だが起こしてしまったからには、勝たなくてはいけない。

「そうでなくちゃ、もう後は地獄ヘルだ」

 それだけは御免だった。
 この隣の相棒ではないが、自分にもまだ、知りたいことがあるのだ。
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