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惑星アルクでの日々(テルミン視点)
21 食事をしながら女友達と語る
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そしてその翌日には、また別の知り合いと、俺は夕食を摂っていた。
「あー忙しい忙しい。何だってこんな忙しいのっ」
ゾフィーは約束した時間の約束した席に着くやいなや、がさがさと大きなバッグからタオルを出すと汗を拭いた。
「走ってきたの? 君」
「だって地下鉄が混んでて、前の奴に乗れなかったのよ。だから一本遅らせて、ここまで走ってきたんだから。ああ暑い」
そう言いながら彼女はまた汗を拭く。
確かにすごい汗だ。
だらだらと流れている。
士官学校の訓練の時にはよく見た光景だが、女性で、街中を行く女性がそういう風にだらだらと汗を流すのはあまり見たことが無い様な気がする。
「何? 何かおかしい?」
彼女は眉を寄せ、顔を少し赤らめる。
何となく微笑ましくなり、思わず俺は笑みを浮かべた。
「いや、相変わらず元気だなあ、と思って」
「あたしは元気よ。少佐こそ、元気だった? ちゃんと食べてる?」
「昨日会った友人にも、そう言われたよ、大丈夫ちゃんと食べてるって」
「だったらいいけど」
「それより、急に何?」
テーブルに最初の皿が来ると同時に質問を投げかけた。
ゾフィーはまだ時々水を口にしている。
よほど喉が乾いていたのだろう。
その具合を見計らいながら訊ねてみる。
「うん、実はね、今度一つ番組の企画を任されたの」
「ええっ! それすごい、大抜擢じゃない」
「そうなのよ! まあ最近ずいぶん、中央放送局からも抜けたし…… そのせいと言っちゃおしまいなんだけどね」
タオルを握りしめて力説する彼女に、俺は笑みを浮かべたまま黙る。
先日のグルシンの失脚には中央放送局の力が大きかった。
またその一方で彼と癒着していた放送局のスタッフが何人か罷免された。
特にそれは、番組制作に当たる者が多かった。
結果、使えるスタッフの不足から、企画補佐をしていた彼女に白羽の矢が当たったのだろう。
「でも、良かったじゃない。本当、おめでとう」
「ありがと。うん、だから、今日はあたしのおごり」
「そんな! お祝いなんだから、俺がおごるよ。少なくとも俺の方が収入多いし」
「そういう問題じゃないでしょ! じゃこうしましょ。あなたの分はあたしが払う。あたしの分はあなたが払う」
俺は苦笑しながらも同意した。
それ以上は彼女も引かないだろう。
ゾフィーとはあの図書館で出会って以来、ずっと友達つき合いが続いている。
友達、だ。
決してそれ以上ではない。
彼女は彼女で、どうも俺に対し、異性という視線で見ていないらしい。
もっとも周囲の目はそうではない。
俺の上司のアンハルト大佐は、一度外で会っていたところを目撃したらしく、ある朝出勤したら、結構楽しそうな表情でからかわれた。
俺はそれに対して否定も肯定もしなかった。
説明をいちいちするのは煩わしかったし、彼女の存在は、自分のヘラへの感情や、スノウとの関係の隠れみのにするにはちょうど良かった。
「でも最近君、本当に忙しそうだね。なかなか通信つながらないし。その番組制作だけ?」
「あ、つながらないの?」
ゾフィーは慌てて自分の端末を取り出す。
「あ、やだ。ずっと局内モードにしてあったわ」
「局内モード?」
「うん。これね、放送屋用のものだから、局内モードにすると、局内の生番組と直接話ができて放送できる様になってるの」
「ん? それって別に珍しくないんじゃない?」
「マイクじゃあないでしょ? いつでも何処でも、これが簡単なマイクとカメラ代わりになるのよ」
「へえ……」
感心したように彼は言い、見せて、と手を伸ばす。
壊さないでよ、と彼女は念を押す。
「無論こんな小さいから、ややこしいことはできないけどね。だからそうね、水晶街とか、あのクーデター犯人の…… のところなんかに役だったみたい」
「あ、あれって、ニュースには流れたんだよね?」
あの時現場に居たので、それがニュースで生で流れたのかどうかまで気にしていなかった。
「ええ。あたしじゃないけど、他のスタッフが撮っていたはずよ。ただ、一応ああいう光景は協定で、残さないことになってるんだけど」
「なってるけど?」
「一般家庭にまで残すな、なんて強要できないじゃない。だからそれを逆手にとって、残しているスタッフも居るはずよ」
「ねえゾフィー、それ、俺見たいな」
ゾフィーは怪訝そうな顔になったが、すぐにいいわよ、と答えた。
「ただしあたしの言うことも一つ聞いてくれない?」
「何? 俺にできることだったら」
「水晶街の逮捕者の顔と行き先」
「……あ」
「どうしても、行き先が見つからないのよ」
「君の、バーミリオン?」
「あたしの、じゃないわよ」
言葉が少しばかり止まった。
「あー忙しい忙しい。何だってこんな忙しいのっ」
ゾフィーは約束した時間の約束した席に着くやいなや、がさがさと大きなバッグからタオルを出すと汗を拭いた。
「走ってきたの? 君」
「だって地下鉄が混んでて、前の奴に乗れなかったのよ。だから一本遅らせて、ここまで走ってきたんだから。ああ暑い」
そう言いながら彼女はまた汗を拭く。
確かにすごい汗だ。
だらだらと流れている。
士官学校の訓練の時にはよく見た光景だが、女性で、街中を行く女性がそういう風にだらだらと汗を流すのはあまり見たことが無い様な気がする。
「何? 何かおかしい?」
彼女は眉を寄せ、顔を少し赤らめる。
何となく微笑ましくなり、思わず俺は笑みを浮かべた。
「いや、相変わらず元気だなあ、と思って」
「あたしは元気よ。少佐こそ、元気だった? ちゃんと食べてる?」
「昨日会った友人にも、そう言われたよ、大丈夫ちゃんと食べてるって」
「だったらいいけど」
「それより、急に何?」
テーブルに最初の皿が来ると同時に質問を投げかけた。
ゾフィーはまだ時々水を口にしている。
よほど喉が乾いていたのだろう。
その具合を見計らいながら訊ねてみる。
「うん、実はね、今度一つ番組の企画を任されたの」
「ええっ! それすごい、大抜擢じゃない」
「そうなのよ! まあ最近ずいぶん、中央放送局からも抜けたし…… そのせいと言っちゃおしまいなんだけどね」
タオルを握りしめて力説する彼女に、俺は笑みを浮かべたまま黙る。
先日のグルシンの失脚には中央放送局の力が大きかった。
またその一方で彼と癒着していた放送局のスタッフが何人か罷免された。
特にそれは、番組制作に当たる者が多かった。
結果、使えるスタッフの不足から、企画補佐をしていた彼女に白羽の矢が当たったのだろう。
「でも、良かったじゃない。本当、おめでとう」
「ありがと。うん、だから、今日はあたしのおごり」
「そんな! お祝いなんだから、俺がおごるよ。少なくとも俺の方が収入多いし」
「そういう問題じゃないでしょ! じゃこうしましょ。あなたの分はあたしが払う。あたしの分はあなたが払う」
俺は苦笑しながらも同意した。
それ以上は彼女も引かないだろう。
ゾフィーとはあの図書館で出会って以来、ずっと友達つき合いが続いている。
友達、だ。
決してそれ以上ではない。
彼女は彼女で、どうも俺に対し、異性という視線で見ていないらしい。
もっとも周囲の目はそうではない。
俺の上司のアンハルト大佐は、一度外で会っていたところを目撃したらしく、ある朝出勤したら、結構楽しそうな表情でからかわれた。
俺はそれに対して否定も肯定もしなかった。
説明をいちいちするのは煩わしかったし、彼女の存在は、自分のヘラへの感情や、スノウとの関係の隠れみのにするにはちょうど良かった。
「でも最近君、本当に忙しそうだね。なかなか通信つながらないし。その番組制作だけ?」
「あ、つながらないの?」
ゾフィーは慌てて自分の端末を取り出す。
「あ、やだ。ずっと局内モードにしてあったわ」
「局内モード?」
「うん。これね、放送屋用のものだから、局内モードにすると、局内の生番組と直接話ができて放送できる様になってるの」
「ん? それって別に珍しくないんじゃない?」
「マイクじゃあないでしょ? いつでも何処でも、これが簡単なマイクとカメラ代わりになるのよ」
「へえ……」
感心したように彼は言い、見せて、と手を伸ばす。
壊さないでよ、と彼女は念を押す。
「無論こんな小さいから、ややこしいことはできないけどね。だからそうね、水晶街とか、あのクーデター犯人の…… のところなんかに役だったみたい」
「あ、あれって、ニュースには流れたんだよね?」
あの時現場に居たので、それがニュースで生で流れたのかどうかまで気にしていなかった。
「ええ。あたしじゃないけど、他のスタッフが撮っていたはずよ。ただ、一応ああいう光景は協定で、残さないことになってるんだけど」
「なってるけど?」
「一般家庭にまで残すな、なんて強要できないじゃない。だからそれを逆手にとって、残しているスタッフも居るはずよ」
「ねえゾフィー、それ、俺見たいな」
ゾフィーは怪訝そうな顔になったが、すぐにいいわよ、と答えた。
「ただしあたしの言うことも一つ聞いてくれない?」
「何? 俺にできることだったら」
「水晶街の逮捕者の顔と行き先」
「……あ」
「どうしても、行き先が見つからないのよ」
「君の、バーミリオン?」
「あたしの、じゃないわよ」
言葉が少しばかり止まった。
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