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惑星アルクでの日々(テルミン視点)
14 見てはいけない様なものをのぞき込んでいる様な不安
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『今日が何の日かって?』
端末の向こう側で、先輩はそう繰り返した。
『……何っかあったかなあ……』
気が抜けそうな軽い声に、俺は思わず苦笑した。
『何、なんか気になるの?』
「ああ。だから別に、何の日、でなくても、去年や一昨年のその時に、俺達が何をしていたかでもいいけど」
『ああ、そうすれば何か思い出せるかもしれんしなあ』
そして数秒の間の後に、ああ! とケンネル先輩は声を上げた。
『お前確か、一昨年のその日、広場の整理をしないといけないってんで落ち込んでたじゃん』
広場の整理!
彼の頭の中で、弾けるものがあった。
「そう言えば、そうだった」
『だろ? お前あのクーデター未遂犯の処刑現場の整理をしないといけないって、俺が行かない立場でいいなあってぼやいてたじゃないの』
そう言えば、そうだった。
ありがとう、今度食事おごるから、と言って俺は通信を切った。
一昨年の4月23日には、クーデター未遂犯の公開処刑があった。
自分も言われてみれば思い出せる物事がたくさんある。
と言うかあまり思い出したくない出来事だったので、意図的に忘れていたのかもしれない。
だがそれが直接ヘラの不機嫌とつながるとは、俺には思い当たるふしがない。
一方で、スノウが俺にそこで嘘をつく理由も無い。
嘘をついてからかうのだったら、いちいちこんな思わせぶりな言い方はしない。
彼は俺に考えさせたいのかもしれない。
実際、スノウは俺と話す時にもちょいちょい俺を試すようなことがある。
今回も、そんな他愛の無いことの一つなのだろうか。
そうであって欲しい、と俺は願った。
*
翌日書庫へ行くと、迷わず俺は一昨年の記録のある辺りへと足を伸ばした。
4月23日の処刑は、その一週間前のクーデターに対するものだった。
その日の記録に俺は手を伸ばした。
一日の記録と言ったところで、実際にはかなりな量になる。
とりあえず、官邸の常駐日誌や、軍の記録からクーデターに関する記述を探した。
823年4月16日、早朝4時にそれは起こった。
首府警備隊第35連隊に属する若手の士官数名が、宿舎で武装して集合していた所を発見され、逮捕された。
その数名が、逮捕された軍警本部において、活動の一部始終と、参加メンバーの氏名を全て自白したことから、この一斉検挙は行われた。
だが俺は、読み進めるうちに、ぞわぞわする様な違和感がし始めていた。
変だ。
確かに経緯の記述はある。
あるのだが、どうもそのつながりがおかしい。
彼は何度も何度も記録のページを繰り直す。
この日誌は、アナログなファイリング式になっている。
無論それを後でデータ化もするのだが、まずはその方法だった。
連なる金属の輪に通ったその書類を見ながら、俺はふと気付いた。
……抜けている?
なるほど、そう考えるとつじつまが合う。
早朝に最初のメンバーが逮捕。
それが前のページから引き続いた、左側のページに記述されている。
だが次のページには、既に全部が逮捕され、拘留された、という記述となっている。
そう言えば、と俺は当時自分が疑問に思ったことが不意に頭に浮かぶ。
あの時は、何かひどく情報が入ってくるのが遅かった。
入ってきたのは、その参加メンバーが自分とさして変わらない年代の士官であること、それに、その人数が25人であること……
25人。
その数字はあっただろうか。
再びページの上に視線を走らせた。
無い。
人数も無ければ、メンバーの所属も姓名も何も無い。
これは変だ。
それに。
確かにあの時、妙に引っかかったことがあった。
処刑場で見た「柱」は23本だった。
あと2本は何処に行ったのだろう?
無論、当初聞いた数字が間違いという可能性もある。
だが、実際に数えた、その時その場所での処刑用の柱の数は間違えはしない。
ひどく嫌な感じがした。
見てはいけない様なものをのぞき込んでいる様な、そんな不安が、自分の中に走った。
端末の向こう側で、先輩はそう繰り返した。
『……何っかあったかなあ……』
気が抜けそうな軽い声に、俺は思わず苦笑した。
『何、なんか気になるの?』
「ああ。だから別に、何の日、でなくても、去年や一昨年のその時に、俺達が何をしていたかでもいいけど」
『ああ、そうすれば何か思い出せるかもしれんしなあ』
そして数秒の間の後に、ああ! とケンネル先輩は声を上げた。
『お前確か、一昨年のその日、広場の整理をしないといけないってんで落ち込んでたじゃん』
広場の整理!
彼の頭の中で、弾けるものがあった。
「そう言えば、そうだった」
『だろ? お前あのクーデター未遂犯の処刑現場の整理をしないといけないって、俺が行かない立場でいいなあってぼやいてたじゃないの』
そう言えば、そうだった。
ありがとう、今度食事おごるから、と言って俺は通信を切った。
一昨年の4月23日には、クーデター未遂犯の公開処刑があった。
自分も言われてみれば思い出せる物事がたくさんある。
と言うかあまり思い出したくない出来事だったので、意図的に忘れていたのかもしれない。
だがそれが直接ヘラの不機嫌とつながるとは、俺には思い当たるふしがない。
一方で、スノウが俺にそこで嘘をつく理由も無い。
嘘をついてからかうのだったら、いちいちこんな思わせぶりな言い方はしない。
彼は俺に考えさせたいのかもしれない。
実際、スノウは俺と話す時にもちょいちょい俺を試すようなことがある。
今回も、そんな他愛の無いことの一つなのだろうか。
そうであって欲しい、と俺は願った。
*
翌日書庫へ行くと、迷わず俺は一昨年の記録のある辺りへと足を伸ばした。
4月23日の処刑は、その一週間前のクーデターに対するものだった。
その日の記録に俺は手を伸ばした。
一日の記録と言ったところで、実際にはかなりな量になる。
とりあえず、官邸の常駐日誌や、軍の記録からクーデターに関する記述を探した。
823年4月16日、早朝4時にそれは起こった。
首府警備隊第35連隊に属する若手の士官数名が、宿舎で武装して集合していた所を発見され、逮捕された。
その数名が、逮捕された軍警本部において、活動の一部始終と、参加メンバーの氏名を全て自白したことから、この一斉検挙は行われた。
だが俺は、読み進めるうちに、ぞわぞわする様な違和感がし始めていた。
変だ。
確かに経緯の記述はある。
あるのだが、どうもそのつながりがおかしい。
彼は何度も何度も記録のページを繰り直す。
この日誌は、アナログなファイリング式になっている。
無論それを後でデータ化もするのだが、まずはその方法だった。
連なる金属の輪に通ったその書類を見ながら、俺はふと気付いた。
……抜けている?
なるほど、そう考えるとつじつまが合う。
早朝に最初のメンバーが逮捕。
それが前のページから引き続いた、左側のページに記述されている。
だが次のページには、既に全部が逮捕され、拘留された、という記述となっている。
そう言えば、と俺は当時自分が疑問に思ったことが不意に頭に浮かぶ。
あの時は、何かひどく情報が入ってくるのが遅かった。
入ってきたのは、その参加メンバーが自分とさして変わらない年代の士官であること、それに、その人数が25人であること……
25人。
その数字はあっただろうか。
再びページの上に視線を走らせた。
無い。
人数も無ければ、メンバーの所属も姓名も何も無い。
これは変だ。
それに。
確かにあの時、妙に引っかかったことがあった。
処刑場で見た「柱」は23本だった。
あと2本は何処に行ったのだろう?
無論、当初聞いた数字が間違いという可能性もある。
だが、実際に数えた、その時その場所での処刑用の柱の数は間違えはしない。
ひどく嫌な感じがした。
見てはいけない様なものをのぞき込んでいる様な、そんな不安が、自分の中に走った。
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