40 / 43
40 眠れない夜に爆発の件を思う
しおりを挟む
翌朝。
「まあどうなさったんですかお嬢様方! 目の下が大変なことに」
*
私とミュゼットはあれからしばらく、窓辺から動けなかった。
遠くでは火事だ火事だ、と野次馬だの消防だのが駆けつける音がしていた。
何が起こっているのか想像はついた。
「皆、大丈夫かしら」
私はつぶやいた。
「あのひと、私達はましな育ちだった、ってこと言ってたわ。だからきっと。それにお母様には甘い眠りって」
確かに彼ならできるだろう。
甘い香りの中、爆発の前に永遠の眠りにつかせたのかもしれない。
そして父は。
私は巻かれた書類を見た。
「これは明日、皆で開封しましょう」
「そうね」
そしてそのまま二人して同じベッドに入って書類を枕の間に入れて寝ようとした。
だがなかなかそんな時に寝付けるものではない。
「弟はどうなるのかしら」
「判らない。でも死なせはしなかった訳だし」
「まだましかしら」
「そう思いたいわ。あんまりにも接点が無かったのはまだ良かったのかも」
「かもね」
そんなことをぶつぶつ言っているうちに、野次馬の声だの消火の音だのも次第に減っていき――
気付くと、夜が明けていた。
「全然眠れなかった」
「私も」
酷い顔、とお互い言い合った。
屋根裏ではよくそんな顔で笑いあったものだった。
「ミュゼットはこれからどうするの?」
「スリール子爵の家に行くつもり。娘であってほしい、と言ってくれているし。私はあそこの二人が好きだし。それに貴女の様にこれ以上勉強したいとかは無いもの」
「居心地がいいならいいわ」
「何かこんな結果になっちゃって、アリサはいいの?」
「それを言うなら、ミュゼットも。夫人に直接一発入れてやりたかったんじゃないの?」
「そうね」
そう言ってから、ミュゼットはううん、と首を横に振った。
「たぶん、誰かがやってくれて良かったのよ。だって私がどうこうしようと思ったなら、私、あのひとの顔に思いっきり傷をつけて放り出したいとか思ってしまってたかも」
「……過激だったのね」
「男爵の前に居る『女』が自分だけでありたい、というより男爵家に存在する『女』は自分一人でありたいと思ったひとだもの。美しさとか、女の武器とか、そういうところをぐちゃくちゃにしてやりたいって気持ちが無かった訳でもないわ」
「しかねなかった、のね」
「あのひとがしてくれなかったらね。爆発させるとは…… 思わなかったけど」
「その辺りは、さすが物騒な辺りから来たひとなのね」
そういうことを話していたのだ。
メイドは蒸しタオルを持ってきてくれた。
そして二人分の下着を持ってきて、今日は何を着ましょうか、などと聞いてくる。
……正直、しばらくは慣れそうにない。
「まあどうなさったんですかお嬢様方! 目の下が大変なことに」
*
私とミュゼットはあれからしばらく、窓辺から動けなかった。
遠くでは火事だ火事だ、と野次馬だの消防だのが駆けつける音がしていた。
何が起こっているのか想像はついた。
「皆、大丈夫かしら」
私はつぶやいた。
「あのひと、私達はましな育ちだった、ってこと言ってたわ。だからきっと。それにお母様には甘い眠りって」
確かに彼ならできるだろう。
甘い香りの中、爆発の前に永遠の眠りにつかせたのかもしれない。
そして父は。
私は巻かれた書類を見た。
「これは明日、皆で開封しましょう」
「そうね」
そしてそのまま二人して同じベッドに入って書類を枕の間に入れて寝ようとした。
だがなかなかそんな時に寝付けるものではない。
「弟はどうなるのかしら」
「判らない。でも死なせはしなかった訳だし」
「まだましかしら」
「そう思いたいわ。あんまりにも接点が無かったのはまだ良かったのかも」
「かもね」
そんなことをぶつぶつ言っているうちに、野次馬の声だの消火の音だのも次第に減っていき――
気付くと、夜が明けていた。
「全然眠れなかった」
「私も」
酷い顔、とお互い言い合った。
屋根裏ではよくそんな顔で笑いあったものだった。
「ミュゼットはこれからどうするの?」
「スリール子爵の家に行くつもり。娘であってほしい、と言ってくれているし。私はあそこの二人が好きだし。それに貴女の様にこれ以上勉強したいとかは無いもの」
「居心地がいいならいいわ」
「何かこんな結果になっちゃって、アリサはいいの?」
「それを言うなら、ミュゼットも。夫人に直接一発入れてやりたかったんじゃないの?」
「そうね」
そう言ってから、ミュゼットはううん、と首を横に振った。
「たぶん、誰かがやってくれて良かったのよ。だって私がどうこうしようと思ったなら、私、あのひとの顔に思いっきり傷をつけて放り出したいとか思ってしまってたかも」
「……過激だったのね」
「男爵の前に居る『女』が自分だけでありたい、というより男爵家に存在する『女』は自分一人でありたいと思ったひとだもの。美しさとか、女の武器とか、そういうところをぐちゃくちゃにしてやりたいって気持ちが無かった訳でもないわ」
「しかねなかった、のね」
「あのひとがしてくれなかったらね。爆発させるとは…… 思わなかったけど」
「その辺りは、さすが物騒な辺りから来たひとなのね」
そういうことを話していたのだ。
メイドは蒸しタオルを持ってきてくれた。
そして二人分の下着を持ってきて、今日は何を着ましょうか、などと聞いてくる。
……正直、しばらくは慣れそうにない。
16
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。


溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。
木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。
しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。
ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。
色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。
だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。
彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。
そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。
しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

努力をしらぬもの、ゆえに婚約破棄であったとある記録
志位斗 茂家波
ファンタジー
それは起きてしまった。
相手の努力を知らぬ愚か者の手によって。
だが、どうすることもできず、ここに記すのみ。
……よくある婚約破棄物。大まかに分かりやすく、テンプレ形式です。興味があればぜひどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる