〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
29 / 43

29 「弟」から乳母が去っていった

しおりを挟む
 私はフレドリック伯父へと手紙を書いた。
 その中で、

「お祖父様の蟄居もそろそろ解けるので、できれば一度お会いしたく。
 ご家族とご一緒にいらしてくだされば嬉しい」

 ということも入れた。
 いくらお祖父様が向こうでの奥方達のことを許せないと言っても、それでも嫡男なのだし。
 私の立場的にも一度会っておくのは必要だと思う。
 何も言わずに私に直接継がせるなんてことをしたら、もともと長子相続のこの国では面倒なこともおきかねない。
 そろそろ立つ鳥の気分になってくる。
 様々な部分の情報は相変わらず皆さん任せで、あとは待つぶん。
 そうなると、この家で気になるのは弟と、「ペット」の子のことだ。
 私が思う方向に進んだ場合、この二人はどうなるのか。
 いや、そこまで心配する必要はないとは思うのだけど。
 夫人は仕立屋を呼んで服を作らせて以来、ペットの子は何かと夜会に連れ回されている。
 身長からすると、私より幾つか年下くらいに見える。
 そして弟よりは上。
 とは言え、東洋人の歳はわからない、と先日キャビン氏も言ってたから、もしかしたら私と同じくらいなのかもしれない。
 だとしても!
 一度玄関を通って行く時に間近で見ることができたけど、ほっぺたがすべすべ!
 東洋人の肌は違うとは聞いていたけど、……本当に違う。
 黒く長い髪を後で一つにまとめて三つ編み。
 細い黒い目。
 音もせず歩いて行くその靴も、皆のとは少し違っていて。
 あとは何やら不思議な香りがふっと漂った。
 しかし連れ回していいんだろうか?
 入手経路さえ問題がなければいいんだろうか?
 その時はつい、そんなことを考えていたので手が止まってしまった。
 しかし考えてみれば、夜会が多いということは夫人の留守も多いということだ。
 ふと、あの瓶のことが気になった。
 相変わらず部屋の中にあるのだろうか。
 二階に出向いてみると、廊下にそれは移動していた。
 そしてその近くで、弟が一人で遊んでいた。

「坊ちゃん、危ないですよ」
「あぶなくないよ」

 いや、どう見ても危ない。
 もし瓶が倒れてきたらどうするんだ。

「とっても重いものですからね。ところでもう遅い時間ですよ。お部屋に戻りましょう」
「やだ」
「乳母はどうしましたか?」
「いないよ」
「え?」
「さっき、なんかおおきなにもつもってさようならっていってた」
「何ですって?」

 私は弟を階下に降ろし、そのまま使用人棟へと向かった。

「ああ、困ったもんですよ。突然さっきやってきて、給料の精算、と言って飛び出していったんですよ」

 ヒュームはそう言った。

「とりあえずハッティかロッティ、坊ちゃんを寝かしつけなさい」
「はーい」

 そして二人して弟を連れていった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

今度こそ幸せになります! 小話集

斎木リコ
ファンタジー
『今度こそ幸せになります!』の小話集です。

溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。 両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。 ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。 そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。 だが、レフーナはそれに激昂した。 彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。 その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。 姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。 しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。 戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。 こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。 しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。 ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。 色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。 だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。 彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。 そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。 しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

努力をしらぬもの、ゆえに婚約破棄であったとある記録

志位斗 茂家波
ファンタジー
それは起きてしまった。 相手の努力を知らぬ愚か者の手によって。 だが、どうすることもできず、ここに記すのみ。 ……よくある婚約破棄物。大まかに分かりやすく、テンプレ形式です。興味があればぜひどうぞ。

処理中です...