〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩

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22 かつてのハイロール男爵家に関する資料が来る

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 ミュゼットからのいつもの手紙。
 ずいぶん大きくて厚さがあるな、と思っていたら、中にもう一つ封筒が入っていた。

「カムズ・キャビン?」

 その名を思い出すのに少しかかった。
 オラルフ弁護士の同業者だ。

「ご依頼の資料、ある程度集まりましたのでお送りします。オラルフは近々ロルカ子爵の蟄居が解ける関係で忙しいので自分が代理に」

 と短い手紙だけで、あとは本当に資料ばかりだった。
 しかし資料と言ってもこれだけ大量に書き写しするのはさぞ大変だったろう。
 私は思わず拝みたくなってしまった。
 その上、資料中にハイロール家の関係者が出てくれば、そこには朱が入っているという具合。
 よく出来たひとだなあ、と私は思った。
 資料は主に、今から四~五十年前のハイロール男爵家についての件だ。
 図書館に保管されている新聞記事からの書き写し、ハイロール男爵家及びその親戚筋の一家総出の旅行許可書などがある。
 新聞記事に、当時は相当なっていたらしい。
 男爵家一族郎党は、まとめて東の国へ移住することを公言していたのだから。
 そしてそこから珍しい品物を本国に送る事業を始める、と当人談が載せられていた。
 これが最初の頃。
 最後の方では、男爵家の家人が行方不明に! 現地の暴動に巻き込まれたか! といった見出しの記事もあった。
 ここでキャビン氏は「扇情的な新聞の記事なので、話半分で」と付け加えていた。
 そして更に幾らかの年月が経った後、ハイロール新男爵帰国、という記事があった。
 この新男爵、というのが父ということになる。
  そしてかつての事業の知己を伝手に、新規事業を興す予定、とあった。
 だが戻ってきたのは、父一人で、やはり他の一家及び親戚筋は現地に置き去りということらしい。
 「扇情的な新聞」はその「予想」や「結末」を物語仕立てにしてどぎつく書き立てていた。

 曰く、当時の現地の暴動に巻き込まれて現地民に殺された。
 曰く、現地民と恋仲になった一人のために皆がばらばらになってしまった。
 曰く、そこまで行ったはいいが、向こうで意見が対立して、共に行動することが無くなってしまった。
 曰く、当地の禁忌に触れて大変なことになってしまった……

 まあ色々と想像したものだ。
 そんな怪しい場所から一人、身分証明を持って戻ってきたのが父だということだ。
 「戻ってきた新男爵」というタイトルの記事はこう書いている。
 父らしき青年は、向こうに少年の頃から居たのでこちらの綺麗な言葉になかなか馴染めない、とぼやいていた。
 だが幾つかの向こうの国の言葉や、向こうで知り合った別の国の知り合いから覚えた沢山の言葉を使えることから、東の国の貿易に加え、ドイツ方面にも興味がある、と答えている。
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