上 下
14 / 43

14 父は何故かドイツ系料理人を欲しがっていた

しおりを挟む
 ミュゼットはつまり、「誰かがハイロール男爵を名乗っているだけなのではないか」と言いたいのだろうか。
 正直、私もちらっと思ったことがある。
 例えばこの家の使用人達。
 最古参でもこの家に父が越してきてからだ。
 だとしたら、それ以前の父を知っている人は一体何処に居るんだろうか?
 親戚は遠い東の地に散らばっていて、何処に居るとも知れない。
 そう、そもそも私達が父の過去に何か無いか、と調べているのはその可能性をぼんやりと感じていたからだ。
 もしそうだったら?
 いや、それはそれで構わない。
 私は復権した祖父の跡を継げばいいだけのことだから。


 
「あー! 現実にホームズ氏が居ればいいのに!」

 豆の皮をむきながら、私はドロイテについこぼしてしまう。

「ホームズ氏? 何ですかそりゃあ?」
「ほらあれだよ。名探偵というやつさ。ちょっとのことから全体を推理してしまう様な天才奇才という奴」

 やっぱり同じ豆の皮むきをさせられていたハルバートが口を挟む。

「そーいえばドロイデさんって生粋のこっち生まれじゃないよね。俺、二、三のお屋敷勤めしてきたけどさ、ここの料理ってちょっと違うじゃん。じゃがいもだって揚げ方違うし」
「ああ、言ってなかったかね? あたしの生まれはドイツの方だからねえ。若い頃うちの旦那と出会ってさ、で、こっちに来たんだよ。けどここで働くようになってからしばらくして別れたんだけどさ」
「え、結婚してたの!」

 ハルバートはそこを突っ込んだ。

「まあねえ。けど仕事の方が楽しくなっちまったからねえ。ほら、あまり若い女でコック長って無いだろ? けどここの旦那様は、ドイツの料理ができる料理人を欲しがってたからさ」
「え」

 私は手を止めた。

「何で?」
「何でだろうねえ? そこまで深く考えたことは無いねえ。ともかく一応こっちの料理もできて、その上で向こうの料理もできるってのは、そうそう無かったってことがあってさ。私は歳関係なしで取ってもらえたからねえ」
「だからかー。ここって結構キャベツの漬物とかソーセージとか多いじゃん。他の家より、ご飯が美味いんだよなあ」
「それはありがとうございましたねえ。まあ確かに、漬物は多いね。ついつい作ってしまうんだよね。旦那様もお好きだし」

 食べ物。
 そう言えば、ミュゼットも当初この家の食事には戸惑ったと言っていた。

「美味しいんだけど、みっしりして歯応えのあるパンとか、はじめびっくりしたわよ。あと、クリスマスの前にあのみっしりしたお菓子をドロイデさんが作るの。好きだけど」

 シュトーレンのことも知らなかった。
 私はこの家でしか暮らしたことが無かったから当然だと思っていたけど、確かに言われてみれば。

「今はこっちの料理と半々ですがねえ。あたしが入った頃は何かもう、気持ちいいくらいに食べてましたよ。今の旦那様と違って、まだ若かったし」
「……ハイロール家はドイツの流れなの?」

 ドロイデもハルバートも顔を見合わせ、どうだろう、と言った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

処理中です...