〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩

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13 母の友人その2からの証言

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 さてそれからしばらくして、今度はルルカ男爵夫人エリーゼ様と何とか話ができた、という手紙が来た。

「ルルカ男爵はどちらかというと、スリール子爵と同じ系統の方のようでした。
 何でも王立博物館の関係のお仕事とか。お伺いしたご自宅も、先日のサムサ家よりはこぢんまりとしたものでした。
 ですが、家族五人とメイド二人が暮らす分には充分な広さでしたし、またそここが、とても心地よいのです。
 何と言うか、私達が味わったことの無い、『しあわせなおうち』という感じです」

 ミュゼットがたとえに出すのは、まだ彼女がちゃんと令嬢として扱われていた時に読んだ本に書かれていた家庭のことらしい。
 私より本は沢山読んでいる彼女は、覚えている物語をよく教えてくれた。
 その中でも、両親ときょうだい、時には祖父母、そして明るいメイドの揃った家庭の話をすると、いつもその瞳は憧れに染まっていた。
 私は最初から想像もできなかったけど、一応両親が揃っていた(ことになっていた)彼女にしてみれば、羨ましいものなのかもしれない。

「エリーゼ様は私達とそう変わらない歳の息子さんが二人いらして、どちらも現在は寄宿学校だそうです。なので週末には予定が合わず、平日は平日で何かと男爵夫人として、慈善活動とか色々することがあったとのこと。
 で、ようやく会うことができたわ。
 三人の友人達の中でも、このエリーゼ様が一番快活で社交的で、何かと貴女のお母様を驚かせり笑わせたりしてくれたみたい。
 エリーゼ様の方からすると、可愛らしい弱いお姫様を守ってあげる騎士の気分だったそう。
 だから結婚するという話を聞いた時、まず反対したみたい。
 何処の馬の骨とも知らない相手に私の椿姫をやるわけにはいかない! って。 あ、椿姫って言うのは、カミーリアって言う名前からの様ね。
 ただそれでも本人の意思が固かったので、反対し切れなかった様よ。
 その代わり、嫁ぐ前の実家の力を使って、ハイロール男爵のことをできる限り調べさせたって。
 ところが!
 これがやっぱり時期がまずかったのか、ともかく情報が曖昧だったんですって。
 特に、成り上がる前のこと。
 確かに起業して成り上がって資産を作って…… とあって、それ自体は間違っていないみたいなのね。
 だけど親戚筋がやっぱり散らばっていて判らないというわけ。
 一代男爵でもないのに、こういうことってあるのかしら?
 あるとしたら、やっぱりその親戚達は何処に行ってしまったのかしら?
 それとも、そういう人達は本当に居るのかしら?
 レ・ミゼラブルではふらっとやってきたジャン・バルジャンが何故かマドレーヌ氏として工場主となり名士になって、それこそ自分で言い出すまで、ジャベール以外から疑われること無かったのよね。
 何か、私その本を読んで、そんなことできるのかしら、と思った時のこと思い出すのよ」
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