9 / 43
9 異母妹から友達へ
しおりを挟む
近々スリール子爵の家に行ってみる、とミュゼットは締めくくっていた。
ちなみにスリール子爵家は、うちやお祖父様の子爵家よりはずっと小さい家なのだという。
事業よりは、学問に走ったのだと。
現在は写真よりはずいぶん歳を食った母親と二人暮らしなのだ、と。
そしてミュゼットは聞いてみたのだ。
「十何年か昔、アルマヴィータという女性と付き合ってませんでしたか?」
すると彼は非常に驚いたのだという。
アルマヴィータ、というのは夫人の名だ。
姓はミュゼットも知らないらしい。
夫人は過去の話を娘にもしなかったようだ。
いや、そもそもミュゼットに対し、初潮が来たから、女になったから見たくない、出ていけ、などという親だ。
自分の過去のことなど決して言う訳がないだろう。
ともかく、夫人の言っていたことが逆に事実だったかもしれないということだ。
ミュゼットはそのスリール子爵の娘なのかもしれない。
だとしたら異母妹ではなくなってしまうのだけど……
私は少しばかり寂しい気がした。
ミュゼットとは何だかんだ言って、二年間隣の部屋で暮らしてきたのだ。
そして仕事を教え、出来ないところは手伝ったり。
一方で私が学び損ねてきたものを彼女は私に伝えてくれた。
異母妹という関係があってもなくても、友達でありえたらいい、と思う。
*
しばらくして、スリール子爵の家に行ってきた、という手紙が届いた。
「驚きです。
十何年か前に子爵が母様と仲良く写っている写真が沢山ありました。
子爵とも何度かそういう仲になったそうです。
そして子爵のお母様――まあ奥様としておきます――にも会うことができました。
何と言ったらいいでしょうか。
向こうも酷く驚いていました。
というのも、私が、子爵の妹――亡くした妹にそっくりだ、とおっしゃるのです。
そして誕生日を聞かれました。
すると子爵は指を折って何やら数え始めました。
そして言いました。
その時期確かに自分は彼女と付き合っていた、と。
だけどそれから少しして、自分の前から去っていった、ハイロール男爵の元に行っていたとは知らなかった、と。
私は聞きました。
では貴方は私の本当のお父様なのか、と。
子爵はこう言いました。
自分としてはそう思いたい、と。
彼は母様のことをずっと気にしつつ、格別他の女の方に手を出すこともせずに、仕事に打ち込んでずっと来てしまったとのことです。
結婚をしない息子に奥様は気を揉んでいたそうですが、もし私が孫娘だとしたら嬉しいと言われました。
ちなみに子爵の父上はもう亡くなっており、本当にお家の方には二人と、あとは通いの雑役女中だけだということです。 子爵と言っても、本当に小さな家です。
私がその昔、母様と共に住んでいた囲われの家より小さいのではないでしょうか。
でも、とても暖かい雰囲気に満ちていました。
だから私は子爵と奥様には、色んなものごとがはっきりしたら、その話をじっくりさせて欲しい、と言いました。
だって、まずは貴女に言われたことの方が先ですもの。
そして子爵には、とりあえず当時の男爵のことを聞きたい、と。
ただ、これに関しては大した収穫はありませんでした。
ハイロール男爵とスリール子爵では、活動する場所がまるで違っていたのです。
たまたま母様がその接点に居ただけ、ということらしいです。
そして母様は他の男のことは決して口にしなかったそうです。
だからこそ、このスリール子爵は二股三股かけられているとはあまり思えなくて、ずっと気になっていたのだと……
何って人が善いのだ、と羨ましく思います」
ちなみにスリール子爵家は、うちやお祖父様の子爵家よりはずっと小さい家なのだという。
事業よりは、学問に走ったのだと。
現在は写真よりはずいぶん歳を食った母親と二人暮らしなのだ、と。
そしてミュゼットは聞いてみたのだ。
「十何年か昔、アルマヴィータという女性と付き合ってませんでしたか?」
すると彼は非常に驚いたのだという。
アルマヴィータ、というのは夫人の名だ。
姓はミュゼットも知らないらしい。
夫人は過去の話を娘にもしなかったようだ。
いや、そもそもミュゼットに対し、初潮が来たから、女になったから見たくない、出ていけ、などという親だ。
自分の過去のことなど決して言う訳がないだろう。
ともかく、夫人の言っていたことが逆に事実だったかもしれないということだ。
ミュゼットはそのスリール子爵の娘なのかもしれない。
だとしたら異母妹ではなくなってしまうのだけど……
私は少しばかり寂しい気がした。
ミュゼットとは何だかんだ言って、二年間隣の部屋で暮らしてきたのだ。
そして仕事を教え、出来ないところは手伝ったり。
一方で私が学び損ねてきたものを彼女は私に伝えてくれた。
異母妹という関係があってもなくても、友達でありえたらいい、と思う。
*
しばらくして、スリール子爵の家に行ってきた、という手紙が届いた。
「驚きです。
十何年か前に子爵が母様と仲良く写っている写真が沢山ありました。
子爵とも何度かそういう仲になったそうです。
そして子爵のお母様――まあ奥様としておきます――にも会うことができました。
何と言ったらいいでしょうか。
向こうも酷く驚いていました。
というのも、私が、子爵の妹――亡くした妹にそっくりだ、とおっしゃるのです。
そして誕生日を聞かれました。
すると子爵は指を折って何やら数え始めました。
そして言いました。
その時期確かに自分は彼女と付き合っていた、と。
だけどそれから少しして、自分の前から去っていった、ハイロール男爵の元に行っていたとは知らなかった、と。
私は聞きました。
では貴方は私の本当のお父様なのか、と。
子爵はこう言いました。
自分としてはそう思いたい、と。
彼は母様のことをずっと気にしつつ、格別他の女の方に手を出すこともせずに、仕事に打ち込んでずっと来てしまったとのことです。
結婚をしない息子に奥様は気を揉んでいたそうですが、もし私が孫娘だとしたら嬉しいと言われました。
ちなみに子爵の父上はもう亡くなっており、本当にお家の方には二人と、あとは通いの雑役女中だけだということです。 子爵と言っても、本当に小さな家です。
私がその昔、母様と共に住んでいた囲われの家より小さいのではないでしょうか。
でも、とても暖かい雰囲気に満ちていました。
だから私は子爵と奥様には、色んなものごとがはっきりしたら、その話をじっくりさせて欲しい、と言いました。
だって、まずは貴女に言われたことの方が先ですもの。
そして子爵には、とりあえず当時の男爵のことを聞きたい、と。
ただ、これに関しては大した収穫はありませんでした。
ハイロール男爵とスリール子爵では、活動する場所がまるで違っていたのです。
たまたま母様がその接点に居ただけ、ということらしいです。
そして母様は他の男のことは決して口にしなかったそうです。
だからこそ、このスリール子爵は二股三股かけられているとはあまり思えなくて、ずっと気になっていたのだと……
何って人が善いのだ、と羨ましく思います」
30
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。


溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。
木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。
しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。
ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。
色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。
だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。
彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。
そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。
しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

努力をしらぬもの、ゆえに婚約破棄であったとある記録
志位斗 茂家波
ファンタジー
それは起きてしまった。
相手の努力を知らぬ愚か者の手によって。
だが、どうすることもできず、ここに記すのみ。
……よくある婚約破棄物。大まかに分かりやすく、テンプレ形式です。興味があればぜひどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる