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5 異母妹を乳母のもとへ逃がす

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 父は当初、ミュゼットが使用人に落とされたことに対し、酷く驚いていた。
 だが自分の種ではない、と聞くと私以上に彼女に当たる様になった。

「お前は私を今まで騙していたのか!」

と、頬を張られることも度々だった。
 さすがにこれはまずい。
 私と違い、ミュゼットは直接的に父の怒りを買った。
 彼女が使用人に落とされてから二年目に、私は乳母のマルティーヌのもとに手紙をつけて送った。
 このままでは殺されてしまう、と。
 さすがに他の使用人も、露骨に顔や手を腫らしたミュゼットには同情を禁じ得なかった。

「それでもわざわざ逃がすというのは」
「だったらまずアリサ様のほうが」

 そう言う皆に、私はこう言った。

「ミュゼットがこうされた、というのは外に知らせておいた方がいいと思うの。だからマルティーヌに匿ってもらいつつ、外側から父のしていることを探ってもらえる様に渡りをつけたいの」
「できるかしら私に」

 ミュゼットは真っ赤に腫れた頬を冷やしながら、問いかけた。

「できるかしらでなく、やるのよ。あと二年。お祖父様が解放されるまで二年。私達はその間に少しでもあのひと達のしてきたことをきちんと見て記しておかなくては」

 ミュゼットは買い物に出る馬車に乗せて、マルティーヌの元へと送った。
 私の手紙、そしてある程度仕込んだ裁縫や料理、それに掃除の技術。
 マルティーヌから「あの時の子が、と思うと驚いた」と手紙が来たくらいなので、私はファデットと共に胸をなで下ろした。
 そしてそれからの二年、マルティーヌのもとでミュゼットは内職をしつつ、時折昔の関係者に当たるという日々を送っていた。
 蟄居軟禁状態とはいえ、お祖父様に会いに行けない訳ではない。
 そしてそのお祖父様の伝手から、昔の父や義母の交友関係を当たってもいた。
 彼女は彼女なりに知りたいことがあったらしい。

「だって判らないのよ」

 ミュゼットはこう言っていた。

「私に関しては、別の男の娘と判ってしまったから、という意味で放逐するのは判るの。けど、アリサは違うじゃない。確かに先の夫人の亡くなった原因と言うのはあっても、それでも実の娘なのに」

 正直それは思う。

「あのひとがそれだけお母様を愛していた、というならそれはそれで判らなくはないけど」
「それでも実の娘を、というのは外聞が悪くない?」

 特に外に出てから送ってくる手紙では、更に世界が広がったのか、そう彼女は書いてきた。

「どうやら貴女は世間的には身体が弱くて学校にも行けないとか何とか言われている様よ。でももしそれでもいいからという縁談があった場合、貴女を消しにかかるかもしれないから注意しなくちゃね」

 そんな情報を仕入れてきては、私に伝えてもくれる。
 なお、夫人はミュゼットのことはあれ以来気にもしていないのか、何も言って来ない。
 もし問われれば、「奥様のご要望通り追い出しておきました」という用意が出来ている。
 おそらくそれで彼女は満足するだろう、というのが我々のとりあえずの考えだった。
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