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55 ナナさんの危惧
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「そしたらつい服作りにはまってしまって、ついにOLやめて、その時に貯めたお金で、服飾の専門に一年コースか何かで入ったのね。だけどそれを仕事にしようとは思わなかったから、それはそれで終わり。で、雑貨ショップにバイトのつもりで入ったら、何か真面目だねえ、って正社員にされちゃって」
「それもいいじゃないですか」
「だけど実は腰を痛めたのよ」
ひらひら、と彼女は手を振った。
こ、腰?
「結構ね、あれって重労働なのよ? 雑貨って言ったって、軽いものばかりじゃないし。それで辞めて、今度はも少し軽いものにしようかな、と思ったら、ちょうどここの募集があって。時間が何だったけど、まあそれもいいかな、って入って」
それで五年居着いてる訳なの、と彼女は締めくくった。
「まあここだったらね、重いものは男の子が持ってくれるしね」
そう言ってナナさんは笑った。
「それにしても、できればめぐみ君で、メジャーまで行ってほしいわね」
「メジャーに?」
思わず私は問い返していた。
「RINGERは行ける、と思うのよね」
「そ、そうなんですか?」
「まあ別にあたしはレコード会社じゃないから、何とも言えないけれど、少なくともウチの連中よりは可能性があるわね」
「え? でもBELL-FIRSTのほうがずっと上手い…」
「上手い下手じゃないってことは、美咲ちゃんも知ってるでしょ? ベルファは確かに腕はいいんだけど、まあ、若い子にきゃーってウケるタイプじゃあないからね。それに皆それぞれ食う仕事は持ってるから、そうそうあくせくしてないし」
「そっちが本業なんですか?」
「そーね、うん、どっちかというと、バンドは趣味なのよね。皆。演奏して、楽しむことが一番だから、それで金稼ごう、とか食べていこう、って欲を出したくはないのよね、ベルファは。だけどRINGERはそうじゃないでしょ?」
私はうなづいた。
少なくとも兄貴はそうだ。
オズさんもそういう意味のことを以前言っていた。
「ただちょっとね……」
ナナさんはふらりとステージの方を向いて、軽くため息をついた。
「何ですか?」
「めぐみ君で行ってほしい、とも思うんだけど、メジャーの世界で大丈夫かな、という部分はあるのよね、あの子」
そう見えるのだろうか。
私は黙って首を傾げた。
「何かあの子は、それで食べて行こう、って感じがしないのよね。うたうたいとしては、それでいいんだけど……」
ステージの上のめぐみ君は、と言えば、最初見た頃に比べて、ずいぶんと動き回るようになっていた。
決して広いとは言えないステージを、これでもかとばかりに右へ左へと動き回り、兄貴に絡まる。
そのたびに女の子の悲鳴が上がる。
それは「やめてー」の意味なのか、「もっとやってー」の意味なのか、どちらなのかは判らないが、まあ喜んでいるんではないか、と思う。
声はよく伸びているし、感情も入りまくっている。
絶好調なんじゃないか、と思うのだが。
だがナナさんの懸念が当たるのは、それからそう長くはなかった。
「それもいいじゃないですか」
「だけど実は腰を痛めたのよ」
ひらひら、と彼女は手を振った。
こ、腰?
「結構ね、あれって重労働なのよ? 雑貨って言ったって、軽いものばかりじゃないし。それで辞めて、今度はも少し軽いものにしようかな、と思ったら、ちょうどここの募集があって。時間が何だったけど、まあそれもいいかな、って入って」
それで五年居着いてる訳なの、と彼女は締めくくった。
「まあここだったらね、重いものは男の子が持ってくれるしね」
そう言ってナナさんは笑った。
「それにしても、できればめぐみ君で、メジャーまで行ってほしいわね」
「メジャーに?」
思わず私は問い返していた。
「RINGERは行ける、と思うのよね」
「そ、そうなんですか?」
「まあ別にあたしはレコード会社じゃないから、何とも言えないけれど、少なくともウチの連中よりは可能性があるわね」
「え? でもBELL-FIRSTのほうがずっと上手い…」
「上手い下手じゃないってことは、美咲ちゃんも知ってるでしょ? ベルファは確かに腕はいいんだけど、まあ、若い子にきゃーってウケるタイプじゃあないからね。それに皆それぞれ食う仕事は持ってるから、そうそうあくせくしてないし」
「そっちが本業なんですか?」
「そーね、うん、どっちかというと、バンドは趣味なのよね。皆。演奏して、楽しむことが一番だから、それで金稼ごう、とか食べていこう、って欲を出したくはないのよね、ベルファは。だけどRINGERはそうじゃないでしょ?」
私はうなづいた。
少なくとも兄貴はそうだ。
オズさんもそういう意味のことを以前言っていた。
「ただちょっとね……」
ナナさんはふらりとステージの方を向いて、軽くため息をついた。
「何ですか?」
「めぐみ君で行ってほしい、とも思うんだけど、メジャーの世界で大丈夫かな、という部分はあるのよね、あの子」
そう見えるのだろうか。
私は黙って首を傾げた。
「何かあの子は、それで食べて行こう、って感じがしないのよね。うたうたいとしては、それでいいんだけど……」
ステージの上のめぐみ君は、と言えば、最初見た頃に比べて、ずいぶんと動き回るようになっていた。
決して広いとは言えないステージを、これでもかとばかりに右へ左へと動き回り、兄貴に絡まる。
そのたびに女の子の悲鳴が上がる。
それは「やめてー」の意味なのか、「もっとやってー」の意味なのか、どちらなのかは判らないが、まあ喜んでいるんではないか、と思う。
声はよく伸びているし、感情も入りまくっている。
絶好調なんじゃないか、と思うのだが。
だがナナさんの懸念が当たるのは、それからそう長くはなかった。
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