どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
51 / 88

51 幻想の中の「可愛らしい女の子」

しおりを挟む
「花?」

 ああ、と兄貴が電話の向こうでうなづく気配があった。

『花と、ケーキ。お前どういうのがいいと思う?』
「何兄貴、いつから甘いもの食べられるようになったのよ」

 そんな単語が彼から出ることあたり、私にはひどく不思議だったのだけど。

『や、めぐみの誕生日だし』

 ああ、と私は大きくうなづいた。
 この男がそんなことを几帳面に覚えているとは! 
 何せ先日聞いた私すら忘れていたというのに。
 しかし確かに彼は、その時付き合っていたひとには、それなりのことをしてはいたようだ。
 記念日好き、という訳ではないが、付き合ってた期間に誕生日だのクリスマスだのバレンタインだの、国民的行事が存在する時には、意外にもそれにならったりしているらしい。
 まあ確かに、押さえておけば関係がスムーズに行くことではあるが、兄貴の性格を考えると非常に不思議ではある。
 だいたい預金通帳をちゃんと保管しているのだ。
 しかもその中には、ちゃんと定期で預金がされている!
 それはいずれ出そうと思っているインディーズの音源の為の資金なのだろうが…… 
 その貯め方がちゃんと毎月毎月こつこつしているあたり、不思議と言えば不思議なのだ。
 もしかして、音楽ではなくビジネスに才能が向いていたら、とてつもなく女にもてるばりばりのやり手になっているのかもしれない。
 今でももてることはもてるのだが、それはあくまで「バンド好き」の女の子の範疇に過ぎない。
 そうではなく、もっと広範囲な。
 たまたまそれが音楽という、決して大多数の人間がするものではないことから、世間から外れた存在になっているが、……もしかして……

「花は店で適当に選んでもらったら? 女の子にあげるとか何とか言えば、選んでくれるでしょ。ケーキは」

 私はふと、この間のクリスマスにサラダと食べた「CUTPLATE」のケーキのことを思い出した。

「ああそう、兄貴、あまり甘くない奴だったら食べられるよね?」

 ああ、と電話の向こうの声は答える。

「CUTPLATEってカフェで出してるケーキが、あんまり甘くない…… って言うか、甘いことは甘いんだけど、果物のとのバランスがいいから、兄貴でも食えそうな奴だったけど」

 教えてくれ、と彼は言った。
 あそこなら、兄貴達の部屋からも歩いて行けないこともない。
 夜遅くまで開いてもいるから、彼がバイトから帰ってきた時に取りに行っても大丈夫だろう。

「めぐみちゃんは甘いもの好きだった?」
『あいつは好きだよ』

 だろうね、と私はうなづいた。
 そういうイメージだ。「女の子」のような。
 それは実際の女の子がどうの、というのではなく、幻想の中の「女の子」のイメージだ。
 私がめぐみ君に対して「可愛らしい」と思った部分でもある。
 だけどそれは、いつまでも続くものだろうか。
 兄貴はきっと今までの相手より大事にしているだろう。
 そうでなくて、こんな長く続くはずがない。
 もう一年にもなるのだ。
 バンドは順調だった。
 めぐみ君もどんどんヴォーカルに磨きが掛かっているらしい。
 最近見に行かないので何だが。
 何となく、歌っている彼の姿はひどく私の目から見て、痛々しかったのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

処理中です...