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48 クリスマスをサラダと考える
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「クリスマスはどーすんの? ミサキさん」
十二月のある週末の午後、サラダが不意に問いかけた。
私の部屋の方が暖かいから、と彼女は前にも増して入り浸っていた。
「別に特に予定はないけど」
「じゃあ何処かにごはんとかケーキとか食べに行こーよ」
「彼氏はいいの?」
「ずーっと居ないことくらい、知ってるくせに」
彼女は眉を寄せたが、口元は笑っていた。
確かに。
ずっとそんな話を聞いていない。
「別に作らないって決めた訳じゃあないんだけど」
彼女はそれ以上は口をにごした。
ただし、過去の彼氏達との友達づきあいはちゃんと続いているらしい。
そのあたりが実に彼女なのだが。
「何処がいいかなあ」
彼女が見てた雑誌をちら、と見る。案の定、「カップルで行くクリスマスのデートコース」みたいな特集のついた情報誌だった。
私が買った訳ではないから、彼女の帆布バッグの中から取り出されたものだろう。
「あそこのカフェはどうなの?」
「あそこのカフェ?」
「CUTPLATE」
ああ、とサラダは顔を上げた。
「うーん、特にそんなクリスマス・メニューが出るとか聞いたことはないけどさあ」
「でもあたしまだ夜に出かけたことないけど、あそこはごはんはどうなの?」
「うーん。ランチはあたしも食べたことあるけど。一応夜も二時くらいまでやってるし…… 何かしらあるんだよねえ」
「だったら近場だし、場所予約取って、そこでごはんしない? 確かケーキはあったし」
「あー、そういえば、ケーキは美味しかった」
「でしょ」
うんうん、とサラダはうなづく。
そーだねそれがいい、と彼女は繰り返した。
「あたしさ、こっちに出てきてからは、絶対にクリスマスはケーキを食べるんだ、って決めてるの」
「? って、そうじゃあなかったの?」
「全くそういう訳じゃないけど」
うーん、と彼女は首をひねる。
「そんなこと、考えてる余裕が無かったし」
え?
「クリスマスって、いいもんだねーって思ったのは、こっちに来てからだしさあ」
何かすごく、困ったことを聞いているような感じがしてきた。
「そーなんだよね。何かクリスマスってさ、皆で騒いで、ばっかじゃねーの、と思うこともあるんだけど、そんな、宗教でも何でもないのにさ、皆浮かれてもいい日っていいよね。そういう日があるだけで、何か楽しくなるじゃん」
そうだね、と私はあいづちを打つ。
「でもま、あたしには、ここに住めることだけで、じゅーぶん感謝したいと思うのよ。カミサマじゃなくても、何か、にさあ」
「感謝」
「だって、平和じゃない」
どう答えたら、いいのだろう。
サラダも自分が振った言葉が意味を持ってしまっていたのに気付いて目を伏せた。
「でもさあ、ミサキさん、カフェでも何でも、小さい、自分の趣味だけで埋め尽くした店っていいよねー」
おやまたこの話題だ。
最近気がつくと、私達はそんな話になっていた。
「で、あんたとしては、小さくてもいいの? 小さいほうがいいの?」
私の口元からも笑みがこぼれる。
話がそれて、安心したのは私の方かもしれない。
「うーん、そりゃあある程度の大きさはあった方がいいけど、あんまり大きすぎると、あたしなんかじゃあ、しっちゃかめっちゃかになっちゃうじゃん。そーだね、テーブルはいいとこ、四人掛けが二つと、二人掛けが四つ」
「あとは、カウンターで?」
「雑貨とかも置いてさ。だったらそうなっちゃうよ」
「雑貨置くなら、ちゃんとディスプレイするスペースは必要だよ」
「無論そーだよ。だってそれはあたしの仕事だもん」
にっこりと彼女は笑った。
どき、と心臓が跳ねる。
それがその笑みのせいなのか、「仕事」というその言葉のせいなのかは判らなかった。
十二月のある週末の午後、サラダが不意に問いかけた。
私の部屋の方が暖かいから、と彼女は前にも増して入り浸っていた。
「別に特に予定はないけど」
「じゃあ何処かにごはんとかケーキとか食べに行こーよ」
「彼氏はいいの?」
「ずーっと居ないことくらい、知ってるくせに」
彼女は眉を寄せたが、口元は笑っていた。
確かに。
ずっとそんな話を聞いていない。
「別に作らないって決めた訳じゃあないんだけど」
彼女はそれ以上は口をにごした。
ただし、過去の彼氏達との友達づきあいはちゃんと続いているらしい。
そのあたりが実に彼女なのだが。
「何処がいいかなあ」
彼女が見てた雑誌をちら、と見る。案の定、「カップルで行くクリスマスのデートコース」みたいな特集のついた情報誌だった。
私が買った訳ではないから、彼女の帆布バッグの中から取り出されたものだろう。
「あそこのカフェはどうなの?」
「あそこのカフェ?」
「CUTPLATE」
ああ、とサラダは顔を上げた。
「うーん、特にそんなクリスマス・メニューが出るとか聞いたことはないけどさあ」
「でもあたしまだ夜に出かけたことないけど、あそこはごはんはどうなの?」
「うーん。ランチはあたしも食べたことあるけど。一応夜も二時くらいまでやってるし…… 何かしらあるんだよねえ」
「だったら近場だし、場所予約取って、そこでごはんしない? 確かケーキはあったし」
「あー、そういえば、ケーキは美味しかった」
「でしょ」
うんうん、とサラダはうなづく。
そーだねそれがいい、と彼女は繰り返した。
「あたしさ、こっちに出てきてからは、絶対にクリスマスはケーキを食べるんだ、って決めてるの」
「? って、そうじゃあなかったの?」
「全くそういう訳じゃないけど」
うーん、と彼女は首をひねる。
「そんなこと、考えてる余裕が無かったし」
え?
「クリスマスって、いいもんだねーって思ったのは、こっちに来てからだしさあ」
何かすごく、困ったことを聞いているような感じがしてきた。
「そーなんだよね。何かクリスマスってさ、皆で騒いで、ばっかじゃねーの、と思うこともあるんだけど、そんな、宗教でも何でもないのにさ、皆浮かれてもいい日っていいよね。そういう日があるだけで、何か楽しくなるじゃん」
そうだね、と私はあいづちを打つ。
「でもま、あたしには、ここに住めることだけで、じゅーぶん感謝したいと思うのよ。カミサマじゃなくても、何か、にさあ」
「感謝」
「だって、平和じゃない」
どう答えたら、いいのだろう。
サラダも自分が振った言葉が意味を持ってしまっていたのに気付いて目を伏せた。
「でもさあ、ミサキさん、カフェでも何でも、小さい、自分の趣味だけで埋め尽くした店っていいよねー」
おやまたこの話題だ。
最近気がつくと、私達はそんな話になっていた。
「で、あんたとしては、小さくてもいいの? 小さいほうがいいの?」
私の口元からも笑みがこぼれる。
話がそれて、安心したのは私の方かもしれない。
「うーん、そりゃあある程度の大きさはあった方がいいけど、あんまり大きすぎると、あたしなんかじゃあ、しっちゃかめっちゃかになっちゃうじゃん。そーだね、テーブルはいいとこ、四人掛けが二つと、二人掛けが四つ」
「あとは、カウンターで?」
「雑貨とかも置いてさ。だったらそうなっちゃうよ」
「雑貨置くなら、ちゃんとディスプレイするスペースは必要だよ」
「無論そーだよ。だってそれはあたしの仕事だもん」
にっこりと彼女は笑った。
どき、と心臓が跳ねる。
それがその笑みのせいなのか、「仕事」というその言葉のせいなのかは判らなかった。
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