どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
44 / 88

44 サラダとだらだらと②

しおりを挟む
 言っておくが、OLというのは決して安定した地位ではない。
 結婚をほのめかせば、相変わらずそれは「近いうちの退社」につながる。
 ボス的存在の彼女程になってしまえば別だが、私にはその意欲は無い。
 意欲が無くても、ある程度は居られる。
 それがこの不安定さの代わりに手に入れられる地位なのだ。
 男にはない、女の奇妙な特権だ。
 男でこの位置を手に入れようと思えば、間違いなくフリーターだろう。
 男も女も、こんな曖昧な位置をキープしようと思うと、必ず周囲から横やりが入るらしい。ふう。

「どしたの?」
「んー? どうして楽しく暮らしてくだけじゃ駄目なのかな、って」

 こうやって、高価でなくても、美味しい食事をして、友達と一緒に、お気に入りの空間で、ゆったりと過ごす。
 私にとっては、それが一番の時間。
 サラダは何やら、それ以上に何かを「作る」ことが好きらしいが、私の場合はそれで充分だ。
 それ以上のことは要らない。
 それを得るためにに必死になるのも嫌だ。
 何でそれではいけないんだろう?

「ダメじゃないでしょ。やり方次第」
「やり方?」
「っーか、考え方次第」

 もう一杯お茶ちょうだい、とサラダはカップを突き出す。

「考え方の根っこが違うんだもの。あのひと達は、そういう根性とか何とやらが好きで、そーゆーので疲れることが好きなんだよ。そうゆうのを快感だって思うんだよね。だから人にもそれをやって欲しいんだよね。その方法で上手く行くと、それで安心するんだよ。まあそれは、あたし等も変わらないんだけどさあ」
「ふうん?」
「あのひと達はあたし達のような楽しむポイントはわかんないと思うもん。それにああゆー人達が、雑貨ショップに居るのも変じゃん」
「それは」

 私は吹き出した。
 TVに出ていたのは結構ごついおじさん達だったのだ。

「あたし達はまだ若くて、女の子で、ふわふわしたものが好きなものが似合うって特権があるんだよ。特権はせいぜい利用させてもらわなくちゃ」

 なるほど、と私は思う。

「なるほど、あの立て直しのおじさんには無い特権があたし達にはあるって訳ね」
「そういう社会だからねー」

 しゃらっ、と彼女は言う。

「レッテルを貼って安心してるんだよ。だからこのひとは自分の知ってるこうゆうタイプ、って貼れないひとが出てくると、追い出したくなるんだよ。まーね、そりゃあ、仕事には好みと適性ってのがあるからさー、それが合って楽しんでできれば一番いいよね。それだったら、それが戦場だって構わないと思うもん。あんたの兄貴も、そうなんじゃない?」
「兄貴はね。うん、奴は、バンドが仕事にできたら、きっとそれに全部かけるよ。っーか、今だって全部かけてるけどね」

 それは確かだ。
 そしてうらやましい部分だ。
 彼はもしどれだけバイト先でその長い金髪を悪趣味だ時代遅れだ、と思われようが、バンドが忙しくて休みを入れようが、そのせいで何日間か、便所そうじの当番が回ってこようが、何の意にも介さないのである。
 他のフリーター達にとっては、嫌なことで回避したいことだろうが、兄貴には他の仕事と何の比重も変わらないのだ。
 正確に言えば、彼は、ギターと音楽以外のものは、全部同じなのだ。
 それをうらやましい、と思う反面、のよりさんの言ったことが少し思い出された。

 可哀相な、ひと。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

処理中です...