どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

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32 寒くて仕方がない

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 よく「彼氏が欲しい」という理由で恋の相手を捜す女の子を見るけれど、その問いに似ている。
 ……そんな堂々巡りの考えを、会社で、上司やボス的OLさんを見るたびに思い起こしてしまい、それだけで疲れてしまう。彼や彼女がそこに居ないとほっとする。
 できるだけ、できるだけ仕事はさっさと切り上げて帰りたい、と思う。
 一人になりたかった。
 会社という空間が、重いのだ。
 なのに、そういう時に限って忙しかったり、ミスをして、その修正に時間が掛かる。ああ全く。

 帰ると真っ暗な部屋。
 安心する。
 誰も私のことを考えていない。そんな一人きりの空間に帰ると、すごくほっとする。
 誰の声も、私のことを考えていない空間がひたすら嬉しい。
 ヒーターをつけて、ホットカーペットをつけて、しばらくその上に、着替えもせずにごろごろと転がる。
 つけたほっぺたがじんわりと暖かくなる頃、重い体をゆっくりと起こして、コーヒーを入れに行く。
 食事は途中のコンビニで買ってきた弁当。
 それもレンジに入れて。
 温まる間に部屋着に着替えて、コーヒーが入るのを待つ。少し濃いめのコーヒーにはミルクと砂糖をたっぷり入れる。
 TVからはニュースが流れてくる。不吉なニュースならスイッチは切ってしまう。
 うるさい。
 聞きたくない。
 食事を終えたら風呂を用意して、ゆっくりとそこで時間を過ごす。
 なるべく楽しいことを考えよう。
 少なくとも会社のことなんか考えない。
 将来のことなんて、もっと考えてはいけない。
 楽しいこと楽しいこと。
 ああそうだこんどの休みには何処に行こう。
 兄貴のバンドのライヴはいつだっけ。
 のよりちゃんもずいぶんと慣れてきたよな……
 眠りに落ちそうになるのを必死でこらえて、温まった体が冷めないうちに、ベッドに入る。疲れている身体と頭は、とっとと眠りに入ろうとする。
 だけど、ヒーターを切った部屋は、時間が経つにつれてどんどん冷えていくから、時々不意に私の足やら腕を凍らせる。
 どうしてこんなところが冷たいのか判らない。
 二の腕だったり、足先だったり、いくら身体を折り曲げて他のところで暖めようとしても、駄目なのだ。
 羽毛ふとんは身体の熱を逃がさないはずなのに、ひどくすかすかとして、寒い。

 寒いのだ。

 誰か。

 思わずつぶやいている。

 誰でもいい。私をすっぽりと、抱きしめてほしい。
 抱きしめてくれなくてもいい、せめて、私に、触れて。
 体温を。
 何処でもいい。分けてほしい。
 寒くて、仕方がないの。
 どうしようも、なく。

 昔の彼の手を思い出そうとする。だけど、思い出せない。彼は私を抱きしめてくれたことはあっただろうか?

 眠りはそのまま浅くだらだらと続き、いつ眠ったのか判らないままに、朝になり、布団の中に入っていても寒いのならばと私は起きてしまう。
 まだ六時とかそんな時間だ。
 カーテンの向こうの窓が結露している。
 外はもっと寒いのだろう。
 外は暗い。
 ヒーターをつけて、朝の支度をし、窓辺の花とグリーンに水をやって、寝不足で重い体を私は少しでも温めようと動き回る。

 そして疲労は蓄積するのだ。
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