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20 食う寝るところに住むところ
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ふん、と兄貴は半ば閉じた目のまま、両眉を上げた。
勝手知ったる他人の家。
ベッドの脇に置かれている座卓のそばに私は陣取った。
いつも思うのだが、この男の部屋は、案外片付いている。
何の飾りも無いベッドに、冬になったら活躍する炬燵の座卓。
窓際にはTV。
カーテンは遮光を兼ねているので、暗色だけど、そう悪い印象ではない。
押入をクロゼット代わりにして、上の段の半分には服をずらりと掛けてある。
あと半分にはオーディオ。
CDとかデッキとかそんなものが置いてある。
下の段には楽器。
ギターにギターにギターにアンプ。
こんなものまで弾いてるのか「ぞうさん」まである。
他に何があるんだ、というくらい、彼の部屋でぱっと目に入るのはそれだけだ。
まあしかし確かにそれ以外、必要ではないのかもしれない。
部屋というものが、食う寝るところに住むところ、というならば、彼の場合、確かに必要なのはそれだけだろう。
「食う」ためのものは、部屋の端に作りつけてある台所スペースに集約されているし。
1ドアの冷蔵庫。
自炊も全くできない訳ではないらしい。
時々私も、総菜をたくさん作った時にはタッパーに入れてお裾分けする時もある。
一人分のちゃんとした料理、というのは実に作りにくいのだ。
ちゃんとした肉じゃが、とかちゃんとしたうま煮、とか作った時には、どうしても四人分とかのレシピを見てしまう。
持ってくと、助かる、とか言いつつ、その冷蔵庫に入れている。
こういうあたりが結構見かけと一致しないところなのだが、この男は案外マメなのだ。
とは言え、収納に血道を上げるタイプではない。
無駄なものは買いもしないし置きもしないだけなのだろう。
そんな台所スペースで、ハコザキ君は鍋で湯を沸かしていた。
やかんは無い。
小鍋とでかい鍋とフライパン。
それだけあるだけでも立派である。
そんな小鍋で湯は湧かすらしい。
「俺にも一杯くれー」
ふとんの中でずるずるとスウェットの下を履いたのだろうか、兄貴はベッドからずるずると降りて床にべたん、と腰を下ろした。
「何がいい? コーヒー? お茶?」
どうやらその二種類しかないらしい。
コーヒー、と兄貴は言った。
一緒でいいよ、と私も答えた。
シンク下の扉を開けると、ハコザキ君はお中元かお歳暮でもらったギフトのような箱の中から、一人用のコーヒーパックを三つ出した。
「珍しいものがあるじゃない」
「ああ、家にあったから持ってきたんだ」
ハコザキ君はさらりと答える。
何処の「家」なのだろう。
「ハコザキ君、東京育ち?」
「こいつはそうだよ……」
面倒くさそうに兄貴は答える。
「のよりさんも?」
「お前何しに来たんだよ」
兄貴は髪の間からじろ、と視線を飛ばす。
相変わらず目つきの悪い男だ。
「そりゃあ、またか、と思ってね」
勝手知ったる他人の家。
ベッドの脇に置かれている座卓のそばに私は陣取った。
いつも思うのだが、この男の部屋は、案外片付いている。
何の飾りも無いベッドに、冬になったら活躍する炬燵の座卓。
窓際にはTV。
カーテンは遮光を兼ねているので、暗色だけど、そう悪い印象ではない。
押入をクロゼット代わりにして、上の段の半分には服をずらりと掛けてある。
あと半分にはオーディオ。
CDとかデッキとかそんなものが置いてある。
下の段には楽器。
ギターにギターにギターにアンプ。
こんなものまで弾いてるのか「ぞうさん」まである。
他に何があるんだ、というくらい、彼の部屋でぱっと目に入るのはそれだけだ。
まあしかし確かにそれ以外、必要ではないのかもしれない。
部屋というものが、食う寝るところに住むところ、というならば、彼の場合、確かに必要なのはそれだけだろう。
「食う」ためのものは、部屋の端に作りつけてある台所スペースに集約されているし。
1ドアの冷蔵庫。
自炊も全くできない訳ではないらしい。
時々私も、総菜をたくさん作った時にはタッパーに入れてお裾分けする時もある。
一人分のちゃんとした料理、というのは実に作りにくいのだ。
ちゃんとした肉じゃが、とかちゃんとしたうま煮、とか作った時には、どうしても四人分とかのレシピを見てしまう。
持ってくと、助かる、とか言いつつ、その冷蔵庫に入れている。
こういうあたりが結構見かけと一致しないところなのだが、この男は案外マメなのだ。
とは言え、収納に血道を上げるタイプではない。
無駄なものは買いもしないし置きもしないだけなのだろう。
そんな台所スペースで、ハコザキ君は鍋で湯を沸かしていた。
やかんは無い。
小鍋とでかい鍋とフライパン。
それだけあるだけでも立派である。
そんな小鍋で湯は湧かすらしい。
「俺にも一杯くれー」
ふとんの中でずるずるとスウェットの下を履いたのだろうか、兄貴はベッドからずるずると降りて床にべたん、と腰を下ろした。
「何がいい? コーヒー? お茶?」
どうやらその二種類しかないらしい。
コーヒー、と兄貴は言った。
一緒でいいよ、と私も答えた。
シンク下の扉を開けると、ハコザキ君はお中元かお歳暮でもらったギフトのような箱の中から、一人用のコーヒーパックを三つ出した。
「珍しいものがあるじゃない」
「ああ、家にあったから持ってきたんだ」
ハコザキ君はさらりと答える。
何処の「家」なのだろう。
「ハコザキ君、東京育ち?」
「こいつはそうだよ……」
面倒くさそうに兄貴は答える。
「のよりさんも?」
「お前何しに来たんだよ」
兄貴は髪の間からじろ、と視線を飛ばす。
相変わらず目つきの悪い男だ。
「そりゃあ、またか、と思ってね」
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