どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

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18 人に習う方が楽だと思う人が多数派と気付くまで時間がかかった

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 それは今でもそうだ。
 ただ今は、それをある程度自覚しているから、何とか済んでいるだけ。
 会社の新人研修の時なんかそうだった。
 困ったことに、渡されたマニュアルは実に薄かったのだ。
 いや、無論それだけではないことは判る。
 ただ、そこに書かれていることはそこに書かれていることであり、それを読んでしまうことはたやすい。
 ついでに言うなら、私は速読という奴ができる。
 学生時代はそれがずいぶん役に立った。
 だがそれを会社というところで下手に使うと。
 先輩OLは、自分が予想した時間よりはるかに早く目を通してしまった私に対して不審の目を向けた。
 あ、これはやばい、と私は思った。
 慌ててすいませんここ飛ばしてました、と言って、結局同じ文章を三回くらい繰り返して読んでたことを覚えている。

 ああ面倒だ。

「だからそれはそれでいいんだけど、そういうタイプの子だから、じっくりと音楽に取り組むのは無理だろう、ということを母親に言ったらしいのね」
「そうかなあ。単に人に習うのが上手くないだけじゃないの?」
「あたしもそう思うよ。今ならね。だけどガキの頃じゃあそんなこと、判る訳がないじゃない」

 どうやら人に習う方が自分で問題も解き方も探して行くことよりも楽だと思う人が多数派だなんて。

「でもさー、それだったらあたしはミサキさんの方に近いと思うよ」
「ふうん?」

 にやり、と私は笑った。

「だってさー、ガキの時にさ、よくあたしも先生に変な質問して嫌われたもん」
「変な質問?」
「何で電流が流れるんですか、とか」
「それが変?」
「電流って電気が流れる、ってことじゃん。流れるものをまたわざわざ流れるって言うのって変じゃん。何でそういうんですか、って聞いたら、怒ってそれはそういうものだ、って言われたよ」
「それはそーだろ」
「でもあたしには変だったんだもん。何かむずむずしたのよね。コトバ的に」

 でもその気持ちはすごくよく判る。

「そこで、その先生が、せめて『それは言葉としては変だが、昔そう決められてしまったものなんだ』とか言ってくれてたらね、納得したと思うんだけど」
「そこで怒ったのが嫌だったんだ」

 そ、と彼女はうなづき、カップを手にした。
 その気持ちは良く判る。
 そこで彼女が問いたかったのは、ただ単に言葉のことだけではないのだ。

「そういうものが多いんだよね。結局。何か良く判らないけれど、そう決まってる、ってこと。じゃあどーしてそれがそうなってる、って聞くと、答えられないから怒る訳でさ。判らないなら判らないって言えばいいのに。そーしたら信用できるのにさ」
「仕方ないよね。先生って立場からそんなことは言えなかったでしょうに」
「でも人間として信用できない人の言葉って、なかなか覚えることができないよね。あたしそれから理科駄目になったもん」

 極端な奴だ。
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