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16 サラダと朝食②
しおりを挟む「あ、もう一枚もらっていい?」
「あんたよく食うねえ」
4/2枚目に手を出そうとしている。
まあいいよ、と私は答えた。
こんなものは作るのは別に手間はいらないし、私はそんなに沢山は食べない。
「何、今日は彼氏と会う日だっけ」
「うん」
だから気合い入れなくちゃ、とごはんを食べるらしい。
これから戻って、お風呂に入って、ちゃんとメイクして服も選んで、午後の約束があるのだという。
「何、あんた今の彼氏ってどんな奴?」
「どんな、って。ミサキさんどうゆう人だと思う?」
「……って」
予想がつかない。
「前のユウスケ君は、確かバイトの大学生だったよね、割と軽い感じの。で、その前のエグチ君は夜はクラブ通いして昼は結構肉体系のバイトのフリーターで」
「どーしてそういうことばかり覚えてるのかなー。ユウスケは細身で目が鋭い奴だった、とかエグチは背が高くて濃い顔してた、とか、そういうことは覚えてくれないのにさー」
「だって、あたしとあんたじゃ好みが違うんだもの。仕方ないじゃない。あたしはあーんまり濃い顔とか好きじゃないから、目と頭が覚えようとしなかったのかもしれないよ」
「ふうん。でもあたしミサキさんの好みって知らないもん。ミサキさんの好みってどんな奴なの?」
「あたしの好み?」
はて。
そう言えば。
私は天井を見上げる。
「そんなものあったかなあ」
「って、自分のことでしょ」
「自分のことだって、判らないものは判らないのよ」
私は乱切りにしたバナナをフォークでつく。
その時となりのオレンジにも傷をつけたらしく、ほんの少し香りが飛んだ。
普段はまるごと一つの果物しか摂らないけれど、人が居る時にはフルーツサラダ。
「変なの。だってつきあったことのあるひとは居るって言ったじゃない」
そう言えば言った気もする。
「別に好みだからつきあった、って訳じゃないわよ」
「って変なの。だいたい好みだから、とかそうゆうんじゃないの? ミサキさん結構ガード固いしい」
「ガード、固いかなあ?」
「固いよお。ってゆーか、面倒だと思ってない?」
「あんたねえ」
図星だ。
苦笑する。
だから時々困るのだ。
見てるようで、この女は良く見てるのだ。
彼女はぱっと手を広げた。
「それじゃあ人生華が無いよお」
「華、ですかね」
思わず私は吹き出した。
いきなり何か古風な。
開いた手を今度は拳にして彼女は力説する。
「笑い事じゃあないよぉ。短い人生なんだから、楽しまなくちゃ」
「あたしは別にそういうことにあんまり楽しみって感じないもん。それこそ日々をつつがなく暮らすのに精一杯だよ? ほら、欠食児童に餌付けするとかう」
「あたしは児童か! ふうん? まあミサキさんがそうゆうことなくても楽しいなら、別にあたしの知ったことじゃーないけどさ」
全くだ。
「で、ミサキさんは今日はどうすんの?」
「あたし?」
さて。
どうしようかな、と首をかしげた。
特に何をしようという気も無い。
「まあちょっと買い出しに出かけようかな」
「それだけ?」
「兄貴の様子でも見に行こうかな」
「様子? でもおにーさんにも彼女とか居るんじゃないの?」
うーむ、と私は腕を組んだ。
果たして「彼女」なのか。
そのあたりが今は少し気に掛かっているのだ。
本当に「そう」なのか。
「うん、居るのかもしれないけれど、まあそれはそれとして。居たら冷やかしに」
「悪趣味ー」
「そうゆうのができるのが、きょうだいの特権なんだよ」
「へーえ」
心底不思議そうに彼女は目を丸くした。
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