どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

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7 恋愛は苦手

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「今のヴォーカルは確か、ハコザキ君って言ったかな」
「ハコダテ君?」
「ハコザキ君。どういう耳をしてるんだあんた」
「彼女居るのかなあ?」
「何よそれ」

 その時ようやく彼女はくるりとこちらを向いた。
 皿とふきんがそれぞれ手にある。
 それらを胸の前で抱えて、目線は天井。

「だって結構恰好よかったしー。声いい男って、あたし好きだよ」
「残念でした。ハコザキ君には彼女が居ます」

 私はへへへ、と笑って彼女に答える。
 この女は惚れっぽい。
 そしてそのたびにちゃんとアタックして、勝率は30パーセントだという。
 ちなみに私は、と言えば。
 勝率は50パーセントだ。
 過去に二人好きになって、一人と付き合ったことがあるのを言うのなら。
 今は誰も居ない。
 故郷を出てくる時に、ケンカ別れしてそれっきりだ。
 忙しい日々の中、思い出すこともなかったのだから、本当に好きだったのかも疑わしい。
 正直、何をもって「付き合う」というのか、私にはよく判らない。
 短大の時のクラスメートの中には、その定義を「一緒にいていちゃこらする」とした子も居たが(もっともその子はそんな言葉で表現はしなかったが)、私は首をひねった。
 ただこれだけは言える。

 恋愛は苦手だ。

 クラスメートがよく口にする、別れたのくっついたの、浮気したのコンパで見つけようだの、はっきり言って、面倒くさい。
 けど口にしたことはない。
 そう言ってしまえば、それこそクラスメートの間では、自転車にわざわざ乗ってきた子同様、同情と優越感と、そして一抹の不安を感じさせる視線で見られる。
 そんなことを私はつい読んでしまう。
 そう、優越感というのは確実にある。
 自転車の子に対しても、だいたい皆まずこう言うのだ、雨風の日には。

「こんな日には大変よね」

 すると自転車の子は首を傾げた。
 何故そう言われているのか、判らないのだ。
 すると問う方も期待はずれで困った顔をする。
 問いかけた方は、心配を全くしていない訳ではないだろうが、そうだね大変だよ、という答えを期待しているのだ。
 そう言われて安心するのだ。
 自分達の行動は正しいんだ、と。
 だが、彼女達の期待通りの答えはまず返って来ない。
 自転車に乗って来る子にとって、雨も風も、下手すると台風も雪も、それは予想されていることだし、そんなこと承知で走っているのだ。
 確かに大変かもしれないが、言われる程のことではないのだ。
 本人に聞いたのだから間違いない。
 彼女はその時にはその時仕様の恰好と時間を用意していたし、台風になど巡り会った日には、追い風で馬鹿みたいに進む、とはしゃいでいたものだ。
 ただ私は彼女と違って、そんな視線の意味をつい読んでしまうので、自分がその立場になることはできない。
 だから一応口は合わせてきた。
 それでも一応「付き合って」きた男は居たのだから。
 その誰かの定義の様に。
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