どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

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56 暖かくなってきた頃

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 また冬を越えた。

 相変わらず寒い日はあったし、そのたびに目覚めの早い朝だってあった。だけど前の年よりはましだ、と私は思っていた。
 白くペンキで塗られた同じ形の立方体ボックス家具の中には、カラフルだけど鮮やかすぎない背表紙の料理の本が並んでいる。
 サラダの見る夢が、それでもじわじわと私の中に染み込んでいるのは確かだ。
 夢は見たい。それが実現するかどうかは判らなくても、夢見ることはいいことだ。
 少なくとも、その時の私の気持ちは暖かくなる。
 無論、実現させるために動かなくては、夢はただの夢想に過ぎない。
 まだ夢想の段階だ。
 それが「まだ」という段階で言えるのか、永遠に夢想のままなのか、それすらも判らない。
 ただ、夢想に終わるにしても、知識や技術を取り込んでおくことは悪くないはずだ。

 月曜の朝。
 昨日はサラダと丸一日、遊んだ。
 土曜の夜にごはんを食べて、泊まっていって、日曜の朝にコーヒーを呑んで。
 お昼には買い物に出た。
 彼女のこの日のお目当ては、家具だった。無論買う訳ではない。
 物色だ。
 新しいけれど、シンプルでリーズナブルな価格の家具を売っているチェーン店や、あちこちのリサイクルショップやセンターをはしごした。
 リサイクルショップでは、小さなものを買い込んだりもしている。例えばダストボックスになりそうなブリキ缶。たとえばセットだっただろうガラスびん。
 暖かくなりかけたばかりの街を意味があるんだかないんだか判らない話をとりとめもなくしながら、二人して歩いた。
 疲れたら目についたカフェで休んで、持っていたポラロイドカメラでのシャッターを押す。
 適当にとった写真というのは、結構後で見て、味があったりするものだ。
 いつの間にかどっさりと増えてしまった荷物を手に、夜はまた一緒に作った。
 サラダもここのところ、割と自分で料理するようになったらしく、覚えたばかり、というパスタの新作を作ってくれた。

「あたしさあ」

 かぼちゃクリームのパスタを口にしながら、彼女は切り出した。

「やっぱりこういう日が好きだなあ」

 しみじみと言うか。

「お天気はいいし、何か暖かくなってきたし」
「花もそろそろ咲くよね」
「今年はお花見に行こうよ。お弁当持ってさあ。花の写真も撮ろうね」
「でも公園とかだと花見客がうるさいよ」
「そしたらそういうとこじゃなくて、もっと地味なとこでさ。ねえ、美味しい食事と、友達と、だらだらとした時間。それが一番いいよね」
「そーだね」
「だから食後のコーヒーは入れてね」

 はいはい、と私は笑った。
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