どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

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47 あがいてもどうにもならない部分

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 夏が過ぎて、秋が来て、冬。

 兄貴達の活動は順調のようだった。
 私は時々ライヴも見に行ったが、差し入れもすることが増えていた。
 それはお菓子のこともあるが、たいがいは作り置きの料理。
 タッパーに総菜やら酒のつまみになるようなものを詰めて、兄貴の部屋に届ける。
 兄貴は料理ができない訳ではないが、あまり味にこだわる方ではないので、簡単なもの以上に上達はしないらしい。
 「一皿の御馳走」という本が確か実家の台所にはあったが、奴の場合は「一皿の料理」だ。
 たとえばどんぶりもの。
 たとえば具だくさんのラーメン。
 まあそれはそれで悪くはないのだが、いかんせんやっぱり「食ってるだけ」という印象は否めない。

 それに加えて、私はめぐみ君のことが気になっていたのだ。
 結局彼もまた、兄貴のところへと転がり込んでいた。
 それもハコザキ君やのよりさんよりある意味タチが悪い。
 彼は専門学校に通っていたのだが、バンドに身を入れすぎて留年-休学というパターンになってしまった。
 その上、そのために家から仕送りを止められて、そのために家賃が払えない、と。
 もしかして見かけによらず、強引なところがあるのかもしれない、と私は思いだしていた。

 兄貴は、と言えば相変わらずのマイペースだった。
 おそらくめぐみ君の方が、突っ走っている感がある。
 当初は兄貴の方がずいぶんと時間を掛けて彼をヴォーカルとして口説いたらしいのだが、気が付くとこのざまだ。
 何かもう、彼の視線でもって、兄貴のことをどう思っているのか、見えてしまうくらいだ。
 見ていて痛々しくなってくる。

 それでも長続きするとは、私は思っていなかったのだ。

 冬の間、私は、と言えば、会社では相変わらずだった。
 日々の仕事は何事もなく過ぎているように見えるが、それでも私の中にはじわじわと変化が起こり始めていた。
 あの上司は、と言えば、小さなミスで、私のことをじわりじわりといじめているように感じられる。

 こんなことが続くと、君が今までちゃんと作り上げてきた信用を落とすよ。

 もっともな意見だ。
 それはおそらく合っている。
 私がいつどんな状況でどんな気持ちでいてその結果ミスをしてしまおうが、そんなことは、会社において、仕事において何の意味もないことなのだ。
 そんなものだ。
 労働の代価として、給料をもらっているのだから、労働になっていない部分は、責められる。
 そういうものだ。とっても正しい。
 ただ正しいことを全て認められる程、私は大人ではない。
 身体も年齢も、社会的な位置としても、私はもうどうしようもなく、「大人」だ。
 それはどうあがいても変えようのない事実だ。
 だからと言って、無くしたくない部分も、確かにあるのだ。
 無くしてしまったほうが、ずっと楽になると判っているのに。だけど。
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