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42 「あたしとミサキさんでカフェとかできるんじゃない?」
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「うんやっぱりミサキさん料理上手いよ。どっかで習った?」
「ううん、自己流。うちじゃあね、あんまり料理させてもらえなかったから、こっちで覚えたよーなものだよ」
「嘘だあ」
「嘘だあはないでしょ」
「だったらやっぱり才能じゃないの? あたしは絶対このカンって奴が無いもん」
「でもこれはあんた作ったじゃない」
「レンジのタイミングを覚えていただけだもん。頼ってるよー。でもミサキさんだったら、レンジ無しでもちゃんとやるじゃない」
「そりゃあねえ、美味しく食べないと食べ物に悪いし」
「うん。あたしもそう思いたいけど。でもちょっとした塩加減とかは絶対才能だよ」
「そ、そう?」
そうあけすけに誉められると。
少し照れる。
「ねー、何かさあ、あたしとミサキさんでカフェとかできるんじゃない?」
「へ?」
何をいきなり言うのだ。
「あたしが接客と、インテリアと雑貨担当でー」
「ちょっと待ってよ、あたしだってインテリアは口出したいわよ」
「でも料理にも色々工夫は要るんだよお。カフェは日々が戦争だ、ってイケガキさんも言ってたし」
日々が戦争。
言われてつい、「恋愛が戦争」と言ってた彼女のことがよぎる。
どうしているだろう。
元気でやっているだろうか。
「そーいえば、最近おにーさんのバンド、順調?」
「や、ヴォーカルが抜けたから、何かそれからライヴやっていないんじゃない?」
―――そう言えば、彼女もだが、兄貴のバンドの方はどうなったのだろう。
*
「あー駄目駄目駄目」
ひらひらひらひら、とオズさんは手を顔の前で数回振った。
「って言うか、現在アタック中なんだよ」
「あ、じゃあ、一応次の目星はついてるんだ」
電話で私はオズさんを呼び出した。
彼のバイト先に近いコーヒーショップを指定した。
私は仕事が退けてから、彼はこれからバイトだった。
腹ごしらえも兼ねて、と彼はてりやきチキンのホットサンドに食らいついていた。
かなり美味しそうだ。
「まーね。奴が今バイトしている呑み屋に来た客でさ、デザイン系の専門学校に入ったばかりの子でさ」
「男? 女? 今度は」
彼はちら、とサンドごしに私を見た。
「男。そーだねえ、ハコザキよりもっと華奢なタイプかなあ。そりゃのよりちゃんと違って男だから何だけど」
「ふうん。じゃあまた兄貴の奴、その子にもイカレてるんだ」
「美咲ちゃん~」
ふう、と彼はため息をついた。
「だってそうでしょ?」
「そうなんだよなあ。まあ奴にあれこれ言ったって始まらないんだけど」
「それで、そのアタックは成功しそうかしら?」
「まあ俺としては、ヴォーカルが早く入ってくれるにこしたことはないし、できればそのヴォーカルに、長居して欲しいなあ、と思っているんだけど」
「ま、それはあたし達が何言ってもねえ」
やっぱり私もてりやきチキンサンドが欲しくなってきた。
この人の食べっぶりは何でこうも美味しそうなんだろう。
この店は客席が一つ一つ近くて、私にはいまいち居心地が悪い。
先日サラダが変な話をしたから、ついつい、あちこちのカフェだのコーヒーショップの内装だの、客の様子だの、メニューだのを気にするようになってしまった。
私だったら、もう少し席は離したい。
いや、ごちゃごちゃしたのが好きな人もいるだろうけど……
隣の話し声や気配が会話や食事を台無しにするような距離しか開いていないような場所は嫌だ。
適度に開いていて欲しい。
テーブルも無闇に小さいのは嫌だ。
周囲がうるさすぎて、よっぽどぐっと身を乗り出さなくては話が聞こえない、というのも困る。
向かい合った相手とは近く、だけど料理はちゃんと乗るような。
だとしたらどんなテーブルがいいんだろう……
「美咲ちゃん? 俺もうバイトあるんだけど」
「あ、ごめんなさい」
てりやきチキンサンドは、テイクアウトすることにした。
「今度兄貴に何か作ってく、って言っておいてくれない?」
「判った」
彼はじゃあね、と言ってバイト先へと向かった。
私はてりやきチキンサンドと、翌朝食べようとクランベリーとブルーベリーのスコーンをテイクアウトする。
歩きながら、スコーンも作ろうと思えば作れるのかもしれないとふと考えた。
そうしたら、つい足が本屋へと向いた。
綺麗な写真がふんだんに使われている料理の本のコーナーで、私はパン作りの本をつい買ってしまった。
他にも色々本はあった。
気が付かなかったが、カフェの料理の本も結構あるのだ。
まあそれは今度試してみよう、と私は思い、その時はそれだけ買って、部屋へと向かった。
「ううん、自己流。うちじゃあね、あんまり料理させてもらえなかったから、こっちで覚えたよーなものだよ」
「嘘だあ」
「嘘だあはないでしょ」
「だったらやっぱり才能じゃないの? あたしは絶対このカンって奴が無いもん」
「でもこれはあんた作ったじゃない」
「レンジのタイミングを覚えていただけだもん。頼ってるよー。でもミサキさんだったら、レンジ無しでもちゃんとやるじゃない」
「そりゃあねえ、美味しく食べないと食べ物に悪いし」
「うん。あたしもそう思いたいけど。でもちょっとした塩加減とかは絶対才能だよ」
「そ、そう?」
そうあけすけに誉められると。
少し照れる。
「ねー、何かさあ、あたしとミサキさんでカフェとかできるんじゃない?」
「へ?」
何をいきなり言うのだ。
「あたしが接客と、インテリアと雑貨担当でー」
「ちょっと待ってよ、あたしだってインテリアは口出したいわよ」
「でも料理にも色々工夫は要るんだよお。カフェは日々が戦争だ、ってイケガキさんも言ってたし」
日々が戦争。
言われてつい、「恋愛が戦争」と言ってた彼女のことがよぎる。
どうしているだろう。
元気でやっているだろうか。
「そーいえば、最近おにーさんのバンド、順調?」
「や、ヴォーカルが抜けたから、何かそれからライヴやっていないんじゃない?」
―――そう言えば、彼女もだが、兄貴のバンドの方はどうなったのだろう。
*
「あー駄目駄目駄目」
ひらひらひらひら、とオズさんは手を顔の前で数回振った。
「って言うか、現在アタック中なんだよ」
「あ、じゃあ、一応次の目星はついてるんだ」
電話で私はオズさんを呼び出した。
彼のバイト先に近いコーヒーショップを指定した。
私は仕事が退けてから、彼はこれからバイトだった。
腹ごしらえも兼ねて、と彼はてりやきチキンのホットサンドに食らいついていた。
かなり美味しそうだ。
「まーね。奴が今バイトしている呑み屋に来た客でさ、デザイン系の専門学校に入ったばかりの子でさ」
「男? 女? 今度は」
彼はちら、とサンドごしに私を見た。
「男。そーだねえ、ハコザキよりもっと華奢なタイプかなあ。そりゃのよりちゃんと違って男だから何だけど」
「ふうん。じゃあまた兄貴の奴、その子にもイカレてるんだ」
「美咲ちゃん~」
ふう、と彼はため息をついた。
「だってそうでしょ?」
「そうなんだよなあ。まあ奴にあれこれ言ったって始まらないんだけど」
「それで、そのアタックは成功しそうかしら?」
「まあ俺としては、ヴォーカルが早く入ってくれるにこしたことはないし、できればそのヴォーカルに、長居して欲しいなあ、と思っているんだけど」
「ま、それはあたし達が何言ってもねえ」
やっぱり私もてりやきチキンサンドが欲しくなってきた。
この人の食べっぶりは何でこうも美味しそうなんだろう。
この店は客席が一つ一つ近くて、私にはいまいち居心地が悪い。
先日サラダが変な話をしたから、ついつい、あちこちのカフェだのコーヒーショップの内装だの、客の様子だの、メニューだのを気にするようになってしまった。
私だったら、もう少し席は離したい。
いや、ごちゃごちゃしたのが好きな人もいるだろうけど……
隣の話し声や気配が会話や食事を台無しにするような距離しか開いていないような場所は嫌だ。
適度に開いていて欲しい。
テーブルも無闇に小さいのは嫌だ。
周囲がうるさすぎて、よっぽどぐっと身を乗り出さなくては話が聞こえない、というのも困る。
向かい合った相手とは近く、だけど料理はちゃんと乗るような。
だとしたらどんなテーブルがいいんだろう……
「美咲ちゃん? 俺もうバイトあるんだけど」
「あ、ごめんなさい」
てりやきチキンサンドは、テイクアウトすることにした。
「今度兄貴に何か作ってく、って言っておいてくれない?」
「判った」
彼はじゃあね、と言ってバイト先へと向かった。
私はてりやきチキンサンドと、翌朝食べようとクランベリーとブルーベリーのスコーンをテイクアウトする。
歩きながら、スコーンも作ろうと思えば作れるのかもしれないとふと考えた。
そうしたら、つい足が本屋へと向いた。
綺麗な写真がふんだんに使われている料理の本のコーナーで、私はパン作りの本をつい買ってしまった。
他にも色々本はあった。
気が付かなかったが、カフェの料理の本も結構あるのだ。
まあそれは今度試してみよう、と私は思い、その時はそれだけ買って、部屋へと向かった。
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