40 / 88
40 一ヶ月くらいのただ動いているだけの日々
しおりを挟む
無論それと判らないような生活はしている。
毎朝きちんと起きて、身なりを整え、会社へ行き、仕事をして帰ってくる。
そして帰ってきても、そこに人の気配は無い。
元に戻っただけだ。そう自分に言い聞かせる。
ずっとそうしてきたじゃないか。
キッチンで、のろのろと食事を作る。時には食べてくる。
時には出来合いを買ってきてレンジで温めるだけ。
それでも食事を抜くことはないし、無理な夜更かしもせずにベッドに入る。
もう季節も季節だから、寒いということはないのだけど。
寒いはずはないのだけど。
そんなことをぐだぐだと考えながらも、身体はそれとは無関係に動いている。
会社で電話を取れば、普段よりオクターブ声が高くなるし、作り笑顔だってできる。
年下のOLちゃんとお弁当を食べる時には、世間話や前日のTVの内容で笑い合うこともできる。
その一方で、それを無言で冷静に見ている私が居た。
どうして私は動いているんだろう。
ものを食べているんだろう。
話しているんだろう。
仕事ができるんだろう。
―――笑っているんだろう。
一ヶ月くらい、そんな状態が続いた。
自分が何を話したのか、何をしていたのか、具体的に思い出せ、と言われても、うまくいかないくらいに。
いや、その時でも、問われれば答えられるのだ。
ただ今こうやって自分自身に語って自分にとって、それはまるで、自分ではない誰かのしていることか、遠い何処かの世界のようなことに感じていたのだ。
身体と気持ちがずれていた。
それがようやく合ったのは、ゴールデンウイークが終わる頃だった。
実家方面にも今回は行かなかった。サラダが時々遊びに来たが、何かいつも首をひねっていたような気がする。
「ねえミサキさん、もう初夏なのよ」
初夏。
サラダに言われてようやく気付いたのだが、部屋の中が荒れていた。
初夏、という言葉に、窓の外を見たら、外の木々が思いっきり緑のもしゃもしゃになっていた。
あれ、といきなり焦点があったような気がした。
「いい加減模様替えしたほうが良くない?」
彼女は夏仕様に現在変更中なのだ、と言う。そして手にしていたコンビニの袋には、新発売らしいゼリーが数種類入っていた。
焦点が合った頭と目で自分の部屋を見渡したら、確かにひどかった。
TVにもコンポにもほこりが積もっていた。
カーテンは冬仕様の厚手のものだったし、いつまで私は毛布を何枚も出しているんだろう。
ゴミはちゃんと捨ててはいたようだが、キッチンのシンクのすみにはぬるぬるとしたものがついたり、ステンレスが曇ったりしている。
何でこれで平気でいたのか、よく判らない。
「確かにひどいわ」
「でしょ? 何度も言ったのに、ミサキさんずっと生返事で」
「そ…… うだった?」
「そーよ」
サラダは大きくうなづいた。
「掃除…… しなくちゃ。うん。今からしよう」
「うん。じゃあ今日は終わったら、夕ご飯ごちそうしてね」
「え?」
「一ヶ月もミサキさんのごはん食べてないのよー。あたし」
「……ああ…… でもあんた、彼氏は?」
「だーかーらー、言わなかった? 一番最近のは、先週別れたって」
「忘れてた」
「まーったくもぉ。えーと、冷蔵庫もひどいから、買い物行くよね?」
慌てて開けてみると、確かにひどかった。
「一緒に行こうよ。あたしリクエストしていい?」
無論そこで断れる訳が無かった。
毎朝きちんと起きて、身なりを整え、会社へ行き、仕事をして帰ってくる。
そして帰ってきても、そこに人の気配は無い。
元に戻っただけだ。そう自分に言い聞かせる。
ずっとそうしてきたじゃないか。
キッチンで、のろのろと食事を作る。時には食べてくる。
時には出来合いを買ってきてレンジで温めるだけ。
それでも食事を抜くことはないし、無理な夜更かしもせずにベッドに入る。
もう季節も季節だから、寒いということはないのだけど。
寒いはずはないのだけど。
そんなことをぐだぐだと考えながらも、身体はそれとは無関係に動いている。
会社で電話を取れば、普段よりオクターブ声が高くなるし、作り笑顔だってできる。
年下のOLちゃんとお弁当を食べる時には、世間話や前日のTVの内容で笑い合うこともできる。
その一方で、それを無言で冷静に見ている私が居た。
どうして私は動いているんだろう。
ものを食べているんだろう。
話しているんだろう。
仕事ができるんだろう。
―――笑っているんだろう。
一ヶ月くらい、そんな状態が続いた。
自分が何を話したのか、何をしていたのか、具体的に思い出せ、と言われても、うまくいかないくらいに。
いや、その時でも、問われれば答えられるのだ。
ただ今こうやって自分自身に語って自分にとって、それはまるで、自分ではない誰かのしていることか、遠い何処かの世界のようなことに感じていたのだ。
身体と気持ちがずれていた。
それがようやく合ったのは、ゴールデンウイークが終わる頃だった。
実家方面にも今回は行かなかった。サラダが時々遊びに来たが、何かいつも首をひねっていたような気がする。
「ねえミサキさん、もう初夏なのよ」
初夏。
サラダに言われてようやく気付いたのだが、部屋の中が荒れていた。
初夏、という言葉に、窓の外を見たら、外の木々が思いっきり緑のもしゃもしゃになっていた。
あれ、といきなり焦点があったような気がした。
「いい加減模様替えしたほうが良くない?」
彼女は夏仕様に現在変更中なのだ、と言う。そして手にしていたコンビニの袋には、新発売らしいゼリーが数種類入っていた。
焦点が合った頭と目で自分の部屋を見渡したら、確かにひどかった。
TVにもコンポにもほこりが積もっていた。
カーテンは冬仕様の厚手のものだったし、いつまで私は毛布を何枚も出しているんだろう。
ゴミはちゃんと捨ててはいたようだが、キッチンのシンクのすみにはぬるぬるとしたものがついたり、ステンレスが曇ったりしている。
何でこれで平気でいたのか、よく判らない。
「確かにひどいわ」
「でしょ? 何度も言ったのに、ミサキさんずっと生返事で」
「そ…… うだった?」
「そーよ」
サラダは大きくうなづいた。
「掃除…… しなくちゃ。うん。今からしよう」
「うん。じゃあ今日は終わったら、夕ご飯ごちそうしてね」
「え?」
「一ヶ月もミサキさんのごはん食べてないのよー。あたし」
「……ああ…… でもあんた、彼氏は?」
「だーかーらー、言わなかった? 一番最近のは、先週別れたって」
「忘れてた」
「まーったくもぉ。えーと、冷蔵庫もひどいから、買い物行くよね?」
慌てて開けてみると、確かにひどかった。
「一緒に行こうよ。あたしリクエストしていい?」
無論そこで断れる訳が無かった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる