どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

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40 一ヶ月くらいのただ動いているだけの日々

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 無論それと判らないような生活はしている。
 毎朝きちんと起きて、身なりを整え、会社へ行き、仕事をして帰ってくる。
 そして帰ってきても、そこに人の気配は無い。
 元に戻っただけだ。そう自分に言い聞かせる。
 ずっとそうしてきたじゃないか。
 キッチンで、のろのろと食事を作る。時には食べてくる。
 時には出来合いを買ってきてレンジで温めるだけ。
 それでも食事を抜くことはないし、無理な夜更かしもせずにベッドに入る。
 もう季節も季節だから、寒いということはないのだけど。

 寒いはずはないのだけど。

 そんなことをぐだぐだと考えながらも、身体はそれとは無関係に動いている。
 会社で電話を取れば、普段よりオクターブ声が高くなるし、作り笑顔だってできる。
 年下のOLちゃんとお弁当を食べる時には、世間話や前日のTVの内容で笑い合うこともできる。
 その一方で、それを無言で冷静に見ている私が居た。

 どうして私は動いているんだろう。
 ものを食べているんだろう。
 話しているんだろう。
 仕事ができるんだろう。
 ―――笑っているんだろう。

 一ヶ月くらい、そんな状態が続いた。
 自分が何を話したのか、何をしていたのか、具体的に思い出せ、と言われても、うまくいかないくらいに。
 いや、その時でも、問われれば答えられるのだ。
 ただ今こうやって自分自身に語って自分にとって、それはまるで、自分ではない誰かのしていることか、遠い何処かの世界のようなことに感じていたのだ。
 身体と気持ちがずれていた。

 それがようやく合ったのは、ゴールデンウイークが終わる頃だった。
 実家方面にも今回は行かなかった。サラダが時々遊びに来たが、何かいつも首をひねっていたような気がする。

「ねえミサキさん、もう初夏なのよ」

 初夏。

 サラダに言われてようやく気付いたのだが、部屋の中が荒れていた。
 初夏、という言葉に、窓の外を見たら、外の木々が思いっきり緑のもしゃもしゃになっていた。
 あれ、といきなり焦点があったような気がした。

「いい加減模様替えしたほうが良くない?」

 彼女は夏仕様に現在変更中なのだ、と言う。そして手にしていたコンビニの袋には、新発売らしいゼリーが数種類入っていた。
 焦点が合った頭と目で自分の部屋を見渡したら、確かにひどかった。
 TVにもコンポにもほこりが積もっていた。
 カーテンは冬仕様の厚手のものだったし、いつまで私は毛布を何枚も出しているんだろう。
 ゴミはちゃんと捨ててはいたようだが、キッチンのシンクのすみにはぬるぬるとしたものがついたり、ステンレスが曇ったりしている。
 何でこれで平気でいたのか、よく判らない。

「確かにひどいわ」
「でしょ? 何度も言ったのに、ミサキさんずっと生返事で」
「そ…… うだった?」
「そーよ」

 サラダは大きくうなづいた。

「掃除…… しなくちゃ。うん。今からしよう」
「うん。じゃあ今日は終わったら、夕ご飯ごちそうしてね」
「え?」
「一ヶ月もミサキさんのごはん食べてないのよー。あたし」
「……ああ…… でもあんた、彼氏は?」
「だーかーらー、言わなかった? 一番最近のは、先週別れたって」
「忘れてた」
「まーったくもぉ。えーと、冷蔵庫もひどいから、買い物行くよね?」

 慌てて開けてみると、確かにひどかった。

「一緒に行こうよ。あたしリクエストしていい?」

 無論そこで断れる訳が無かった。

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