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28 皆でベーグルの朝食
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ぴんぽんぴんぽん。
チャイムの音で私は我に返る。
そうだサラダが来るんだった。
「用意できたよー。あれー?」
ひょい、と彼女は玄関から奧をのぞきこんだ。
「あれ、お客さん居たの?」
「ま…… あね。だから一緒に、と思って」
「ふうん」
両眉がひょい、と上がる。
「あ、見覚えあるひとだー」
「ほら、あんたも知ってるでしょ、兄貴のバンドの、ヴォーカルの」
「元ヴォーカルだよ」
彼は即座に訂正した。
「ふうん。何だか判らないけど、まあいいか。とにかく行くなら行こうよ。あんまりお昼に近くなると、混むよー」
それはそうだ。
彼女は正しい。
*
三人分の場所をキープしてから、私達はカウンターに注文しに行った。
コーヒー豆とスコーンを幾つかテイクアウトにして、ブランチ代わりのベーグルサンドを、「今日のコーヒー」と一緒に頼む。
ミルクをたくさん、が私の趣味だ。
「おまたせー」
サラダはシナモンのスコーンと、ハコザキ君があまりの甘さに参ったラテをトレイに載せていた。
その彼、こんな店なのに、リーフティだった。
「ちょっと昨夜飲み過ぎたからね」
そう言って笑う。
あまりこのひとを昼間に見たことは無かったが、改めて見ると、結構整った顔をしている。
顔も小さいし、全体的にこぢんまりとまとまってるんだなあ、と感心する。
兄貴のバンドのヴォーカリストとしてしか認識していなかったから何だが、そのバンドの続きで身につけているTシャツと皮パンが、馬鹿馬鹿しい程似合わない。
うーむ。
「それでサラダ、ペンキ塗りは済んだの?」
「うんだいたい。どうせこれで乾かさなくちゃならなかったから、ちょーど良かった」
言いながら、両手に持ったスコーンにさく、とかぶりつく。
「あたしはブルーベリーの方が好きだな」
「あたしもどっちも好きだよ。チョコチップもいいよね」
「あれはちょっと甘過ぎ」
「菓子なんだもん。甘すぎるくらいの方がいいよ」
そういうものかな、とハコザキ君は半ば呆れたようにつぶやいた。そーだよ、とサラダはほとんど初対面の彼に、あっさりと答えた。
「よく『甘さひかえめ』とか言うじゃない、TVのグルメ番組とか、ローカルなお店情報でさ。『甘味を抑えたヘルシーなデサートです』とかさ」
「それが気にくわないの?」
「くわない」
どん、と彼女はテープルを叩いた。
「だって菓子って別に健康のために食ってるんじゃないもん。美味しいから、楽しいから食ってるんだよ。なのにそこにいちいちそんなリクツ付け加えて何が楽しいんだって言うの?」
「甘すぎるのが好きじゃないひとだって居るじゃない」
「でも菓子の基本は甘いことなのよっ」
チャイムの音で私は我に返る。
そうだサラダが来るんだった。
「用意できたよー。あれー?」
ひょい、と彼女は玄関から奧をのぞきこんだ。
「あれ、お客さん居たの?」
「ま…… あね。だから一緒に、と思って」
「ふうん」
両眉がひょい、と上がる。
「あ、見覚えあるひとだー」
「ほら、あんたも知ってるでしょ、兄貴のバンドの、ヴォーカルの」
「元ヴォーカルだよ」
彼は即座に訂正した。
「ふうん。何だか判らないけど、まあいいか。とにかく行くなら行こうよ。あんまりお昼に近くなると、混むよー」
それはそうだ。
彼女は正しい。
*
三人分の場所をキープしてから、私達はカウンターに注文しに行った。
コーヒー豆とスコーンを幾つかテイクアウトにして、ブランチ代わりのベーグルサンドを、「今日のコーヒー」と一緒に頼む。
ミルクをたくさん、が私の趣味だ。
「おまたせー」
サラダはシナモンのスコーンと、ハコザキ君があまりの甘さに参ったラテをトレイに載せていた。
その彼、こんな店なのに、リーフティだった。
「ちょっと昨夜飲み過ぎたからね」
そう言って笑う。
あまりこのひとを昼間に見たことは無かったが、改めて見ると、結構整った顔をしている。
顔も小さいし、全体的にこぢんまりとまとまってるんだなあ、と感心する。
兄貴のバンドのヴォーカリストとしてしか認識していなかったから何だが、そのバンドの続きで身につけているTシャツと皮パンが、馬鹿馬鹿しい程似合わない。
うーむ。
「それでサラダ、ペンキ塗りは済んだの?」
「うんだいたい。どうせこれで乾かさなくちゃならなかったから、ちょーど良かった」
言いながら、両手に持ったスコーンにさく、とかぶりつく。
「あたしはブルーベリーの方が好きだな」
「あたしもどっちも好きだよ。チョコチップもいいよね」
「あれはちょっと甘過ぎ」
「菓子なんだもん。甘すぎるくらいの方がいいよ」
そういうものかな、とハコザキ君は半ば呆れたようにつぶやいた。そーだよ、とサラダはほとんど初対面の彼に、あっさりと答えた。
「よく『甘さひかえめ』とか言うじゃない、TVのグルメ番組とか、ローカルなお店情報でさ。『甘味を抑えたヘルシーなデサートです』とかさ」
「それが気にくわないの?」
「くわない」
どん、と彼女はテープルを叩いた。
「だって菓子って別に健康のために食ってるんじゃないもん。美味しいから、楽しいから食ってるんだよ。なのにそこにいちいちそんなリクツ付け加えて何が楽しいんだって言うの?」
「甘すぎるのが好きじゃないひとだって居るじゃない」
「でも菓子の基本は甘いことなのよっ」
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