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17 神様は私達きょうだいから音楽の才能をすっぱり分けてしまった
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今までのつきあいの中で、きょうだいに関する話も出てきたことはない。
私が兄貴に関して話す時、いちいち驚いてみせる。
どうやら彼女は一人っ子らしい。
一人っ子がよく東京で一人暮らしをさせてもらえたなあ、と当初は思ったものだ。
私が東京に出られたのも、ひとえに兄貴が居たからだ。
彼は別に両親に対してどうこうしている訳ではない。
正直、勘当状態と言ってもいい。
だが私が放任されているのは、彼という存在があるからだ。
長男である彼は、とにかく居るだけで私の自由をくれた。
それと同時に確実にはじめから、私の何かを奪っていた訳だが。
まあそれはともかく、私が東京に就職を決めた時に母親に言ったこの言葉は効果的だったはずだ。
「兄貴を探すからね」
彼は居場所を全く実家に教えなかった。
そのまま七年その調子で居れば、失踪者として死亡届が出せそうなくらいに見事に姿をくらましていた。
まあそれは親の目から見て、だ。
私からしたら、網の張り場所は予想できたのだが。
人を雇ってまで探す気はなかったのだから当然だろう。
その程度には、「いつか帰ってくる」という気持ちが両親にはあったのだろう。
ふうん、と私はその様子を見て思ったものだ。ふうん。
「おにーさんはでも、よく彼女を変えてるんじゃない?」
「どうして?」
「や、そんな感じがしたから」
彼女はオレンジを刺す。
「好きもの?」
「ってゆーか、切ないギターだし」
へえ、と私は残ったミルクに濃い紅茶を注いだ。
「ミサキさんも何か楽器やればいいのに。暇つぶしできるよ」
「ざーんねんながら、その才能は無いの」
「そぉ?」
「そうなの」
そうなのだ。
どうやら神様は、私達きょうだいの遺伝子から、音楽の才能という奴をすっぱり分けてしまったらしい。
まあそれは他の部分にも言えることだ。
私にはたやすくできるデスクワークという奴が彼にはできない。
長時間集中することができる、という能力は共通している。
ただその方向が全く違っている。
両親の遺伝子の、どのあたりを私達はこうやって分割してしまったのだろう?
親父も母親も、若い頃のことは全く知らない。
もしかしたら音楽をやっていたことがあったのかもしれない。
もしかしたら、結構遊んでいたのかもしれない。
だけど彼等は言ったことが無い。
聞いたことも無い。
「小さい頃、ピアノとかオルガンとか習わされたりするじゃない。ああゆう奴、どうしても駄目でね」
「おにーさんは?」
「奴は『男の子』だったからね。そういうのは強制されなかったの」
「男の子だから、駄目なの?」
「ウチの母親は、割と子供をこう育てたい、という型があったみたいでね。あたしは小学校に上がったあたりで、オルガンやらない? ピアノ習いたくない? とか言われたのよね」
「習ったの?」
「一応ね。一年くらい。だけど駄目だったなあ。ピアノの先生が、いつも困った顔してたし」
何が駄目だったか、と言っても一口では言えない。
無論聞く音楽、歌う音楽は好きだったに違いない。
今の今まで。
ただ、それと実際に楽器を演奏する、というのは別だ。
指が全く動かなかった訳ではない。
そういう手先の部分は私は結構小器用にこなしていた。
では何が、と言えば。
「ピアノの先生が言ったのよね。何か困る、って」
「困る?」
「教えにくかったみたいよ」
「どういうこと?」
私は彼女のカップにも紅茶を注いだ。
「ああゆうのは、ちゃんとこうやってああやって、って習うにも手順があるみたいなんだって。だけどあたしはどんどん先に先に進んで行こうとしちゃうから」
「扱いが困った?」
「らしいね」
私が兄貴に関して話す時、いちいち驚いてみせる。
どうやら彼女は一人っ子らしい。
一人っ子がよく東京で一人暮らしをさせてもらえたなあ、と当初は思ったものだ。
私が東京に出られたのも、ひとえに兄貴が居たからだ。
彼は別に両親に対してどうこうしている訳ではない。
正直、勘当状態と言ってもいい。
だが私が放任されているのは、彼という存在があるからだ。
長男である彼は、とにかく居るだけで私の自由をくれた。
それと同時に確実にはじめから、私の何かを奪っていた訳だが。
まあそれはともかく、私が東京に就職を決めた時に母親に言ったこの言葉は効果的だったはずだ。
「兄貴を探すからね」
彼は居場所を全く実家に教えなかった。
そのまま七年その調子で居れば、失踪者として死亡届が出せそうなくらいに見事に姿をくらましていた。
まあそれは親の目から見て、だ。
私からしたら、網の張り場所は予想できたのだが。
人を雇ってまで探す気はなかったのだから当然だろう。
その程度には、「いつか帰ってくる」という気持ちが両親にはあったのだろう。
ふうん、と私はその様子を見て思ったものだ。ふうん。
「おにーさんはでも、よく彼女を変えてるんじゃない?」
「どうして?」
「や、そんな感じがしたから」
彼女はオレンジを刺す。
「好きもの?」
「ってゆーか、切ないギターだし」
へえ、と私は残ったミルクに濃い紅茶を注いだ。
「ミサキさんも何か楽器やればいいのに。暇つぶしできるよ」
「ざーんねんながら、その才能は無いの」
「そぉ?」
「そうなの」
そうなのだ。
どうやら神様は、私達きょうだいの遺伝子から、音楽の才能という奴をすっぱり分けてしまったらしい。
まあそれは他の部分にも言えることだ。
私にはたやすくできるデスクワークという奴が彼にはできない。
長時間集中することができる、という能力は共通している。
ただその方向が全く違っている。
両親の遺伝子の、どのあたりを私達はこうやって分割してしまったのだろう?
親父も母親も、若い頃のことは全く知らない。
もしかしたら音楽をやっていたことがあったのかもしれない。
もしかしたら、結構遊んでいたのかもしれない。
だけど彼等は言ったことが無い。
聞いたことも無い。
「小さい頃、ピアノとかオルガンとか習わされたりするじゃない。ああゆう奴、どうしても駄目でね」
「おにーさんは?」
「奴は『男の子』だったからね。そういうのは強制されなかったの」
「男の子だから、駄目なの?」
「ウチの母親は、割と子供をこう育てたい、という型があったみたいでね。あたしは小学校に上がったあたりで、オルガンやらない? ピアノ習いたくない? とか言われたのよね」
「習ったの?」
「一応ね。一年くらい。だけど駄目だったなあ。ピアノの先生が、いつも困った顔してたし」
何が駄目だったか、と言っても一口では言えない。
無論聞く音楽、歌う音楽は好きだったに違いない。
今の今まで。
ただ、それと実際に楽器を演奏する、というのは別だ。
指が全く動かなかった訳ではない。
そういう手先の部分は私は結構小器用にこなしていた。
では何が、と言えば。
「ピアノの先生が言ったのよね。何か困る、って」
「困る?」
「教えにくかったみたいよ」
「どういうこと?」
私は彼女のカップにも紅茶を注いだ。
「ああゆうのは、ちゃんとこうやってああやって、って習うにも手順があるみたいなんだって。だけどあたしはどんどん先に先に進んで行こうとしちゃうから」
「扱いが困った?」
「らしいね」
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