どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

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15 サラダと朝食①

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「おはよー……」

 かすれた声が耳元でした。
 おはよ、と私は返す。
 短い髪をぐちゃぐちゃに乱したサラダの顔が、間近にあった。
 ああそうだ、昨夜は泊まっていったんだっけ。
 ベッド生活で、客用のふとんなんて無い。
 彼女が食事したついでに泊まっていく時にはどうしてもそういうことになる。
 季節が季節だから、まあ悪いものではない。
 人の体温というものは、心地よいものだ。
 彼女はふとん生活者だ。
 起きるとそのふとんを丸めて、カバーを掛けてソファ代わりにしている。
 そしてやっぱり客用ふとんは無い。
 逆に私が彼女の所に泊まると、時々私はふとんからはみ出ている。
 ベッドの時には高さがあるんだ、という意識があるのだろうか、彼女の寝相は大人しい。
 ただ問題は一つある。
 私は実は少し前から目覚めている。
 だが身体を起こすことができない。
 抱きつかれているので、動けない。
 彼女のくせだった。
 ごめんごめん、と当初は言った。
 だが言ったところで、眠っている時のくせというものを変える訳にはいかない。
 まあいいか、と妥協したのは私の方だった。
 実際、抱きつかれているのはそう悪い感触ではない。
 女の子の身体はほわほわとして柔らかい。
 重いと言ったところで、男のそれとは違う。
 たださすがに、あんたは男にもそんなことをしているのか、と言ったことはある。
 するとこう答えた。

「人によるよー」

 私はその時にはさすがに首をかしげた。
 すると彼女は面倒くさそうに答えた。

「しつっこい人は、きらい」

 サラダはそれ以上は言わなかった。
 なるほど、そういう意味では、私はしつこさとは縁が無い。
 だいたいそういう仲ではないのだ。
 んー、とようやく腕を解くと、彼女は大きくのびをする。
 短いTシャツとショーツの間から、へそがのぞいた。
 私もようやくベッドから降りる。
 既に頭は覚めている。
 時計は十時半を指していた。
 昨夜はあれからずるずるとTVを見たり、他愛も無い話をして、気が付くと日付変更線を過ぎていた。
 そのうちに彼女がうとうととしだしたので、ベッドにうながした。
 シャワーを浴びて戻ると、既に彼女は夢の中だった。

 チン、とオーブントースターのタイマーが鳴る。
 問答無用でこんな朝はチーズトーストだった。
 ケチャップをたくさんつけているので、ピザトーストと言ってもおかしくはないくらいだ。
 ある時には、ピーマンやオニオンの薄切りや、ハムやベーコンの切れっ端も載せる。

「あたしさー、ここのケチャップ好き」

 昨日の食卓の続きで、布を掛けたままのテーブルに、大きなトレイを置く。
 トーストはそこに無造作に置く。
 三枚のトーストを半分に切った奴を、私達は適当に取って食べた。
 トーストは焼きたてがいい。
 さく、というあの感触がたまらない。

「何かさあ、ガーリックずいぶん効いてない?」
「効いてるよ。うちの母親が作った奴だから」
「へー、ケチャップって作れるんだ」
「何かねえ、町の婦人会か何かで、そういうのやるのもあるんだって」
「婦人会、ねえ」

 さくさくさく。
 口の回りをケチャップだらけにして、彼女は3/2枚目に手を出した。

「町内会みたいな奴、よねえ」
「ご町内の公民館活動って奴かなー。あたしもよくは知らないんだけど、あのひとはよくそのテの活動に顔出してたから」
「ふーん、活動的なんだあ」
「暇なのよ」

 さく。
 そしてミルクを一口。

「うちのおかーさんはそういうことはしなかったなー」
「へーえ?」

 珍しい。
 彼女が自分の母親のことを口にするのは。
 私はつとめてさりげなく疑問符を投げかける。

「手が荒れるよーなことは嫌いだった人なんだよねー」
「ふうん? 何か優雅じゃない」
「優雅、って言うのかなー、ああゆうの」

 肩をすくめる。
 あ、もうこれ以上話す気はないな。

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