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10 兄の現在のヴォーカルのひと
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「ハコザキ君の彼女、ってどういうひと?」
食器洗いが一段落したらしく、彼女は水道を止めた。
「どういうひとって」
「んー。ミサキさんから見てどういうひとかなあ、って」
「や、あたしも大して会ったことがある訳ではないけど」
それに。
正直、その二人が本当にちゃんと続いているのか、―――私には断言ができない。
と言うよりも。
「うん、可愛いひとだよ」
「へえ」
「ハコザキ君自体が、そんなに背が高い方じゃないけどさ、少しそれより小さいくらいだから、可愛らしいカップルだなあ、って思ったことがあるけど」
「確かに小柄と言えば小柄だよね。でも声とか大きかったよね」
「まーね。兄貴の奴は声にはうるさいから」
違う。
「声には?」
「そ。奴はねー、ろくでなしだけど、音楽だけには厳しいから」
そう言いながら、違う、と私は自分につぶやいた。
声だけじゃないのだ。
サラダを連れていったライヴの日。
私は兄貴に少しばかりの用事があったので、終演後に会いに行った。
彼には私が寄って行くということは言っていなかった。
ハコザキ君には私のクローゼットからブラウスを貸していた。
それを引き取りに行ったのである。
ハコザキ君の彼女の「のより」さんは、彼より小柄なのでブラウスのサイズが合わない。
私は学生時代ずっと運動系の部活をやっていたので、筋肉と肩幅が発達している。
女物のブラウスとは言え、男の彼が着ることができるサイズとなっていたのだ。
貸すのは構わなかったけれど、ちゃんとクリーニングして返してくれるのかまで保証はない。
だったら自分で引き取って洗濯した方がいい。
廊下で楽器ケースを運んでいた、ドラムスのオズさんに出会って、兄貴の居場所を訊ねた。
するとまだ着替え中、と控え室を指さした。
じゃあちょうどいい、と私は控え室に向かった。
ノックをしようとしたら、扉の隙間から薄暗い廊下に光が洩れていた。
着替えするのに不用心だよなあ、と思いながら、そっと私は中をのぞき込んだ。
そして数回、瞬きをした。
私のブラウスを着た誰かが、兄貴に抱きしめられていた。
それがどういう意味なのか、すぐには理解できなかった。
抱きしめられているだけではない。
ギターを弾く長い指が、そのブラウスの襟元から胸に入り込んでいる。
悪趣味な長い金髪が、むき出しになった誰かの汗ばんだ首筋に張り付いている。
その首筋が、動く。
顔がこちらを向く。
約二分、私は硬直していた。
私のブラウスを着ているのが誰なのか、その時ようやく思い出したのだ。
ちょっと待て。
代々のヴォーカルが、兄貴と付き合いがあったことは私も知っていた。
それはよくあることだ――と思っていた。
ただ、それまでの代々のヴォーカルは女であることが多かった。
どれも何処かよく似た声の。
食器洗いが一段落したらしく、彼女は水道を止めた。
「どういうひとって」
「んー。ミサキさんから見てどういうひとかなあ、って」
「や、あたしも大して会ったことがある訳ではないけど」
それに。
正直、その二人が本当にちゃんと続いているのか、―――私には断言ができない。
と言うよりも。
「うん、可愛いひとだよ」
「へえ」
「ハコザキ君自体が、そんなに背が高い方じゃないけどさ、少しそれより小さいくらいだから、可愛らしいカップルだなあ、って思ったことがあるけど」
「確かに小柄と言えば小柄だよね。でも声とか大きかったよね」
「まーね。兄貴の奴は声にはうるさいから」
違う。
「声には?」
「そ。奴はねー、ろくでなしだけど、音楽だけには厳しいから」
そう言いながら、違う、と私は自分につぶやいた。
声だけじゃないのだ。
サラダを連れていったライヴの日。
私は兄貴に少しばかりの用事があったので、終演後に会いに行った。
彼には私が寄って行くということは言っていなかった。
ハコザキ君には私のクローゼットからブラウスを貸していた。
それを引き取りに行ったのである。
ハコザキ君の彼女の「のより」さんは、彼より小柄なのでブラウスのサイズが合わない。
私は学生時代ずっと運動系の部活をやっていたので、筋肉と肩幅が発達している。
女物のブラウスとは言え、男の彼が着ることができるサイズとなっていたのだ。
貸すのは構わなかったけれど、ちゃんとクリーニングして返してくれるのかまで保証はない。
だったら自分で引き取って洗濯した方がいい。
廊下で楽器ケースを運んでいた、ドラムスのオズさんに出会って、兄貴の居場所を訊ねた。
するとまだ着替え中、と控え室を指さした。
じゃあちょうどいい、と私は控え室に向かった。
ノックをしようとしたら、扉の隙間から薄暗い廊下に光が洩れていた。
着替えするのに不用心だよなあ、と思いながら、そっと私は中をのぞき込んだ。
そして数回、瞬きをした。
私のブラウスを着た誰かが、兄貴に抱きしめられていた。
それがどういう意味なのか、すぐには理解できなかった。
抱きしめられているだけではない。
ギターを弾く長い指が、そのブラウスの襟元から胸に入り込んでいる。
悪趣味な長い金髪が、むき出しになった誰かの汗ばんだ首筋に張り付いている。
その首筋が、動く。
顔がこちらを向く。
約二分、私は硬直していた。
私のブラウスを着ているのが誰なのか、その時ようやく思い出したのだ。
ちょっと待て。
代々のヴォーカルが、兄貴と付き合いがあったことは私も知っていた。
それはよくあることだ――と思っていた。
ただ、それまでの代々のヴォーカルは女であることが多かった。
どれも何処かよく似た声の。
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