どうせなら日々のごはんは貴女と一緒に

江戸川ばた散歩

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8 高校のとき「付き合って」いたひと

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 出会ったのは高校時代だった。
 ただ学校は違った。
 受験勉強のために、三年の夏、図書館の閲覧室をよく利用していた。
 その時の場所取りの列で退屈だったので話をしたのがきっかけだった。
 私と彼は話も合った。
 合ったからこそ「付き合って」いたのだ。
 読む本とか、聞く音楽とか、映画とか、そんな話をとりとめなくしていた様な気がする。
 正直、私はそれだけで良かった。
 楽しかったのだ。
 その頃、私は高校のクラスメートとも、何処か一線を置いていた。
 「友人」はだいたい他のクラスに居た。
 その方が気楽だった。
 クラスが違う子達は、だいたい話が合うから続くのである。
 彼にはそんな友人達と同じような気楽さがあった。
 だから私の意識の中では、彼は長いこと「男友達」だった。
 その位置を壊したのは彼だった。
 壊れてからも、私達の付き合いは続いていた。
 ただ、私の中では彼の存在は分裂していた。
 どうして昼間の楽しい「友達」が、夜、面倒くさい「恋人」というものにならなくてはならないのか、いまいち理解できなかった。

 いや、理解したくなかった。
 「友達」を無くすのが嫌だったから「恋人」ともずるずると付き合っていた。
 だけどそれはいつか終わるだろう、と予感のある付き合いだった。

 その読みは当たっていた。
 いや、読みというよりは、私自身が終わらせた、と言った方が正しいのだろう。
 私は地元の大学に進んだ彼が、そのまま地元の企業に就職したいタイプであることを知っていた。
 わざわざ口にしたことは無かったが、彼がそういうタイプであることは知っていた。
 兄貴とは逆だった。
 大学でも単位を一つも落としてなかった。
 追試も受けなかった。
 もしその授業を一度も受けたことが無かったなら、ノートを借りまくり、コピーを取りまくり、絶対落とさないタイプだった。
 兄貴だったら、本当に好きな科目だったら、自分の力だけでやって、たぶん落ちる。
 いや、別に兄貴がどうということではないのだが、彼はそういうタイプだった、ということだ。
 それはそれで、要領がいいということなのだろう。
 実際にはちゃんと授業には出ていた。
 ただ、そういうこともできただろう、と私は思うのだ。

 何だろう。
 だから、実際には「どの部分」が嫌だ、ということではないのだ。
 ただぼんやりと、「何か違う」ということが、自分の胸の中にたまってきた。
 ただ私も私だったので、それを口にはしていなかった。
 言っても判らないだろうとは何となく感じていた。
 何だろう。
 言葉が通じない、という気持ちが私の中には確実にあった。
 それはあきらめに近い。

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