29 / 40
28.「何でそんな『計画的な』ことが何年も起こっている?」
しおりを挟む
「まず何で日名が殺されたか」
高村は首を横に振った。
「これはさっぱり判らない。君には判るか?」
「いいえ」
山東も同じ様に首を横に振る。
「ただ、週末、大学の友人達に聞いてみたんですよ。ざっと二十人位」
「すごいな」
「と言っても、クラスメート、ですがね」
日名や遠野の様な親しい友人ではないのだ、と彼は暗に含めていた。
「やっぱり何処の学校でも、一年に一人は、何処かの学年で、『転校』する奴が居たそうです。それはまあ良くあることだ、と皆そう気にはしなかったんですが、ただ」
「ただ?」
ぐい、と高村は身を乗り出した。
「目立つ奴だった、ということです」
「目立つ奴? 君みたいな?」
「と言うか…… 何って言うんでしょうね……」
山東は言葉を探す。高村は何かヒントになる言葉は無いか、とまた言葉を探す。
「例えばさ、遠野さんは『スタア』で『ファン』が多かったじゃない。そういう感じ?」
「そうですね…… うん、多少それもある。ただ、それだけじゃないんですけど」
「と言うと?」
高村は眉を寄せた。
「日名は遠野程には人気は無いです。まあ、男にはもてましたがね。ただ、あいつがクラスで何かやらかすと、同じことがぱーっ、と広まるんだ、と自慢…… してましたね」
「ファッション・リーダー」
「あ、それです。そういう感じ」
そういうものなのか? と自分が口にしたに関わらず、高村はやや首を傾げた。
「ファッション、じゃないかもしれないけれど、クラスや部活の、何かそういった、良くも悪くも、そういう流行りを作り出してしまう奴…… だったそうですよ。その『転校』した奴と直接知り合いだった奴に聞くと」
何か呑みますか、と山東は言った。さすがに喉が乾き掛けてきたのだ。お茶がいいな、と高村は答えた。ふとその時、彼は森岡のことを思い出した。
「そう言えば、森岡先生と島村先生、って、同じ趣味持ってるんだなあ」
「同じ趣味?」
「折り紙」
「ああ、折り紙ですか」
「知ってた?」
はい、とコーヒーカップに緑茶を入れて渡しながら、山東はうなづく。
「そうですね…… 森岡さんの折り紙好きは有名ですから。で、それにあの珍しいもの好きの島村さんが」
「面白い、と」
ずず、と高村は茶をすすり、なるほどね、とつぶやいた。
「それでですね、高村さん」
再び座った山東は、ぐい、と身を乗り出した。
「その『転校』した奴の傾向が『ファッション・リーダー』だとすると、遠野はそれには当たらないんですよ」
「当たらない? でもファンは多いじゃないか。実際ボイコットする連中も」
「でもファン、って言うのは、所詮ファンですよ。それを好きな自分、って奴は忘れていません」
そう言えば、と高村は元部の態度を思い出す。遠くから見ているだけの「ファン道」もあると言った。
「だけどファッション・リーダーの場合、その人物を好きである必要はないんです」
そのあたりが日名と遠野の違いなのかもしれない、と山東は表現した。
「『転校』―――つまり、その場所から移動させられているのは、そのファッション・リーダー的な生徒です。だとしたら、遠野の『転校』は、もしかして、他のそれとは違うんじゃないでしょうか?」
「違う?」
と言うと? と高村は切り返した。
「例えば、口封じ」
さらり、と山東は言った。
「口封じ」
「ええ。『いつものこと』で終わらせようとしたのに、遠野が騒ぎ立てて、『いつものこと』にならなくなってしまった。俺達の関係を甘く見ていた向こうの『失敗』じゃないですか? これは」
うーん、と高村は腕を組んだ。
「遠野は『予定』に入っていなかった。だから、あいつのご両親は、学校に押し掛けてくるだけの時間があった。そう考えると、結構つじつまが合いませんか?」
「……かも、しれない。……ただ」
「ただ?」
「どうして、だろう?」
その言葉を、高村は吐き出した。
「誰が、だ? 何でそんな『計画的な』ことがあちこちで、何年も、起こっている? どうしてだ?」
山東は首を振り、真っ直ぐ高村を見据えた。
「高村さん、今はそれを考えては動けませんよ。その理由は、俺達が無い頭を絞って考えるより、相手に直接聞いた方が早い、と思いませんか?」
「相手に」
「おそらく、次の標的は、俺です」
おい、と高村は腰を浮かせた。だが淡々と、山東は続けた。
「それに、俺の場合、家族は遠方に居る。その位、きっと『向こう』は知っているでしょう。だったら、もう後は俺一人消せば、今回の件で騒ぎ立てる奴も居なくなるだろう、と思うんじゃないですか?」
「だけど生徒達は」
「『ファン』は、結局、自分のために相手を好きなだけですよ。泣いて、騒いで、それで終わりです。それでいい。だけど」
自分達は、そういう関係では無かったのだ、と山東は暗に含める。
「だから、こっちから仕掛けてみるつもりです」
「危険だ」
即座に高村は言った。
「承知です」
何を言われても。どう説得されても自分はてこでも動かない。そんな気迫が、山東の静かな口調からは、感じられた。
「OK。じゃあオレも何も言わない。オレは、何を手伝える?」
「いいんですか?」
「オレの問題でもある、ってさっき言ったろう?」
そうですね、と山東は笑った。共闘ですから、と。
高村は首を横に振った。
「これはさっぱり判らない。君には判るか?」
「いいえ」
山東も同じ様に首を横に振る。
「ただ、週末、大学の友人達に聞いてみたんですよ。ざっと二十人位」
「すごいな」
「と言っても、クラスメート、ですがね」
日名や遠野の様な親しい友人ではないのだ、と彼は暗に含めていた。
「やっぱり何処の学校でも、一年に一人は、何処かの学年で、『転校』する奴が居たそうです。それはまあ良くあることだ、と皆そう気にはしなかったんですが、ただ」
「ただ?」
ぐい、と高村は身を乗り出した。
「目立つ奴だった、ということです」
「目立つ奴? 君みたいな?」
「と言うか…… 何って言うんでしょうね……」
山東は言葉を探す。高村は何かヒントになる言葉は無いか、とまた言葉を探す。
「例えばさ、遠野さんは『スタア』で『ファン』が多かったじゃない。そういう感じ?」
「そうですね…… うん、多少それもある。ただ、それだけじゃないんですけど」
「と言うと?」
高村は眉を寄せた。
「日名は遠野程には人気は無いです。まあ、男にはもてましたがね。ただ、あいつがクラスで何かやらかすと、同じことがぱーっ、と広まるんだ、と自慢…… してましたね」
「ファッション・リーダー」
「あ、それです。そういう感じ」
そういうものなのか? と自分が口にしたに関わらず、高村はやや首を傾げた。
「ファッション、じゃないかもしれないけれど、クラスや部活の、何かそういった、良くも悪くも、そういう流行りを作り出してしまう奴…… だったそうですよ。その『転校』した奴と直接知り合いだった奴に聞くと」
何か呑みますか、と山東は言った。さすがに喉が乾き掛けてきたのだ。お茶がいいな、と高村は答えた。ふとその時、彼は森岡のことを思い出した。
「そう言えば、森岡先生と島村先生、って、同じ趣味持ってるんだなあ」
「同じ趣味?」
「折り紙」
「ああ、折り紙ですか」
「知ってた?」
はい、とコーヒーカップに緑茶を入れて渡しながら、山東はうなづく。
「そうですね…… 森岡さんの折り紙好きは有名ですから。で、それにあの珍しいもの好きの島村さんが」
「面白い、と」
ずず、と高村は茶をすすり、なるほどね、とつぶやいた。
「それでですね、高村さん」
再び座った山東は、ぐい、と身を乗り出した。
「その『転校』した奴の傾向が『ファッション・リーダー』だとすると、遠野はそれには当たらないんですよ」
「当たらない? でもファンは多いじゃないか。実際ボイコットする連中も」
「でもファン、って言うのは、所詮ファンですよ。それを好きな自分、って奴は忘れていません」
そう言えば、と高村は元部の態度を思い出す。遠くから見ているだけの「ファン道」もあると言った。
「だけどファッション・リーダーの場合、その人物を好きである必要はないんです」
そのあたりが日名と遠野の違いなのかもしれない、と山東は表現した。
「『転校』―――つまり、その場所から移動させられているのは、そのファッション・リーダー的な生徒です。だとしたら、遠野の『転校』は、もしかして、他のそれとは違うんじゃないでしょうか?」
「違う?」
と言うと? と高村は切り返した。
「例えば、口封じ」
さらり、と山東は言った。
「口封じ」
「ええ。『いつものこと』で終わらせようとしたのに、遠野が騒ぎ立てて、『いつものこと』にならなくなってしまった。俺達の関係を甘く見ていた向こうの『失敗』じゃないですか? これは」
うーん、と高村は腕を組んだ。
「遠野は『予定』に入っていなかった。だから、あいつのご両親は、学校に押し掛けてくるだけの時間があった。そう考えると、結構つじつまが合いませんか?」
「……かも、しれない。……ただ」
「ただ?」
「どうして、だろう?」
その言葉を、高村は吐き出した。
「誰が、だ? 何でそんな『計画的な』ことがあちこちで、何年も、起こっている? どうしてだ?」
山東は首を振り、真っ直ぐ高村を見据えた。
「高村さん、今はそれを考えては動けませんよ。その理由は、俺達が無い頭を絞って考えるより、相手に直接聞いた方が早い、と思いませんか?」
「相手に」
「おそらく、次の標的は、俺です」
おい、と高村は腰を浮かせた。だが淡々と、山東は続けた。
「それに、俺の場合、家族は遠方に居る。その位、きっと『向こう』は知っているでしょう。だったら、もう後は俺一人消せば、今回の件で騒ぎ立てる奴も居なくなるだろう、と思うんじゃないですか?」
「だけど生徒達は」
「『ファン』は、結局、自分のために相手を好きなだけですよ。泣いて、騒いで、それで終わりです。それでいい。だけど」
自分達は、そういう関係では無かったのだ、と山東は暗に含める。
「だから、こっちから仕掛けてみるつもりです」
「危険だ」
即座に高村は言った。
「承知です」
何を言われても。どう説得されても自分はてこでも動かない。そんな気迫が、山東の静かな口調からは、感じられた。
「OK。じゃあオレも何も言わない。オレは、何を手伝える?」
「いいんですか?」
「オレの問題でもある、ってさっき言ったろう?」
そうですね、と山東は笑った。共闘ですから、と。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった昔話
宵
ライト文芸
弁護士の三国英凜は、一本の電話をきっかけに古びた週刊誌の記事に目を通す。その記事には、群青という不良チームのこと、そしてそのリーダーであった桜井昴夜が人を殺したことについて書かれていた。仕事へ向かいながら、英凜はその過去に思いを馳せる。
2006年当時、英凜は、ある障害を疑われ“療養”のために祖母の家に暮らしていた。そんな英凜は、ひょんなことから問題児2人組・桜井昴夜と雲雀侑生と仲良くなってしまい、不良の抗争に巻き込まれ、トラブルに首を突っ込まされ──”群青(ブルー・フロック)”の仲間入りをした。病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった、今はもうない群青の昔話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~
浅葱
ライト文芸
小学生の頃、不注意で逃がしてしまったオカメインコと山の中の高校で再会した少年。
男子高校生たちと生き物たちのわちゃわちゃ青春物語、ここに開幕!
オカメインコはおとなしく臆病だと言われているのに、再会したピー太は目つきも鋭く凶暴になっていた。
学校側に乞われて男子校の治安維持部隊をしているピー太。
ピー太、お前はいったいこの学校で何をやってるわけ?
頭がよすぎるのとサバイバル生活ですっかり強くなったオカメインコと、
なかなか背が伸びなくてちっちゃいとからかわれる高校生男子が織りなす物語です。
周りもなかなか個性的ですが、主人公以外にはBLっぽい内容もありますのでご注意ください。(主人公はBLになりません)
ハッピーエンドです。R15は保険です。
表紙の写真は写真ACさんからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる