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2部 光希と夏向のそれから
学費
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(side光希)
込み上げそうな感情を必死に堪え、俺は冷静に聞いたつもりだった。が、しかしやっぱり抑えきれていなかったようで一層夏向は萎縮した。
「えっと、なんでって……。学費が払えないから」
夏向はおどおどとしながらも、詳しく話してくれた。
どうやら、職員室に呼び出されたあの日……そこで夏向は教師から、学費について今後どうするのか聞かれたらしい。
右代から支払われた学費は一学期まで。そして例の右代は今、あんな状況だから……勿論、夏向の学費など払えないだろう。夏向曰く、元々一学期で辞めるつもりでいたらしく、払うつもりも最初から無かっただろうが。
そして、今現在……夏向には学費を払う手段が無い。まあ、五羽都学園は金持ちの学校だから学費は高額だしな。しかし、この問題を解決するのは簡単なことだ。要するに。
「俺が払えば良いんだろう?簡単な話だ」
「やっぱり光希って何にも分かってない」
口を尖らせてそっぽを向く夏向に、俺は機嫌を直して欲しくて抱きつく。『もう』と夏向は言うけれど、大人しく抱きつかれたままでいるのは、俺の事を嫌ってない証拠だろう。
暫く堪能してから俺は夏向を離した。
「任されてる事業もあるから、そこそこ稼いでるよ。俺が開発した製品もあるし……。親に頼まなくても、夏向の学費くらい払えるから」
「違う。そういうことじゃない。あのね……光希」
「うん、聞いてるよ」
言いにくそうに、夏向は視線をそらせる。そして唾を飲み込み、口を開いた。
「対等って言わないじゃん……。そういうの」
「対等……?」
「僕、それを受け入れちゃったら、それこそ光希に逆らえなくなる。それってただの愛玩動物だよ」
そんなこと、前に言われた気がする。
αとΩの関係は……飼い主とペットの関係なのか。
夏向は俺と対等でいたいのだ。例え、愛玩動物でいることが一般的だとしても。
だから、俺自身が『それでいい』なんて言って夏向に愛玩動物でいることを強要したら、傷つけることになる。
夏向の強さを否定することになる。全く、夏向はずるい。強くて、ずるい。
「でも、俺は夏向と離れたくないんだ……」
「うん。それは僕も。光希と離れたくない。嫌だよ。でも今生の別れじゃないし」
「お金払うのが駄目なら、俺も学園をや……」
「駄目!!!!ダメダメダメダメ」
まだ『や』しか言ってないのに、夏向は手をバツ印にして拒否した。なんで俺の言いたいこと分かったんだろう。
「光希が辞める~なんて言い出したら、それこそ生徒たちに対する裏切りだから。だから、それは絶対駄目」
「選挙勝利直後だというのが、恨めしい……」
確かに夏向の言う通り、迂闊だった。それはαの責任放棄。両親や藍にも迷惑がいく。俺の将来だって、この時期の学校中退は約束されていた未来を放棄することになる。
高校三年生なのに受験勉強をしてないのは、この学園が大学までのエスカレーター式だからっていう理由だったりするし。
俺ならそこそこの大学には入れるだろうけれど……受験勉強って、また独特の勉強しなきゃなんないんだよな。志望校の過去問から、出やすい問題を重点的に解く~とか。
そういうのは将来に役立つ勉強かと言われればそうでも無い。
おっと、思考がそれた。
「じゃあ、この学園を辞めたら……夏向はどうするつもりだったのかな?」
「藍先輩に相談したら『じゃあ七世の御屋敷でバイトしたら?』って……」
俺は更に初耳で目を見開いた。
待ってくれ。それは藍め、副会長に推薦とか言いながら矛盾してないか。というか、夏向は藍には既に相談済みだったのか。くそったれ、俺はそんなにも信頼が無いのか。
「それは……俺の両親にも話を通したの?」
「まだ……。でも藍先輩曰く、きっと落ちることは無いって」
湧き上がる怒りを抑えて、更に質問する。
そりゃそうだろう。書類選考や面接で落としたら、俺が文句言いたいくらいだ。夏向を俺専用の付き人にしてやりたい。
……メイド服とか似合いそう。
って、また思考が逸れた。
込み上げそうな感情を必死に堪え、俺は冷静に聞いたつもりだった。が、しかしやっぱり抑えきれていなかったようで一層夏向は萎縮した。
「えっと、なんでって……。学費が払えないから」
夏向はおどおどとしながらも、詳しく話してくれた。
どうやら、職員室に呼び出されたあの日……そこで夏向は教師から、学費について今後どうするのか聞かれたらしい。
右代から支払われた学費は一学期まで。そして例の右代は今、あんな状況だから……勿論、夏向の学費など払えないだろう。夏向曰く、元々一学期で辞めるつもりでいたらしく、払うつもりも最初から無かっただろうが。
そして、今現在……夏向には学費を払う手段が無い。まあ、五羽都学園は金持ちの学校だから学費は高額だしな。しかし、この問題を解決するのは簡単なことだ。要するに。
「俺が払えば良いんだろう?簡単な話だ」
「やっぱり光希って何にも分かってない」
口を尖らせてそっぽを向く夏向に、俺は機嫌を直して欲しくて抱きつく。『もう』と夏向は言うけれど、大人しく抱きつかれたままでいるのは、俺の事を嫌ってない証拠だろう。
暫く堪能してから俺は夏向を離した。
「任されてる事業もあるから、そこそこ稼いでるよ。俺が開発した製品もあるし……。親に頼まなくても、夏向の学費くらい払えるから」
「違う。そういうことじゃない。あのね……光希」
「うん、聞いてるよ」
言いにくそうに、夏向は視線をそらせる。そして唾を飲み込み、口を開いた。
「対等って言わないじゃん……。そういうの」
「対等……?」
「僕、それを受け入れちゃったら、それこそ光希に逆らえなくなる。それってただの愛玩動物だよ」
そんなこと、前に言われた気がする。
αとΩの関係は……飼い主とペットの関係なのか。
夏向は俺と対等でいたいのだ。例え、愛玩動物でいることが一般的だとしても。
だから、俺自身が『それでいい』なんて言って夏向に愛玩動物でいることを強要したら、傷つけることになる。
夏向の強さを否定することになる。全く、夏向はずるい。強くて、ずるい。
「でも、俺は夏向と離れたくないんだ……」
「うん。それは僕も。光希と離れたくない。嫌だよ。でも今生の別れじゃないし」
「お金払うのが駄目なら、俺も学園をや……」
「駄目!!!!ダメダメダメダメ」
まだ『や』しか言ってないのに、夏向は手をバツ印にして拒否した。なんで俺の言いたいこと分かったんだろう。
「光希が辞める~なんて言い出したら、それこそ生徒たちに対する裏切りだから。だから、それは絶対駄目」
「選挙勝利直後だというのが、恨めしい……」
確かに夏向の言う通り、迂闊だった。それはαの責任放棄。両親や藍にも迷惑がいく。俺の将来だって、この時期の学校中退は約束されていた未来を放棄することになる。
高校三年生なのに受験勉強をしてないのは、この学園が大学までのエスカレーター式だからっていう理由だったりするし。
俺ならそこそこの大学には入れるだろうけれど……受験勉強って、また独特の勉強しなきゃなんないんだよな。志望校の過去問から、出やすい問題を重点的に解く~とか。
そういうのは将来に役立つ勉強かと言われればそうでも無い。
おっと、思考がそれた。
「じゃあ、この学園を辞めたら……夏向はどうするつもりだったのかな?」
「藍先輩に相談したら『じゃあ七世の御屋敷でバイトしたら?』って……」
俺は更に初耳で目を見開いた。
待ってくれ。それは藍め、副会長に推薦とか言いながら矛盾してないか。というか、夏向は藍には既に相談済みだったのか。くそったれ、俺はそんなにも信頼が無いのか。
「それは……俺の両親にも話を通したの?」
「まだ……。でも藍先輩曰く、きっと落ちることは無いって」
湧き上がる怒りを抑えて、更に質問する。
そりゃそうだろう。書類選考や面接で落としたら、俺が文句言いたいくらいだ。夏向を俺専用の付き人にしてやりたい。
……メイド服とか似合いそう。
って、また思考が逸れた。
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