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最終章 運命と幸せになりたい僕たち

明日

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(side夏向)
目が覚めたら、僕が入院している病室のベッドだった。自分の右手が何かに掴まれていたのに気づいて、ぎょっとして顔を横に向ける。
光希が僕の手を両手で掴みながら眠っていた。
光希の椅子は背もたれが無い椅子で、そうやって寝るの、中々大変なはずだ。足を組んで、首はたまに『こくん』と船を漕ぐ。そんなぶきっちょな光希の寝相を見ていたら、愛おしくなってしまった。僕も光希の手を強く握りしめ返す。

「おはよう……目が覚めたんだね。夏向」
「いや、あんたの方が寝てたし」

握り返した瞬間、光希が目を覚ました。僕と目が合う。
安心したように微笑む顔は、やっぱりかっこいい。そんなことを思っていたら、強く、光希に抱きしめられた。

「良かった」
「僕、どうなってたの?」
「五日……高熱で眠ってたんだ。目が覚めなかったら俺、どうしようかと思った」
「なにそれ、長!?」
「笑い事じゃない」

確かに、光希の言う通り。僕は僕の魅力なんか分かんないけど……光希からしたら、重大なことなんだろう。
そういえば、夢うつつだけれど、間の五日間の記憶はところどころある。
たまに目が覚めて……間に点滴を挟んで……そしてまた眠る。
きっと寝ている間も魘されていただろう。
ちなみに今は熱もひいて思考もハッキリしている。光希は僕の額に手を当てて、それを確認してから『ほっ』と息を吐いた。

促進剤も抑制剤も僕は飲み慣れてるし……その程度じゃ死なないってことは分かっていたけれど。でも光希にめちゃくちゃ心配かけたな、とその表情で悟る。

「生徒会長」
「夏向。俺は選挙に勝ったから……だから」

不満そうな光希の顔を見て気づく。ああそうか。寝てる間に五日たってるんだっけ?呼び名に込めた祈りは叶ったんだ。だからそれはもう必要の無いもの。
詳しいことは分からないけれど……光希は兄様に勝った。僕はもう、我慢しなくていいんだ。

「光希、愛してる」
「俺も、愛してるよ。夏向」

嬉しい。光希は嬉しそうに笑って、そして僕の顔にたくさんのキスを送る。くすぐったいけれど、嫌じゃない。光希だから。
ああそうだ、今ならいいかな。項に手を当てて、チョーカーを外した。これは僕の指紋認証で外れるチョーカーだ。
光希ならいい。今は発情期では無いけれど……でも、発情期だろうと光希なら番にして欲しい。
カチャリという音に光希は反応して、驚いたように首を傾げた。

「光希なら……構わないよ。今日でもいい。もう、僕は元気になったから……」
「夏向……。いいのかな、そのチョーカー」
「いい。むしろ、僕からお願いしたいくらい。光希。…………抱いて」

恥ずかしくて、掠れる位の声だけれど、それでも光希にはきちんと聞こえてたみたい。
僕は真っ赤になって、顔を手で抑える。
そんな僕に、光希は顔を僕の耳元に持ってきて囁いた。

「駄目だよ」

その言葉に、目の前が真っ暗になった。いざ僕を抱くとなったら、出来ないってことなのかな。光希なら喜んでくれると思ったのに……。
僕は見るからにしょんぼりしているであろう僕の耳に、光希は更に言葉を続けた。

「今日はまだ大人しくしてて。明日、抱くから。もう止めてあげないよ。覚悟してて」
「……え?」

ええっと、それって……。
なんてことを言うんだ。言葉の意味がわかった途端、更に顔が真っ赤になってしまう。発情はもうしてないはずなのに。
うう、狡い。光希は本当に狡い。

「……無理。明日まで待てない。光希がかっこよすぎる」
「絶、対、安、静。俺だって人間である以前にαという獣だってこと、忘れないでね」
「……へ?」
「早く、君を食べてしまいたい。ぐずぐずになって理性を失った夏向の首に牙をたてて……そして一生モノの首輪で縛り付けたい。発情期まで待つっつたのは誰だって話だよな。でも、明日まで待つのがギリギリ。夏向。発情期じゃなくても……君を抱いていいかな?」

優しく、光希は僕の項を前から撫でる。思わず、身震いした。光希の目が、カッコよく光った気がしたから。震えたけれど、怖いんじゃない。僕のΩとしての性が、歓喜に震えたんだ。

「僕を捨てない?」
「何震えてるの。捨てるわけ無いよ」
「一生?」
「そうだ。永遠に。俺の手で、君を幸せにしたい」
「僕も。ずっと光希のそばにいるよ。だから、『それ』をして。本当は今すぐにでもして欲しいけど。でも、明日まで待つから」
「ありがとう」

光希は僕の首筋に唇をよせる。ちくりとした痛みで肩がはねた。光希が僕の首筋に吸い付いたのだ。唇を離し、光希が囁く。

「今は、これで我慢だ」
「うん」

多分、見えないけれど。僕の首筋にキスマークがついたのだろう。光希が付けた、独占欲。
嬉しい。これは僕の居場所が、光希の隣だっていう証だ。あまりにも感極まった僕は大胆に光希の首に手を回した。

「明日はぜったい、抱いて」

そう、僕も光希の耳に囁く。光希が更に真っ赤になって『うぐぅ』と声を出したのはそれから一秒後のことだった。
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