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14 標的を殺したい僕、運命を守りたい俺
走れ
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(side光希)
時間は少し前に遡る。
俺は壮一郎の声で目が覚めた。
「そろそろ起きてくださいよ~」
「壮一……郎」
まだ完全に脳が覚醒していない。何度か瞬きを繰り返し状況を確認する。変わらない壮一郎の部屋。だけども睡眠薬を飲まされた時とは違って、窓から差し込む日差しは角度が急だ。
「もう、始まるんすよ。演説。ま、今から行っても間に合わないんすけどね」
「何故起こした?」
がばっと起き上がる。俺の様子を見ようと覗き込む壮一郎を睨んだ。
「何故って?あんたにチャンスをあげようかと思って。悠著にしている暇は無いっすよ」
「……君が俺を誘拐したのは、演説に出れないようにする為だろう」
「ああ、そんなこと言ったっけ。間違ってないけど、正確には違う。ユイ……『結野夏向を演説に引っ張り出して、全校生徒の前で発情させるため』っすよ」
「……なっ」
そこで俺は、俺を誘拐した意図の恐ろしさに気づく。俺が演説に出れないだけで、そこでこの話は終わりでは無いのだ。
俺の代わりに夏向が壇上に上がって、そして『運悪く』発情してしまったら。
『促進剤』とかいう、違法スレスレな薬物の存在を俺は知ってる。
悪い運だって人為的に作れてしまえる。
彼らはここまで非道だったか。
良く考えれば、夏向が一昨日話してくれた昔話だっておかしかったんだ。
夏向は言っていた。
『発情期から発情期までの二ヶ月間、発情しながら殺害する方法を身につける練習をした』と。通常では有り得ない。それは促進剤という、人為的な発情を促さないと出来ないことだ。
夏向が全校生徒の前で発情してしまえば言い訳が出来ない。
根も葉もない、Ωである夏向を陥れる噂はそのまんま、夏向の心情がどうであれ真実になってしまう。
それは夏向の心に深く傷を付けることになる。一生のトラウマになるかもしれない。
寝る前は手錠をかけられたが、起きた時には外れていた。俺は急いで壮一郎の部屋から体育館に向かう。普通に歩いたら十分はかかる道のりだ。くそっ。走りながらスマホを取り出した。
「もしもし藍?」
『みっくん、どこにいたの!?大丈夫?』
「大丈夫だ。今から向かう」
『あのね。犯人の特定と、その犯人と右代との繋がりの判明。それからそれ以外の違法な商売についての証拠も今掴めたみたい、今十夜様から送って貰ってる~』
いつの間に……。俺が捕まっている間にそこまでやってくれているのか。藍はやはり優秀だ。
でも、今はそれよりも聞きたいことがある。
「夏向は?俺の代わりをしてるだろ?」
『え、うん。そうだよ~。丁度今からみたい。あ、拍手の音聞こえる?』
よくよく耳を澄ますと、確かにパチパチパチと大勢が手を叩く音が聞こえた。
「分かった。ありがとう」
俺はそう言って通話を切る。今から正攻法で行って間に合わないかもしれない。校舎の方向にある窓から身を乗り出した。ここは三階。まあ、何とかなる。
窓から飛び降りて受身を取り、着地する。
また走り出した。大分時間短縮になったはずだ。それでもまだ、足りない。時間が、不安が、拭えない。走れ、走れ、走れ。自分に暗示をかける。
大丈夫だ。夏向。俺が守ってみせるから。
何があっても、絶対にだ。
時間は少し前に遡る。
俺は壮一郎の声で目が覚めた。
「そろそろ起きてくださいよ~」
「壮一……郎」
まだ完全に脳が覚醒していない。何度か瞬きを繰り返し状況を確認する。変わらない壮一郎の部屋。だけども睡眠薬を飲まされた時とは違って、窓から差し込む日差しは角度が急だ。
「もう、始まるんすよ。演説。ま、今から行っても間に合わないんすけどね」
「何故起こした?」
がばっと起き上がる。俺の様子を見ようと覗き込む壮一郎を睨んだ。
「何故って?あんたにチャンスをあげようかと思って。悠著にしている暇は無いっすよ」
「……君が俺を誘拐したのは、演説に出れないようにする為だろう」
「ああ、そんなこと言ったっけ。間違ってないけど、正確には違う。ユイ……『結野夏向を演説に引っ張り出して、全校生徒の前で発情させるため』っすよ」
「……なっ」
そこで俺は、俺を誘拐した意図の恐ろしさに気づく。俺が演説に出れないだけで、そこでこの話は終わりでは無いのだ。
俺の代わりに夏向が壇上に上がって、そして『運悪く』発情してしまったら。
『促進剤』とかいう、違法スレスレな薬物の存在を俺は知ってる。
悪い運だって人為的に作れてしまえる。
彼らはここまで非道だったか。
良く考えれば、夏向が一昨日話してくれた昔話だっておかしかったんだ。
夏向は言っていた。
『発情期から発情期までの二ヶ月間、発情しながら殺害する方法を身につける練習をした』と。通常では有り得ない。それは促進剤という、人為的な発情を促さないと出来ないことだ。
夏向が全校生徒の前で発情してしまえば言い訳が出来ない。
根も葉もない、Ωである夏向を陥れる噂はそのまんま、夏向の心情がどうであれ真実になってしまう。
それは夏向の心に深く傷を付けることになる。一生のトラウマになるかもしれない。
寝る前は手錠をかけられたが、起きた時には外れていた。俺は急いで壮一郎の部屋から体育館に向かう。普通に歩いたら十分はかかる道のりだ。くそっ。走りながらスマホを取り出した。
「もしもし藍?」
『みっくん、どこにいたの!?大丈夫?』
「大丈夫だ。今から向かう」
『あのね。犯人の特定と、その犯人と右代との繋がりの判明。それからそれ以外の違法な商売についての証拠も今掴めたみたい、今十夜様から送って貰ってる~』
いつの間に……。俺が捕まっている間にそこまでやってくれているのか。藍はやはり優秀だ。
でも、今はそれよりも聞きたいことがある。
「夏向は?俺の代わりをしてるだろ?」
『え、うん。そうだよ~。丁度今からみたい。あ、拍手の音聞こえる?』
よくよく耳を澄ますと、確かにパチパチパチと大勢が手を叩く音が聞こえた。
「分かった。ありがとう」
俺はそう言って通話を切る。今から正攻法で行って間に合わないかもしれない。校舎の方向にある窓から身を乗り出した。ここは三階。まあ、何とかなる。
窓から飛び降りて受身を取り、着地する。
また走り出した。大分時間短縮になったはずだ。それでもまだ、足りない。時間が、不安が、拭えない。走れ、走れ、走れ。自分に暗示をかける。
大丈夫だ。夏向。俺が守ってみせるから。
何があっても、絶対にだ。
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