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12 なんなんだ、この違和感は。
残り香
しおりを挟む(side光希)
寮の、壮一郎の部屋にたどり着く。
直ぐに壮一郎に手錠を嵌められて、睡眠薬を飲まされた。
けれどそれ以上の乱暴はされなかった。
睡眠薬はキツイやつで……俺は強制的に深い眠りへと誘われる。硬い床ではなくて、カーペットの上だけれど……ベッドに寝かせてくれなかった。初めてだよ、こんな経験は。
結構、お客さんとしては扱いが酷い。まあ……誘拐されてきたとしては、高待遇だろう。
俺が眠る直前、ベッドに座った壮一郎が口を開く。
「ぐっすりしてくださいよ。生徒会長はお疲れっすよね~」
「本当に、ムカつくなぁ」
「とか言いながら船漕いでますよ。これで安心して俺もぐっすり眠れます」
こくん、とつい船を漕いでしまって慌てて目を覚ます。ここで素直に寝てしまうと負けた気がする。今にも寝そうな目を擦りたいけれど……手錠のせいで出来なかった。
そんなギリギリの戦いをしていたけれど……ふと、右代春都のフェロモンの匂いがして、少しだけ眠気が収まる。
「右代春都はここにいるのかな?」
「ん、部屋ですか?寮に部屋を取ってますが、流石に別部屋ですよ。番以外同部屋とか許して貰えないですし」
「じゃあ何故、彼のフェロモンを……」
さすがに彼のフェロモンは間違えようのない。強いαのフェロモンは独特で、分かりやすいと言うけれど。
主旋律は心地の良いクラシックみたいな優しそうなフェロモンだ。けれどもよくよく聞くとノイズや不協和音が混ざってて、気分が悪くなるフェロモンは、彼のものだろう。
人間の形をした怪物みたいで、違和感が心を不安にさせる。
そんな右代春都のフェロモンを何故かここでは強く感じた。
「あーー残り香っすかね。ここ最近、俺に纏わりついてるかもしれないっす。もしかして室内だから強いのかなぁ」
そう言って壮一郎は自分の腕を嗅ぐ仕草をした。たしかに、壮一郎から臭ってる。けれどもβがαの匂いが分からないってどういうことだろう。残り香が着くほど匂いがキツイなら冷静ではいられないはずなのに。
眠たくて、質問すら出来ない俺の疑問を察したのか、壮一郎は笑った。
「ああ、俺はご主人様の匂いだけは慣れちゃったんで」
慣れる。それに至るまで、彼らの間にどれ程のものがあったのだろう。それを俺は察することが出来ないけれど。
ああ、だめだ。もう限界みたいだ。
「おやすみなさい。生徒会長サン」
俺が聞き取れたのはそれまでだった。
気がついたら、俺は深い眠りへと誘われた。
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